公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

隠された思い

 私は、ブレーカーが落ちたかのように意識を失った。
 そして気がつけば、私は闇の囚われていた。

「やっぱり、簡単にはいかないのね」
 そんな闇の中、声が聞こえた。
 世界は一瞬で塗り替えられ小鳥の囀りと、木々が揺れる音が聞こえてくる。 

 そして先ほど独り言とも取れる発言をした人は、倒れている私を見降ろしているように思える。

 ただ、その声には、どこか聞き覚えがある。
 でも、どこだったか思い出せない。

「この者は、あの事すら覚えてはいない。神核を内包した只の肉の器に過ぎない。そのような者に学習など期待するだけ無駄と言うモノ」
 もう一人の女の声が最初の女と会話を始めた。
 この2人が何を言っているのか理解が出来ない。

 私は、必死に現状を把握する為に、瞼を開けていく。

 すると、そこには私が立っていた。

 そして私は、私と目が合った。

 目の前の私は、微笑んでくる。

 そして――。

「初めまして、偽物のユウティーシアさん。いいえ、人間でもない唯の存在さん」
 ――と。目の前の私は、私を見ながら面白そうに語りかけてきた。
 私には、目の前の私が何を言っているのか理解ができない。
 ただ、分かるのは。
 目の前にいるのは私だと言う事。

 そこまで考えた所で、もう一人の女性が目の前に姿を現す。
 それは私を肉の器と言った女性だと感覚的に理解できた。

 私は、彼女を知っている。

 彼女は、目の前の私に向けて。

「ユウティーシア、ただの神核の運搬者に過ぎない者に接触するなど契約違反だぞ?」 
 彼女の言葉に、目の前の私はテーブルと椅子をその場に作り出し座った。
 そしてティーセットを用意、手元に出現させると一口飲んだ後に、口を開いた。

「うるさいわね。私が、誰と話そうと構わないでしょう? 貴女こそ、ただの使い走りの分際に過ぎないのに私に指図するつもりなの? だいたい、この者は、この世界から出れば全ての記憶を失うのだから問題ないでしょう?」
 私ではない、ユウティーシアの言葉に彼女は苛立ちを募らせているように見える。
 なのに、その輪郭がまったく見えない。

「だが、もし残っていれば奴らに、見つかる恐れもあるのだぞ?」
 彼女の言葉に、もう一人の私は、ゆっくりとその視線を彼女に向けた。

「アウラ、貴女程度の神格の持ち主が危惧する事ではないと私は言っているのですけど? 理解はしては頂けないのかしら?」
 もう一人の私の言葉に、アウラと呼ばれた女は臨戦態勢を取った瞬間、その場に崩れ落ち地面に縫い付けられたように見えた。

「こんな。バカなことが……神に届き得る力。魔法ではなく魔術ですらないこれは……」
 アウラの言葉に、もう一人の私は微笑んで口を開く。

「重力偏差の神術に過ぎないわ。でも、それだけで貴女程度の神格の持ち主ならいくらでも抑えられる。貴女は、貴女の仕事をしなさい。一応、貴女の上司と私との契約は生きているのだから」
 目の前のもう一人の私が、何かしたのかアウラと呼ばれた女は姿を消した。
 そして、私は私を見てくる。

「本当に残酷よね。貴女は、自分が何者なのか……それすら理解していないのに。

 人間ですら無いのに……他人の知識と人生だけを与えられただけの存在なのに。

 貴女は自分の事を、人間だと思い込んでいるピエロ。本当に残酷よね」

 目の前の私の言葉を聞いて、私は何故かそれが真実だと理解してしまう。
 理解できる。

「そろそろ時間のようね」
 もう一人の私が呟く。
 すると、周囲の森だった風景は急速にぼやけていく。

「今は、まだ……貴女にその体を貸しておいてあげる。今回は、たまたま貴女が大きなショックを受けたから、私達との回線が繋がっただけ。」
 もう一人の私はティーカップを口につけて話を続けてくる。

「だから教えておいてあげる。あなたは、人間ではない。貴女が生きていい場所なんてどこにも存在しないの。ただの運搬係……それが貴女のお仕事。それでは、また会いましょう」
 私は、私の言葉を聞きながら崩れゆく世界を見ながら意識を閉じた。



「ティア! 目を覚ましなさい。ティア!」
 お父様の必死な叫び声が聞こえてくる。
 返事をしようにも、体が重くて指一本動かす事ができない。
 まるで、私の体ではないみたい。

「くそ、どういうことだ。ウラヌス卿、何か分からないのか?」
 誰もが慌てている。
 どうして、そんなに慌てているのか分からない。

 そこに扉が開かれ何人もの人が、王城の執務室に入ってきたのが気配から分かった。
 その人達は、私の体を触りながら――。

「原因は不明です。ですがこれと同じ症状を以前も見た事があります」
 男性の言葉に。

「もったいぶらずに言え」
 お父様がとても苛立っている。
 いつもの不機嫌そうな声色とはまったく違う。

「ユウティーシア様が、2歳の時に発症した病と同じです。その前兆と同じように見受けられます」
 私は、男性の言葉を聞きながらも、その時の記憶が無い事に気がついた。
 小さい頃からの記憶は、殆どあるのにその記憶だけはない。
 さらに男性の言葉は続く。

「あの時は、シュトロハイム卿が一週間、寝ずに魔法を連続使用し看病を行った結果、ユウィテーシア様を助ける事が出来ましたが……ですが、あれはかなり危険な行為です。シュトロハイム卿も命を落としかけま……」
 そこで男性は、話の途中だと言うのに話すのをやめた。

「何を言っている? 貴様もそうするはずだろう? 自分の愛しい娘の命を。俺の命で救えるなら安いものだ。私は、最善を尽くしたに過ぎない。それよりも、これからまた……あの時のように高熱を発症すると言う事か?」
 お父様の言葉には、いつも私に語りかけてくるときに、感じる剣呑とした雰囲気は感じない。

「はい、恐らくは……」

「そうか、また手に傷が増えてしまうな」
 お父様は、何か言っている。
 手の傷? そういえば私は、今まで一度もお父様の素手を見た事がない。
 私が見る限り、いつも白い手袋をしていた。

 だから、お父様の手に傷があるなんて知らない。

「国王陛下、アルドーラ公国への采配は?」
 お父様は、国王陛下に今後の話をしている。

「問題はない。ウラヌス卿、ハデス卿。シュトロハイム卿のサポートを任せる。アルドーラ公国との話し合いは、元老院と私が対応しておこう」
 霞む意識の中で、国王陛下とウラヌス卿、ハデス卿が必死に今後の話をしているのが聞こえてくる。
 そしてお父様に抱きあげられた所で私の意識はゆっくりと闇の中に呑み込まれていった。


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