迷探偵シャーロットの難事件

夙多史

CASE2-5 ぐだぐだ事情聴取

 そうして偵秀たちは喫茶店のオーナーの了承を得て控室に移動した。
 楠大輝のポケットには携帯電話と財布。荷物はギターケースが一つで、中身は弦の切れたギターにタバコとライター、それからなぜかドーナツの箱が入っていた。

「ん? このギター、なんか違和感が……それに、ギターケースにドーナツ?」
「ああ、バイトの帰りに朝飯のつもりで買ったんだ」
「ドーナツ美味しいですよね。わたしも大好きです」

 ドーナツと聞いてシャーロットがひょこりと覗き込んできた。すっかり元気を取り戻しているようで、探偵ルーペを駆使してギターケースの中を検分し始める。

「あ、見てください! ギターにお砂糖が零れていますよ! 勿体ないです!」
「お前もう帰れよ!?」

 わかっていたが、碌な発見をしなかった。

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 楠大輝の聴取が終わり、入れ替わりに時田佳織が入ってくる。

 ――チャリッ。

「ん?」

 微かにだが、時田佳織が歩く度になにかが擦れるような音がした。

「どうかしたの?」
「いえ……ではポケットと鞄の中身を見せていただいてもよろしいですか?」
「え、ええ」

 頷くと、時田佳織はテーブルに一つずつ物を置いていく。携帯電話にハンカチ、財布に名刺入れ、ペットボトルのお茶、それとヘアゴムにビニール袋に入った化粧品。

「この化粧品は?」
「時間がない時は会社でお化粧するのよ。普通でしょ」
「普通ですね」
「シャーロット、化粧をしたことは?」
「ありません!」

 ドヤ顔で言われても困るだけだった。

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「最後に中野さん」

 オドオドした様子でやってきた中野逸美に、偵秀は学生鞄の中身を見せるように促す。
 教科書・ノート・ハンカチ・筆箱・携帯電話・学生証。特に変わった物はないが、スマートフォンの画面に学校の友人からだと思われるSNSの通知が表示されていた。

「中野さんは南中の生徒ですか」

 学生証を見ながら偵秀が確認する。中野逸美は素直に頷いた。

「そ、そうです」
「ところで……友達からですかね、通知が来ていますよ」
「えっ!?」

 言われ、中野逸美は慌てて自分の携帯を掴み取った。心なしか青い顔で返信を打つ彼女の事情は、もうだいたい把握している。

「テーシュウ、他人の携帯を勝手に見るのはよくないですよ」
「お前は取り調べをなんだと思ってんだ?」

 達筆な文字がびっしりと書かれた探偵手帳を開いてただ立っているだけの少女が、彼の名探偵の子孫だと誰が信じられるだろうか。

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 そして全員の聴取が終わり、控室には偵秀とシャーロットと水戸部刑事だけが残っていた。

「むむむ、三人とも怪しいところはありませんでしたね。これは難事件です」

 シャーロットは顎に手をやって真剣に考えている。この様子だと日が暮れても答えは出そうになかった。

「やはり、あの三人以外の誰かになるのでしょうか? そうなるともう捕まえることは難しいであります」
「いや、犯人はもうわかった」
「本当でありますか!」

 水戸部刑事が喜々とした声を上げた。

「え? ちょ、ちょっと待ってくださいテーシュウ! ええっと、あの人がこーであの人があーですから……あっ、ふふふ、わたしもわかりましたよ」
「ホントかお前?」

 非常に嘘臭い。だらだらと彼女の頬を流れていく冷や汗が物凄い不安だ。ただ元から彼女の推理を待つつもりもないので、偵秀はさっさと終わらせることにした。

「水戸部刑事、全員をこの部屋に集めてください」

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