公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

暗躍する海賊の末裔(10)

 澄みきった青空! どこまでも空は青く雲ひとつ! 存在しない! そんな晴天の下で私は、大きく溜息をついていた。

「レイルさん、人多すぎませんか?」
「そうか?」

 私の問いかけにレイルさんは、木の串に巻いて焼いただけのパンを食べながら答えてくる。
 話によると小麦が大量に安価で町に供給されるようになったことから、ミトンの町だけではなく近くの村の食料事情も変わったらしい。
 前までは、麦粥と呼ばれるものが主流だったらしいけど、妖精さんがアルドーラ公国から小麦を空間転移を使って移動する際に、細かく粉砕されることから全粒粉状態になってしまい麦粥などを作ることができなくなり、パンが主流の生活になっているとのこと。

「食料改革をしてしまいましたか……」

 私は、一人シミジミと呟きながら、道を歩いていく。
 ちなみに、ミトンの町の人口は1万人に届くか届かないくらいであった。
 そして現在のミトンの人口は倍くらいに膨れあがっている。
 それは何故かというと……。

「それにしても、お前とエメラスが一騎打ちするって噂が流れただけでずいぶんと人が集まったものだな」

 そう、レイルさんの言うとおり、私とエメラス王女の決闘するという噂が、何故か知らないけど気がつけば町中に広まっていて、それは安価な小麦を買いにくる行商人と通して近くの村々に話が広がってしまい……。

 気がつけば平民が貴族と戦う! という構図でスメラギが支配する地域一体に広がってしまっていた。
 おかげで、奴隷制度があり貴族に対して負の感情を持つ農民などが着の身着のまま、ミトンの町に来てしまい色々と問題が発生。
 その対応に追われ、エメラス王女と決闘が決まってから、すでに1週間近くが過ぎて、ようやく町の治安などが安定し決闘が出来る日付が決まったのだった。

「はぁー……。気が重いです……」

 ちなみに今の私の格好は普通の村娘が着ている麻で編まれた無地色のワンピースであり、サンダルも至って普通の草で編まれたもの。
 まぁ、身体強化魔法を使えば、石どころか刃物で斬りかかられても傷一つ付かないから別にサンダルは履かなくても問題なかったりするけど……。 

「それにしても、本来であれば秘密裏に決闘をして、なあなあに済まそうとしていた私の目論見が、まるっと潰されてしまいました! 想定の範囲外です!」
「まぁ、そんな事だろうと思っていたがな」
「え? 今、なんて――」

 横に並んで歩いているレイルさんを見上げると彼は視線を私から逸らすと、近くの屋台で売られている串を受け取りに私から離れていく。
 その行動から私は、少しだけ嫌な予感が……。
 戻ってきたレイルさんを見上げながら。

「――も、もしかしなくても……この騒ぎってレイルさんが仕組みました?」
「さて、何のことか?」

 彼はとぼけて見せてきたけど、間違いなく! ううん、絶対に! このお祭り騒ぎを作ったのはレイルさんで間違いない!
 ただでさえ、総督府スメラギからは、エメラス王女を返せ! と相手から催促が来ているというのに、こんなお祭り騒ぎなんてしたら大変なことになるのは目に見えてるのに、何をしてくれているのか……。

「ハァ……。頭が痛いです。それに、なんですか? あれは……」

 私は、小銭でパンを路上販売している店を指差して言葉を紡ぐ。

「女神パンって、一体なんですか? しかも、小麦の女神ユウティーシアが妖精を使役して小麦を持ってきてるって……」
「まぁ、遠からず近からずだからいいんじゃないのか?」
「いえいえ、ぜんぜん遠いですから! だいたい、小麦の女神って……」

 美の女神とか大地の女神とか、そういうのは分かりますけど、わかりますけど……。
 まだ100歩譲って、豊穣の女神とかならいいけど……。
 小麦の女神って……。
 どうして小麦限定? とか突っ込みどころが満載すぎて困ってしまう。

「それでも、ほぼ只みたいな値段でパンを配布しているんだから、そのうち言われたかも知れないだろ?」
「それは、そうですけど……」

 スメラギが支配していた農村部から貴族に反抗した平民を一目見ようと、出てきた人が多かったこともあり、殆どお金を持っていなかった。
 だから、仕方なく決闘が終わるまでは! という期限つきで加工したパンを銭貨1枚で配布していたりする。

 いつものパンの10分の1の価格。
 そして寝床も商工会議を通して、依頼したところ、あっさりと要望が通って雑魚寝という形らしいけど、屋根のある建物で寝れるように手配をしてくれたよう。
 人間、衣食住のうち食と寝床さえ確保できれば文句は殆どでないようで……。

 余裕が出来た人が、地方のパン屋台を始めたことを切っ掛けに多くの屋台が立ち並ぶ状態になってしまった。
 その書類の許可は私が出していたわけだけど……。
 正直、衛生面的にはどうなのかな? と首を傾げるしかできなかった。
 でも、この世界では、あまり気にしても仕方ないのかもしれない。

「おお! 女神様がこられたぞ!」
「小麦の女神さまだ!」

 私の姿を見た人たちが、私の事を女神様とか言い出すと、人が集まってくる。
 集まってくる人で、うまく歩けなったところで……。

「今から女神様が、横暴な貴族の王女に神罰を与えるのだ! 道をあけよ!」

 いきなりレイルさんが声を張り上げて何か言っていた! 何か言っていた! 何? 横暴な王女って? 神罰って? そういう言い方されると本当に困ります!




「公爵令嬢は結婚したくない!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く