公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

暗躍する海賊の末裔(11)

「ガヤガヤ」
「ザワザワ」

 周りの人の話声が多すぎて、もう声でなく雑音として聞こえてくる。
 時々、「小麦の女神様! ありがたや! ありがたや!」と聞こえてくることもあって、小心者の私としては、さっさと事務作業で良いから部屋に篭ってボーっとした後に、ベッドにダイブして寝たい。

「あの、レイルさん……。あまり大げさに宣伝されると後々が問題になるかと……」
「問題ない! 大丈夫だ! すでに大問題だから!」
「――あ……はい……」

 そう自信満々に言われると私としても大変困ってしまう。
 何せ、私には後ろ盾が無いのだ。
 あったとしてもアルドーラ公国との貿易をしているだけで、アルドーラ公国と海洋国家ルグニカの間には、南ローレンシア山脈の一部が横たわっていて、難所どころかドラゴンも住んでいるという魔境らしく、行き来もほぼ無いというか出来ない!
 ということで、アルドーラ公国と取引をしていても、私の後ろ盾に成り得るかと言えば、大変難しい。
 それなのに、レイルさんの自身満々な表情。
 もしかしたら、私を全面的に信頼してくれてる明かしなのかもしれない。
 でも一人だと、何とかするにも限度があるんだけど……。

「レイルさんは、自身満々で、とっても男らしいですよね?」
「そうだな」

 私の言葉にレイルさんは即答してきてくれる。
 やっぱり相当な自身があるのだろう。
 それは、私が大魔法師だからなのか、それとも無数のブラウニーさんを白色魔宝石で餌付けしているからなのか、はたまた別の要因からなのか分からないけど、何か根拠がありそう。



 小麦の女神という噂に騙された人々を引き連れたまま、ミトンの町―ー東門を潜り決闘の場所へと辿りつく。
 そこには、露出度が高い女性用の白い甲冑を着た美少女が立っていた。
 鎧は細かな意匠が施されており、所々、花の柄が描かれている。
 すごく高そうな鎧。
 売ったら高そう。

「待っていましたわ!」

 売ったときの値段を、頭の中で考えているとエメラス王女がいきなり大声で話しかけてきた。

「すごくやる気ですね……」
「あたりまえですわ! 貴族の流儀をまったく守らない貴女に! 貴族の! 流儀! というものを教えて差し上げますわ!」
「あー……。とってもめんどくさいです」
「何か言いました?」
「イ、イエ……」

 それにしても、決闘の場に来ていきなり話しかけられるとは思っていなかった。
 実際、形式ばって戦いになってーということを想像していたけど、まわりの1000人を超す観客を見る限り、誰もがパンを食べながら私とエメラス王女を見ている事から、こういう駆け引きのような話し合いも決闘のうちの一つと考えられてるみたいなのが分かる。
 正直、戦う相手と話をしてから、決闘するのは気が引けたりするんですけど……。

「それにしても……」

 エメラス王女は、呟きながら私の頭から足元まで見てくる。

「あなた、いくら魔法師と言っても私を舐めていますの? 使う武器は真剣ですのよ?」
「いえ、舐めてはいないです」
「杖も必要ないということかしら?」
「……」

 そういえば、リースノット王国の貴族学院に通っていた時も魔法師は杖を持ったほうが魔法が強くなるとか言われた。
 でも、私の魔法は規格外だし……。

「先ほどから、観客席から聞こえていた声に、あなたは自分の事を小麦の女神様と言わせているようね? それとも自ら吹聴しているのかしら? いくらなんでも大国リースノットの公爵令嬢とは言えど、さすがに女神と言うのは些か慢心が過ぎるのではなくて?」
「え? あ……で、でも……」
「言い訳は聞いていないわ! 自分を女神と言うなんて貴女何様なのかしら?」
「何様というか、私、女神じゃ――」

 私が、女神じゃないです! と言おうとしたところで――。

「それでは、小麦の女神ユウティーシア様と、圧政を行っている海洋国家ルグニカ第七王女との決闘を開始します!」 
「いいわ! この衆人観衆の中で魔法しか使えない貴女を嬲って差し上げます!」

 うわー。この人、人の話をあまり聞かない感じですね。
 というか、どうしてレイルさんはノリノリで、決闘の司会進行をしているんでしょうか?
 あとでお話をする必要がありそうですね!
 とりあえず、相手を怪我をさせたら何が起きるか分からないし……。
 どうしたらいいんでしょうか?

 一人で考え込んでいると、エメラス王女が腰に下げていた武器を鞘から抜き放ち私へと向けてくる。
 それは細い刀身であり、白銀色に光っていることから中々な名工のような気がしないでもない。
 レイピアを片手に持ちながら、一直線にエメラス王女が突っ込んでくる。
 そして剣先は、まっすぐに私の首に吸い込まれていき、もろに突き刺さり後ろへと抜けた。

「…………え? きゃあああああああああああ」

 叫びを上げたのはエメラス王女で、彼女は私の喉元から飛び散った血をまともに浴びて恐慌状態に陥って、レイピアの柄から手を離すと私から離れて尻餅をついてしまう。
 そんな彼女を見ながら、自分の喉からレイピアを引き抜く。
 そして細胞増殖の回復魔法を行い肉体修復を行っていき治癒させてから、体を震わせて表情を真っ青にさせているエメラス王女に手を差し伸べなら。

「あ、あの……だ、大丈夫ですか?」

 ちょっと、どうやって戦うか考えていて身体強化魔法を使うのを忘れていた。
 おかげで喉を貫かれてしまい、かなり痛かった。
 でも、私の回復魔法は別に声に出さなくも発動するし……。
 とくに問題はなかったけど……。

「だ、だいじ……え? あなた……え? え? え? え?」

 私に話しかけられたエメラス王女は、呆然と私を見ながら何やら納得いかなそうな声を上げたと思うと、化け物を見るような目で私を見て白目になり泡を吹いて倒れて気絶してしまった。

「レイルさん! どうしましょう! エメラス王女が倒れてしまいました!」
「いや、普通に倒れるから! そんな非常識な防御したら普通はびっくりするから!  まったく、どうするんだよ……この決闘で弾圧している貴族に神罰を与えてくれると期待して来た人間にどう説明するんだよ……」
「ううっ……だって、仕方がないじゃないですか……」
「こうなれば仕方ない! 勢いでいくしかない!――し、勝者……小麦の女神様!」

 仕方なく勝利宣言したレイルさんの言葉に、周りは誰も反応することはなかった。


 


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