公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

獅子身中の虫

 ――妹と仲直りできずに2週間が経過した。
 仲直り出来ない一番の理由は私が部屋から出なかった事が原因だけど。
 私は、外行きのドレスを使用人に着せて貰った後、3週間近くぶりに部屋から出てシュトロハイム公爵邸の玄関ホールへ向かった。
 玄関ホールには、お母様とお父様が心配そうな顔をして私を見てきている。

「それでは行って参ります」

 私は、玄関ホールから表へ出るとすでに馬車が待っており、馬車には銀製のシュトロハイム公爵家のエンブレムが掲げられていた。
 私は従者の方が、馬車のドアを開けてくれたのを確認した後、馬車に乗り込む。
 扉が閉められるとしばらくしてから馬車は走りだした。

 馬車はまっすぐ王都を走り貴族学院の門を潜り抜けると、貴族学院本校舎前に停車した。
 従者の人が開けてくれたドアから下りると、緊張な面持ちを見せている学生の姿が目に入る。
 そして彼らは、馬車から下りた私を見て一様に引き攣った表情を見せてくる。
 きちんと湯あみもしてきたし、化粧だってしているのに。
 私が疑問に思っていると――。

「おはよう、今日の君はとても美しいね。まるで今でも折れそうな花のようだよ。ユウティーシア、今日は君のためにいい話を持ってきたよ?」

 私に話しかけてきたのは、エイル王太子。
 私は首を傾げながら。

「良い話ですか?」
「そう、いい話だよ。君は大事な物を亡くしたんだろう? その痛み察するよ」
「……」
「まぁ君の心情を理解できるからこそ、私も君に話を持ってきたんだよ」
「ありがとうございます」

 話の流れはよく理解できないけど……エイル王太子は私を元気付けようとしてくれているのかな?
 私は若干、エイル王太子の評価を上げる。

「それでね、私からユウティ―シア、婚約者の君にプレゼントがあるんだよ?」
「プレゼントですか?」

 私は首を傾げながら小さく呟く。
 そんな私を見てエイル王太子は優しくほほ笑んでくると。

「やっぱりね、大事な物を亡くした後は、それに変わるもので埋め合わせをした方がいいと思うんだ。君が大事にしていた物もクラウスから貰ったものだからね。邪魔で――ではなくてやはり、きちんとした物がいいと思うんだよね。だから――」

 そう言うと、エイル王太子は綺麗に装飾された宝石箱のような物を取り出して私に見せてきた。
 そして箱を開けると中には大粒の宝石があしらわれた指輪が2つ入っている。

「これは君の為に特注で作らせたものなんだ。どうかな?」
「えっと……」

 どうかなと言われても困ってしまう。
 でも、私にそんな物をもらう資格があるのだろうか?
 ここ3週間近くまともに寝むれていない事もあって頭がうまく働かない。

「君があの屑のクラウスに騙されていたのは、君が優しいからだよ? それに君の力の運用を彼は理解してない」
「私の力の運用?」

 私は、エイル王太子の言葉を聞きながら首を傾げる
 エイル王太子が何を言っているのかすぐに理解できない。
 私の体をエイル王太子は引き寄せると額に手を当ててきた。
 何故かとても気分が落ち着く。
 回復魔法の一種なのだろうか?
 体から力が抜けていく。
 エイル王太子が私の事を抱きしめてなかったらきっと立っていられない。

「そう、君の力があれば隣国との戦争に勝つ事も簡単だし高位貴族や王族に逆らうような愚民を管理すれば、君が大事にしていた物を失うような事件も未然に防げるかもしれない。だから賛同してほしいんだよ? 毎日、嫌な夢を見るのは嫌だろう?」
「――はい……」

 私は霞みかかった意識の中で、もう嫌な夢を見るのは嫌だと思ってしまう。
 もう妹に八つ当たりするのは嫌だと思ってしまう。
 もうあんな夢を見たくない。
 もう何も考えたくない。

「だから、結婚を受け入れてくれるよね? 君が受け入れれば全てが上手くいくんだよ?」
「……全てが上手くいく?」

 私は霞みかかった意識の中で、エイル王太子の瞳だけを見る。
 その瞳の色は、夢の中で見た事があるような……。
 でも、もういいや……。
 こんな苦しいのはもう嫌。

「答えを聞かせてくれるかな? 結婚してくれるよね?」
「はい……」

 大勢の学生が見てる中で私は茫然としたまま、エイル王太子との婚約ではなく結婚を受け入れた。
 私の視界の中で、エイル王太子は夢の中でアリシアが見せたような笑い方を一瞬だけ見せたけど、エイル王太子が私に何か魔力を送り込んでいるのを感じるとどうでもよくなってしまっていた。




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