公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

商工会議を設立しましょう!(8)

「さてと、子供達が寝ている間に食事を作ってしまいましょう」

 私は、籠の中から市場で購入してきたエプロンを取り出すと、ワンピースの上から身に着けた。
 もちろん、エプロンはフリルがついている物しか売っていなかったので、フリルつきのエプロンです。
 まぁ子供達が寝ているし、誰もみていないからこそ仕える代物ですね。
 きっと、第三者に見られたら黒歴史化しそうです。


 私は、籠の中から市場で購入してきた玉ねぎや野菜、そしてお肉を取り出した。
 そして、ブラウニーさん達が掃除をしてくれた台所の釜の下の部分に薪を入れる。
 そして薪に火をつけるために空中に魔法陣を描きながら詠唱を唱えたあとに、生活魔法の一つである【火種】の魔法を発動させてから薪に火を灯す。
 次にすることは、生活魔法で水を生成し木で作られたボールを水で満たした後、火にかけた御鍋の中にボールを満たしている水を入れる。
 しばらく待ってお湯になったのを確認してから木の器と包丁とまな板を漬けた。
 煮沸消毒した後、レイルさんが持ってきてくれたタオルで包丁を拭いたあとに木の器を拭きホークとスプーンも煮沸消毒したあと、またタオルで拭く。
 これで食器と調理器具の煮沸消毒は終わり、次は料理に取り掛かる準備が出来た。

「次にすることは――」
「何を作るんだ?」
「えっとハンバーグと言って野菜の微塵切りとお肉を細かくしたものを混ぜて丸くしたものを焼くやつです――え?」

 私は、声をかけられた方へ振り向く。
 すると先ほど帰ったはずのレイルさんと、その部下の兵士さん達がいる事に気がついた。
 兵士さん達は、私をジッと見てきている。
 なんたる不覚……。


 私は、ひさしぶりの料理だった事、そして女子寮では魔道コンロと魔道水道があったので注意力が散漫でも料理はできた。だけど、いまは薪の火元も見ないといけないし、いろいろとしないといけない事があって気がつかなかった。

「えっと……あ、あの……」

 突然のことで……料理をしてることを見られたことで私は驚いて動揺してしまう。
 公爵家の娘が、フリルがついたエプロンを身に着けて料理をしているなんて……そんなの見られたら私の威信に関わってしまう。
 ――と、いうか私の威信は今、粉々に砕けてしまった。

 でも……ここで何とかうまく言い訳をすれば、私の威信を何とか保てるはず。
 だけど何て説明していいか気が動転して迷っていたところで、火にかけていた御鍋が吹いてしまった。
 私は慌てて御鍋を火元から離そうとして手を差し伸べようとすると。

「バカ、何をして――!」と、怒鳴り声を上げてきレイルさんに腕を掴まれた。

「痛っ!?」

 私は、【身体強化】の魔法を展開してない状態で、男性に強く腕を掴まれた事がないので、思わず口から痛いという声が出てしまった。
 レイルさんは私の話を聞いていたはずなのに、私を抱き寄せると薪から距離を置いてしまう。
 すると、お鍋から薪の上に沸騰したお水が零れるのが見えた。
 そして同時に、薪が弾ける音がして木の破片が飛んでくる。
 レイルさんは、私の体を強く抱きしめると、飛んできた破片から守ってくれた。

 抱きしめられて守られた事で、私とレイルさんは見つめ合うような格好になってしまい、私は羞恥心を覚えてしまう。
 そして何故か心臓の律動がすごく早くなっているのを感じる。
 私は頬に手を当てると、頬も耳も熱を帯びてる事に気がついた。

 こ、これって……まるで……。
 私は顔を振る。
 そんなことないから。

 そんな私の異常に気がつかないのかレイルさんは、小言を言い始めた。 

「市民が使う鍋は貴族が使うような鍋とは違って取っ手まで熱いんだぞ? それを、何をいきなり触ろうとしているんだ!」
「ご……ごめんなさい」

 レイルさんに怒られた事で先ほどまでの変な高揚感があとかたもなく消え去ってしまう。
 そして突然の事に動揺して、つい謝ってしまった。
 するとレイルさんは小さく溜息をつくと、私の頭を撫でながら話しを続けてくる。

「それと、さっきお前が言っていた料理だが、普段から質素な食事をしている物に食べさせると逆に体に良くない。薄めのシチューか何かにしておいた方がいい」
「あ……」

 そこで私は思いだした。
 たしか、病人の方もそうだけど弱っている体に、油物や肉類をいきなり振る舞うのは良くないと地球で見た事、聞いた事がある。

「まったく――ほら、手伝ってやるから」
「はい……」

 私は、庶民の方が食べている物や、この世界の病人向けの食事をしらない。
 それなのに健常者――女子寮で出していた物と同じ物を作ろうとしていた。
 私は……考えが至らなかった……。

「ちょ……まっ……ほ、ほら……な、泣くな」

 レイルさんは、突然慌てた様子になると、小さなハンカチのような物を取り出すと私の眼元にを宛ててきた。
 そこでようやく私が自分が泣いている事に気がつく。

 不覚です。この体になってから、とても! すごく! 泣きやすい体質になってしまっているのです。
 ……で、でも! ここで認めるのは癪なのです!

「泣いていません! 目にゴミが入っただけです!」

 私は、レイルさんからハンカチを奪いとって涙を拭きとる。

「いや……お前泣いて――」

 しつこいです。
 しつこい男の人は嫌われるのです。

「泣いていません!」

 私の再三に渡る抗議の末にレイルさんは肩を竦めてきた。
 どうやら、私の泣いてないという理論を理解してくれたようです。
 まったく……さっさとお家から出ていってくださいと言ってやりましょう。
 私が口を開こうとしたところで――。

「はぁ……分かった、わかった。それじゃ料理は俺達がしておくから、お前は起きた子供達の面倒を見ておいてくれないか?」と、言うレイルさんの言葉にハッ! とすると、私は後ろを振り向いた。
 するとそこには、不安そうな表情をした子供達が私とレイルさんを見つめてきていた。

 きっと、私とレイルさん達とのやり取りで目が覚ましてしまったのかもしれない。
 子供達は隣の部屋から顔だけ出している。

「お姉ちゃん……苛められているの?」

 紫色の髪をしたエリンという女の子が私の元まで近づいてくる。
 そして私のスカートを、震えている手で握ってくると心配そうな表情で見上げて尋ねてきた。

 私は、子供達の方へ視線を向ける。
 どの子供達も兵士の方々を怯えた目で見ていた。

「……わ、わかりました。レイルさん、兵士の皆さん、調理をよろしくお願いします」

 子供達の前だから、威圧的な言葉は使えない。
 レイルさんを始め兵士の方々が頷いてくれるのを確認してから、私は子供達を連れて隣のリビングと思われる部屋で料理が出来るまで、地球の童話を話した。

 お姫様と10人の小人の物語は、子供達には大人気で5回くらいアンコールを受けてしまった。
 喉が死にかけたところで、料理が出来たとレイルさんから報告に来たときには、私はホッと胸をなでおろしていた。






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