公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

暗躍する海賊の末裔(8)

「え? 嫌ですけど?」
「なんですって!?」

 だって普通に、のほほんと暮らしてきたお姫様なんかに私が負けるわけないし……。
 というか勝ったら勝ったで、また文句言われそう。
 でも思ったことを、そのまま相手に伝えたら怒りそうですし、はぁ……どうも、女性の考えが私には理解できない。
 これが相手が王子とか総督府の長なら殴って言うことを聞かせる方法も取れるのに。

「考えても見てください! 私は、剣の嗜みもありませんし、せいぜい人よりも魔法が使えるくらいですよ? それなのに、騎士甲冑を着て剣を携えて攻めてくる軍隊の指揮まで執ってる人と戦うなんて自殺行為の何でもないじゃないですか?」
「――うっ!? で、ですけど、貴女は、この町を守備していた兵士を魔法で追い出したと報告が……」

 むー、報告があがっていましたか……。
 それは、また面倒な。

「よく考えてください! 攻撃魔法というのは長い詠唱と魔方陣により発動します!」
「それは知っていますけど……」
「それは、つまり! 魔方陣さえ! たくさん! 書いておけば詠唱一つで同時に起動できるというわけです!」
「つまり、貴女は魔法を使う魔法陣を前持って設置していたと?」
「はい!」

 嘘である。
 とりあえず、魔法を詳しくしらない王女にそれらしき事を吹聴して煙に巻く作戦である。

「そういうこと……なのね――」

 でも、簡単に納得してもらえるとは思わないから……って!? 簡単に信じてくれた!?
 もっと、証拠を出せ! とか言われると思っていただけでに驚きを禁じえないけど……。

 納得してくれるなら、もう、それでいいかな?

「そうなんですよ! きっと! 兵士の方や、詰めていた代官の方が逃げ出したことを問われない様に大げさに言ったに過ぎないんです」

 自分で言っていて、何を言っているのかちょっと分からなくなってきたけど、さすがに同じ国内同士でゴタゴタするのも面倒かなと思ってきたこともあり、この際、少し交流を持ってもいいかなとか思ったり……。
 そうすれば食料問題や野菜などの葉物関係の取引も可能になるし、一気に食料事情もよくなりそう。
 それに攻めて来られて、稼げるどころか収支がマイナスになるようなことは避けたいし。

「そうですか……では、一つお伺いいたしますが、いきなり大地が崩壊したのは、あれも魔法の一種なのですか?」
「あれは……そうです! そのとおりです!」

 さすがに妖精さんであるブラウニーの物質空間転移で穴を掘っていたとは言えない。
 ブラウニーさんは、下手をしなくても物流を一新させるほどの可能性を秘めている。
 それを、海洋国家ルグニカの王女に伝えていいのか? と聞かれれば答えはノーといわざるえない。
 だって、私が王女の立場なら密書とか送りたい放題になるわけだし。
 そんなことになったら戦争の在り方すら変わってしまう。
 それどころか海上での戦争すら――。
 下手をしたら戦争の引き金にも成りかねないし、そんな重大なことをおいそれと伝えるわけにはいかない。
 なので、魔法ということで押し通すことにする。

「設置型魔方陣――。拠点を持つがゆえに強力な力になるというわけですわね?」
「そ、ソーデス!」
「魔法師に、剣で決闘を挑む……それは――」

 ふう、どうやら私のなんちゃて説明で決闘は回避でき……「――それは、とても面白いですわね!」……なさそうです。

「あの? 私の話を聞いて頂けました? 私は魔法師で剣を扱うことができないんですけど?」
「聞いていたわ、なら好きに魔方陣を設置してくれてかまいません! あなたが海賊とルグニカの王族を侮辱した言葉! それを許すわけにはいきませんから!」
「あ、はい……」

 また、面倒くさい。
 どうして、こうも騎士とか戦士とか兵士って人の話を聞かない人が多いのか。
 とりあえず忠告をして、考えを改めてもらう必要がありそう。

「あの、一応お伝えしておきますが、私に魔方陣を用意させる時間を与えたら、エメラス王女様は絶対に! 私には勝てないと思うんですけど?」

 私の言葉に彼女は体を震わせたあと、私が貸していた服の布地を強く握ると。「いいでしょう! その自信のほど確かめさせてもらいましょう!」と、私を睨みつけるようにして言葉をつむいできた。



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