公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

暗躍する海賊の末裔(16)

 海洋国家ルグニカのスメラギ地方。
 そこは、リースノット王国から海を隔てること一週間の船旅を超えた場所に存在しており、古来より貿易の拠点として栄えてきた。
 そんなスメラギ地方を治めているのが、国を建国した際に存在していたと言われる7人の海賊の子孫であると言われている。
 現在では、建国200年を超えていることもあり、略奪などの海賊行為を行ってはいないが、代わりに国家主導で行われている事業が存在する。
 それが――。

「奴隷制度と、奴隷の売買ですか……」

 私は、良質な木材で作られたと思われる椅子に座りながら、両肘をテーブルについたまま深く溜息をつく。
 ミトンの町では、現在は奴隷制度は、以前に存在していた支配体制が崩壊した事と、私が女性と言うこともあり、奴隷制度に嫌悪感を抱くと忌避した業者の方が、ほとんど逃げてしまい奴隷というのは、存在はするけど取引売買は止まってる状態。

 今回、奴隷制度と書かれていた紙が回ってきたのは、海洋国家ルグニカの王女と私が決闘をすると言う話を聞いて、商売の弾みになればと拠点を作りにきた商人からの申し出の用紙。
 もちろん、現代の日本で暮らして転生してきた私にとって、奴隷制度と奴隷の売買は正直に言って人をモノとして売買する時点で、大変好ましくないものである。

「そうだ。奴隷という労働力を確保して酷使すれば、短期的に町に莫大な利益をもたらすはずだが……どうする?」
「どうすると言われても――」

 正直、古代史から近代史――つまり、労働者というものが格安で確保できる奴隷制度というのは、とても良く出来ていて南北アメリカのプランテーションと呼ばれていた農園を開墾、維持する際には多くの奴隷がアフリカ大陸から連れていかれた。
 しかも、その奴隷を売っていたのが同じアフリカに住んでいた黒人国家というのは、皮肉であると言える。

 そして、そのアフリカに存在していた国家は同じ民族を襲撃して従属させヨーロッパ各国に輸出して外貨を稼いで欧州から運ばれてきた武器を購入し、また自国の国家版図を広げるような真似をしていた。
 ただ、資源というのは有限であり、それは人という資源も例外ではなく。
 それは結果的に自国の衰退に繋がり、最後にはヨーロッパ各国から攻められ支配される結果を生んでしまう。

 だから、私としては奴隷制度というのは好まないし将来的に禍根しか産まない制度というのは賛成できない。

「そうですね……」

 私はレイルさんの言葉を聞きながら、さらに考える。
 現在のミトンでは、スメラギ地方を治める総督府と敵対関係になっており、長年貴族からの圧政に耐えてきた人から見れば小さいながらも支配を退け、200人の兵士を返り打ちにして、さらにはスメラギの総督府の令嬢をも人質としている状態――のように見える。

 ――なので……。

 最近では、貴族と仲が悪い商人からも面会というか取引の話が来てたりして面倒だったり。

「とりあえず、奴隷は必要ないですね」
「それだと、奴隷商人を敵に回すことにもなりかねないぞ? それに、町の発展などを含めて職人奴隷もいれば……」
「レイルさん――」

 私は、頬に掛かっていた髪の毛を背中に流してから、ミトンの町に存在する兵士を統括し、ミトン商工会議の大株主でもある彼に視線を向ける。
 彼の表情は真剣そのもので、そして奴隷の話について話をしているときも特に態度が変わったりするようなところは見受けられなかった。

 ただ、彼は私が奴隷制度に関して難色を示したことで、片眉を上げてメリットを上げてきたけど……。

「私は正直、奴隷制度に関しては良くないと思っています」

 ハッキリと自分の意思を告げることにする。
 そうしないと、おそらく長年行ってきた、奴隷制度という慣例に関して何が問題なのか理解してくれないと思ったから。

「それはどうしてだ?」
「考えてみてください。私達が利用する奴隷は、どこから連れてくるんですか?」
「それは、農村部からだろう? 税を払えない民を奴隷にして働かせて税を納めさせるのは国としては当然だろう?」
「当然ですか……」

 たしかに、奴隷商人が面会を求めてきている内容――その書類には、奴隷の売買が書かれていて仕入先も国内とセイレーン連邦に魔法帝国ジールと書かれている。

 他国のみならず自国の民までも奴隷にして使い潰す気があるのは……為政者としては短期的に見て正しいのかもしれないけど、私は――。

「ああ、ミトンの町を総督府スメラギに対抗できるほど大きな町にするためには戦える者も必要だし、多くのことに人手が必要になる!」
「……」

 なるほど――。
 ようやく理解した。
 彼と私の考えが、どこか根本的に違っているように、うすうす思っていたけど……。
 まさか……。
 海洋国家ルグニカと戦うことを考えていたとは思わなかった。

「レイルさん、聞いてください。スメラギ地方を治めている総督府と戦って勝利したとしましょう。そうすれば、いくら地方自治権を認めている海洋国家ルグニカの国王も、国家の威信というのがありますので、国が総出で攻めてくる可能性があります。そうなれば――」
「お前なら勝てるだろう?」
「……」

 勝てるかどうかと言えば……勝てるかもしれない。
 でも、勝てた後にどうするというのか?
 1万人ほどの小規模の都市が、100万人以上の人口を抱える国家を相手に戦争で勝利したとしても、その後はどうするのか?
 ハッキリ言って、一国の軍隊が本気で攻めてきた場合、私は手加減をすることは出来ない。
 そうすれば、数万、下手をすれば10万人よりももっと多くの兵士が死ぬことになりかねない。
 そうなったら、兵士として徴用された多くの若者や働き盛りの人間がいなくなった農村部がどうなるのか? と言ったら悲惨としか言えない状況になる。
 戦争に負けても貴族などの特権階級は良いかもしれない。
 奴隷制度という法があるのだから。
 きっと、消耗品のように人を使うのだろう。
 その先にあるのは、強者が弱者を食らう無秩序な国家。
 そうなったら、誰が一番最初に被害に合うのか。
 そんなのは火を見るより明らかであり、老人や女性や子どもが真っ先に被害にあう。

 そんなのは、私は耐えられない。

「レイルさん、私は誰もが安心して暮らせる世界が良いんです。戦争というのは勝てば終わりではありません。むしろ戦って勝ってからが重要になります。そして、私達には、この国を支えて運用するだけの力がありません」
「だからこそ、奴隷が必要なんだろう?」

 私は彼の言葉を否定するかのように首を振る。

「奴隷は、将来において絶対に禍根を持ちます」

 まして、この国だけではなく、この世界アガルタでは奴隷の扱いは、欧州が行った東南アジアの奴隷狩りと扱いよりも酷いのだ。
 購入して1年も生きていれば良いほう。
 大抵は半年で死ぬと、シュトロハイム公爵家でアプリコット先生に私は教わった。

 お母様やお父様は、仕方ないようなことを言っていたけど、私は人が人を傷つけて利益を貪るような方法には賛同できない。

「なら、どうするんだ?」
「奴隷商人に会って、話をしたいと思います」

 正直、会って話をしたいとも思わない。
 でも奴隷商人が居る限り、奴隷というのは減らないし相手の言い分も聞かないと判断がつかないことだってある。



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