公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

暗躍する海賊の末裔(13)

「ど、どど、どうしましょうか? めんどくさいことになるのは極力避けたいんですけど……」
「そんなことを言ってもなー……」

 地面に膝をつきながらレイルさんをチラッと見ると、彼は大きく溜息をついたあと、「やれやれ――」と小さく呟いていた。
 なんか、私がすごく駄目な子みたいな扱いをされてる気がする。
 そういうのは、心に思っても表面に出したらいけないと思うのですけど……。

「さて、どうしたものか――。お前が、自身のことを女神と言ったおかげで、周りを見てみろ」

 レイルさんの言葉に私も膝をついたまま、周りを囲んでいる見物客へと視線を這わせる。
 その方々の表情は、とても興奮している。
 何か、私が女神というよりも違う何かに期待しているような気配すら感じてしまう。

 ただ……「小麦の女神様!」とか「女神様!」とか「神様!」という声も聞こえてくるから全てでは無い気がする。
 でも、取り囲んでいる人から感じるのは暑苦しいまでの熱。
 ともすれば暴走すら起きそうな――。

「……うう。こ、これは予想外です……」

 私は一人呟きながら、どうしようか迷っていると、女性が呻く声が聞こえてくる。
 視線を向けると、「わ、私は……い、一体……ひぃいい」と言いながら私から距離を取ろうとする海洋国家ルグニカの第七王女エメラスさんの姿が。

「あの……大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫なわ……け……へ? どうして、生きて……え? で、でも……血がたくさん出たは……ず……ひいい」

 心配になって話しかけてみると、エメラスさんは私のことをまるで化け物か何かを見るような目で見てきたあと、呆けてしまい、さらに自身の両手が真っ赤に染まっていることを見て、また悲鳴を上げていた。

「エメラスさんって、本当に、色々と忙しい人ですね」
「お前が言うな! お前が!」

 私の横で、レイルさんが突っ込みを入れてくるけど、私は普段は物静かできちんと計画を立てて行動する紳士的な思考の持ち主なんですけど? なんですけど?

 大事なことなので2回くらい心の中で呟いておきましょう。

「こーろーせー」
「ん?」

 何やらおかしな声が……。
 チラリと見ると、あまり身なりのよろしくない方が、手を頭上に上げて「殺せ」と言い出した。
 それに釣られてからなのか、次々へと「殺せ!」という声が水面に石を投げ込んだ時にう起きる波紋のように大衆の中へと広がっていき――「殺せ!」というコールが辺りに響き渡る。

「貴族を殺せ!」
「俺たちの家族をむちゃくちゃにした貴族を殺せ!」
「贅沢な暮らしばかりして、俺たち家族を奴隷にする貴族を殺せ!」

 中には、貴族の横暴に怒りが爆発したモノなども含まれており、何と言うか……自業自得な気がしないでもないけど……。

「あまり、いい空気ではないですね」
「どうするんだ?」

 私の言葉にレイルさんは問いかけてくるけど、私にもどうしたらいいのか分からない。
 それに……。

 建国した当初から、王位簒奪レースが出来レースであったのなら建国以降、国民はずっと虐げられていた可能性だってあるし、それに奴隷制度というのは負の連鎖を作りだす。
 親から子へ、子から孫へと……。

 その怒りは、蓄積されていき淀んでいく。
 そして爆発した時に、それは暴走し多くの人や人生を狂わせる。

「正直、私には、この国の歴史は習いましたが、民草が実際には、どう扱われていたのかを知りません。ですから、共感することも理解することもできませんが……」

 レイルさんの言葉に答えながら、自分の中の考えを整理していく。

 ただ……。
 私には、この国の方々が――。
 どう思って……。
 どう感じて……。
 生活を送ってきたのか分からない。
 そんな私が、出した答えが、周囲の人々に受け入れられるかどうかは未知数であり、恐らくは机上の空論に過ぎないというのも分かってしまう。理解できてしまう。
 それでも――。

 先ほどまで、私を震えてみていたエメラスさんは、今度は周囲の「殺せ」という数千人もの民衆の合唱に恐怖を感じて体を震わせていた。

「コイツみたいな王族は、こういう悪意に晒されたことはないんだろう。……で! どうするんだ? 周りの民衆の言葉どおり殺すのか?」

 レイルさんの言葉に、私は肩を竦める。

「殺さないです。それに死んで罪から逃れるのは、簡単なことです。ですので……」

 私は、立ち上がりエメラスさんの傍に近づいてから片膝をつく。

「えっと、エメラス・フォン・ルグニカ様で、宜しかったでしょうか?」

 エメラスさんは、私に話しかけられると、こちらが驚くくらいビクッと反応して、ゆっくりと私を見てくる。
 表情を真っ青にしたまま、唇を震わせて「わ、わたし……し、しにたく……まだ、しにたく……」と、怯えて話してきて会話にならない。

「エメラスさん、貴女を殺すようなことはしません。それに、誰にもさせません」
「……え? た、たすけて……頂けるのですか?」

 彼女の言葉に私は小さく溜息をつく。
 そんな私の態度に――。

「で、ですけど……守って頂ける方もいませんし……。それに。こんなに取り囲まれてる状態で……」
「まずは、貴女は自分がどういう状況に置かれているか理解する必要があるかもしれないですね」
「え?」

 私は、立ち上がると彼女の頭に手を置きながら。

「静かにしてください!」

 私の一括により、周りが静まりかえる。
 ただ、何人かは文句を言っているようだけど、そんなのは知ったことか!

「決闘というのは、お互いの生死をかけて戦うことにあります! つまり! 生殺与奪の権利というのは勝者にあるわけです! つまり! 外野がとやかく言うのは筋違いです! それでも、勝者の権利である生殺与奪の権利を侵害したいというなら……」

 私は、右手を頭上に上げて無詠唱で「ファイアーボール」と叫び魔法を発動させる。
 上空に作られた直径100メートルを超えるファイアーボールを見て、決闘を見にきていた民衆が恐れおののくのが手に取るように分かる。

「私と決闘してみますか?」

 私はニコリと微笑みながら周囲を見渡しながら――。

「別に女神たる私と戦いたいという人がいるならいいですけど? いつでも! 相手になりますよ?」

 私の言葉は静まり返った決闘場に響き渡った。



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