公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

妖精さんは勝手に増えるらしい。

「うーん。むにょむにょ」

 私は、昨日遅くに帰ってきた事から中々起きられなかった。

「「「「「「「「主さまー」」」」」」」

 とてもエコーのかかった声が聞こえてくる。
 私はベッドの中から、薄らと目を開ける。
 すると、部屋内は妖精さんでいっぱいだった。

「ふぇええええ」

 と。私は思わず、叫びながらベッドの上であとずさる。
 でも、ベッド上の面積は限られている。
 必然的に私は、ベッドの上から転げ落ちた。
 そして床に頭を打ち付ける。
 肉体強化の魔法を使ってない私の体は、もろに床からダメージを受け取る。
 そして、その痛みから私は床の上でゴロゴロ転がりながら痛みに耐えていると――。

「大丈夫なの? 主さま?」

 ――と、ブラウニーが話しかけてきた。
 その顔は見覚えがある。
 私は、ブラウニーの20センチにも満たない小さな体を鷲掴みにする。

「ブラウニーさん。これは一体どういう事なのかしら?」

 私は、自分の部屋にいる妖精さん達に視線を向ける。
 すると、私が鷲掴みにしたブラウニーさんは、ドヤ顔で――。

「ブラウニーを一匹みたら30匹いると思えと言われているの。簡単に言えば増殖したの」

 ――と。それは誇らしげに語ってきた。

 私は、頭を押さえながら。

「台所の黒いあれなのかな?」

 と一言だけ言うと、ブラウニーさん達が憤慨していた。
 それから部屋でいろいろと調べた結果、ブラウニーさん達の数は、400匹まで増えていた。
 昨日50匹だったのに今日は400匹。
 ふ~む。これは危機的状況なのではないだろうか?

 つまり明日には3200匹。一週間くらいで妖精さん達に国を支配されてしまうのかもしれない。
 そんな事を考えながら、妖精さんに聞いてみた。
 そしたら、数が増えすぎると共食いして減るらしい。
 ハムスターかよと私は思ったが、何それ怖い。
 ちょっと妖精さんへのメルヘンな気持ちが萎え萎えになった。

 事実は怖いです。

 きっと、妖精さんの事実を知ったら、世の中の子供たちの99%くらいは嘘だ! と言うでしょう。
 そして私みたいな1%の純粋な子供がびっくりするんでしょう。 
 と。自分上げな事を考えながら朝食を作りに食堂に向かうと、食堂に入った途端、何やらおいしい匂いがしてきます。

なるほど、女子寮の誰かがもしかしたら料理を作っているのかも知れませんね。
 私は、少しだけ感激した。
 庶民の方が作ってくれる料理を食べられるなんて、将来庶民として暮らして行く事を目標としている私としては、とてもいい体験。

 私は、並べられている料理を見ていく。
 どれも手間が掛っていて、とてもおいしそう。
 でも私は、首を傾げる。

 どの料理も、貴族の料理ぽいのだ。
 簡単に言えば手間がかかりすぎている。

「一体、誰を手配したんでしょうか」

 私は、台所に入る。
 ここは一回、はっきり言っておこないといけない。
 こんな料理を出されたら、とてもおいしくて箸が止まらなくなってしまう。
 それは体重増加に繋がってしまう。

 体系を気にしている私にとっては死活問題。
 まぁ食べても太らないけど……。

「どこの誰かは知りませんが、この女子寮内で勝手な真似はわたし……が……お母様?」

 そこには、料理をしている私のお母様がいた。
 私は、数歩下がる。
 どうして、ここにお母様が?
 そこでようやく、お母様が私に気がついたのかこちらへ視線を向けてきた。

 そして……。

「主さま、私達は主さまのお母様ではないの」

 そういうと、お母様だと思っていた人物は、光と共に消えて数匹のブラウニーに変化していた。

「これは一体……どう言う事なの?」

 理解が追いつかない。
 一体どうなって……。

「主さま。私達妖精ブラウニーは人数が増えれば、より大きな力を使う事ができるの。そしてその時に、私達の姿は、その人がもっとも甘えたい人の姿を取るの」

 ブラウニーの言葉が一瞬理解できなかった。
 私が……この私がお母様に甘えたいと思っている?

 そんな事、ある訳ないのに。
 何を言っているのか分からない。

「……そう」

 私は、荒れ狂うような気持ちの奔流を抑えながら、必死に表面を取り繕う。
 私が、誰かに甘えたい? と思っている?
 そんな事ありえない。
 だって、私には多くの知識がある。
 だから私が誰かに甘えたいなど思う訳が無い。

 私は朝食も食べずに女子寮をでると学校へ向かった。
 妖精の世迷言に惑わされるよりも、私は私のやるべきことをやるべきだから。



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