公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

暗躍する海賊の末裔(3)

 私はレイルさんと一緒に、ミトンの町を市場の方に向けて歩いていく。
 市場が近づいてくると、少しずつ人混みが増えていき、道の両脇には露店が並ぶようになっていく。

「なんというか、あれですね……」
「お前がきちんと輸入する際の農作物の指定をしないのが悪い」
「……」

 露店で取り扱っている商品は、小麦を加工したモノ。
 所謂、パンと呼ばれるモノを取り扱っている店舗が非常に多く、次に多いのは港があるということもあり海産物関係が非常に多い。
 逆に野菜や果物を扱っている店舗は少なく――。

「ふざけんな! こんな少しで高すぎるだろ!」
「こっちも商売なんでな! これ以上、安くはできないぞ!」

 怒鳴り声が聞こえてきた方へと視線を向けると二人の男性が言い合いしてくる場面が。

「レイルさん、野菜の価格が……」
「ああ、最近は高騰しているんだ」

 私が子ども達の面倒を見ていた頃よりも、野菜の価格が3倍――多いと5倍にもなっているのが値札から分かる。
 アルドーラ公国からの農作物輸入を小麦に限定したのは、失敗だったかも知れない。

「一度、アルドーラ公国へ手紙を送ったほうがいいかも知れませんね」
「そんなことが出来るのか?」
「出来るか出来ないではなく、やらないと……」

 野菜を長期間取らないと脚気になる可能性だってゼロじゃない。
 私が商工会議を発足させてからの期間を考えると、時間的にも余裕はあまりないと思う。
 でも逆に外に出たからこそ、町の問題点に気がつけたとも考えられるからポジティブに考えて対応することにしましょう。

「やらないと? 野菜を摂らないことがそんなに危険なことなのか?」

 レイルさんが眉元をひそめて私に問いかけてくる。

「はい。野菜を摂取しないと人体に影響があります。最悪、死亡する可能性もあるため、なるべく早めに対応したほうがいいでしょう。ですが、こちらもアルドーラ公国と取引するための資源が塩と白色魔宝石しかありませんし……リースノット王国との軍事国力バランスを考えると……」
「これ以上は、アルドーラ公国には白色魔宝石を使ってでの取引上限を引き上げるわけにはいかないと言うことか?」
「はい」

 私はレイルさんの言葉に頷く。
 リースノット王国が、アルドーラ公国や軍事大国ヴァルキリアスと対等に国交を行えているのは、魔道具の開発もそうだけど軍事力と内需における食料生産を強化した事が大きい。
 国の運営というのは、基本的に内外のバランスを取ることが重要であり、有事の際にどれだけの事に対応できるかに集約される。
 内需だけを拡大しても他国からの軍事的侵略に対抗することが出来なければ国を守ることは出来ないし、軍事だけを拡大しても内需を怠れば、内部から崩壊することになってしまう。
 そして、自国内でのエネルギー生産や食料調達などを踏まえると貿易が上手く行っている時はいいけど、外需や輸入に頼っていると貿易行路を押さえられるか経済制裁などを受けた時に国が干上がってしまう。

 別に私は、結婚をしたくないから国から出ただけで、母国であるリースノット王国が元・大国であったアルドーラ公国に武力差から蹂躙される事を良し思ったことはない。
 ただ、気になるのはアルドーラ公国の隣国に存在するセイレーン連邦の動向。

 セイレーン連邦は、魔法帝国ジールと領土を巡って過去から戦いを繰り広げている国であり、無数の国家が集まって出来ている。
 そのことから、意思が統一されておらず動向を予想しきることができない。
 そう考えると、リースノット王国とセイレーン連邦の間に存在するアルドーラ公国は、緩衝国家としては、セイレーン連邦に対抗する力を持って置いてもらったほうが戦争になる可能性は非常に少ない。

 でも……。
 それでも……。
 白色魔宝石を短期間で輸出するのは……。

「それなら何か取引できる物を探さないといけないな?」
「そうですね……」

 レイルさんの言葉に私は相槌を打つ。
 正直、ミトンの町では取引が出来る素材がない。

「少し考える必要性がありますね……」

 私は溜息をつきながら考える。
 本当なら、町を取り戻しにくるスメラギ総督府の兵士たちの物資を奪って何とかしようと思っていたけど、攻めてこないとなると今後の対応がまったく違ってくる。
 何か特産物を考えないと駄目ですね。




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