れいぶる~自宅警備隊~

望月まーゆノベルバ引退

優梨奈誘拐事件⑦


暴走する乙姫が衝撃波で吹き飛ばした公園内の一角。

その場所に第九支部のメンバーと第十二支部のメンバーがそれぞれ吹き飛ばされている。
偶然にも居合わさせた早坂姉妹と第十二支部のメンバー。柚葉が今、カケルに近づき何かを伝えようとしていたーー


「神崎カケル、姫ちゃんを助けて」

思いもよらぬ一言だったーー

「ゆずあなた、何て事を言うの?仮にも敵対している相手にーー」

「私たちじゃ、姫ちゃんを止められないよ。姫ちゃんを助けたいの」

「ーーそんなの前みたいに魔導力が尽きれば勝手に倒れて」

「そんなの違うよ!あの時は偶然姫ちゃんの意識が戻っただけだよ。姫ちゃん苦しいんだよ。誰かに助けてもらいたいんだよ。私をいつも助けてくれるお姉ちゃんのような存在がほしいんだよ」

「ゆず、何でそこまでして姫ちゃんを・・・」

「ーーだって私の初めての友達だから。この姿じゃなくても障害があっても同じように姫ちゃんは接してくれた。凄く嬉しかった。このままお姉ちゃんと姫ちゃんとずっと一緒に居たと思う。だから姫ちゃんは友達だから助けたい!!」

「ゆず・・・」

「神崎カケル、姫ちゃんを助けて・・・下さい、お願いします」
柚葉はカケルに頭を下げた。

「ーー私からもお願いします」
柚葉の隣に乙葉もやって来て同じように頭を下げた。

「ーーお姉ちゃん」
目を丸くする柚葉。
「私にとっても姫ちゃんは大切な友達だから」

「早坂、任せろ! 必ず友達を助けてみせるよ」


★  ★  ★

第六支部中央警察本部庁ーー

静まり返る冷んやりとした廊下に甲高い靴音が響き渡る。
ある牢屋の前で立ち止まる中年の強面の看守。

「おい、最近彼女さん来ないけどいいのか?この前、もう来るなみたいな事お前言ってただろ」

看守に会釈して話し出す翔太。

「良いんですよ。俺なんかのために貴重な時間を無駄にしなくて。アイツにはもっと相応しい人がいると思うんです。幸せになってほしいんです」

「ーー幸せにねえ・・・この時代に本当の意味での幸せなんてそう簡単に転がってやしないと思うぜ。お前のために必死に仕事も探してたらしいじゃないか」

「・・・そうなんですよ、俺なんかの為に。ただ、今の仕事が楽しいらしく友達も出来て彼女には俺のことは忘れて友達と楽しく過ごしてほしいっていうかーー」

「ーー本当に楽しい仕事があると思うか?この時代にバイトを探すのも一苦労だぞ。楽しい仕事? まず無いな!お前を安心させたかっただけじゃないか?」

「俺を安心させる為に・・・」
翔太は眉をハの字にして下を向き思い当たる節が浮かんでくる。

「何の仕事に就いたんだけ?彼女さん」

「あっ、えっと・・・自宅警備隊です。自宅警備員になったってーー」
我に返り慌てて質問に答える翔太。
その言葉を聞き見る見るうちに顔が強張る看守。

「看守さん?」

「お前、最近新聞やニュース見たか?」
「いえ、最近・・・お恥ずかしいながら彼女のことをボーっと考えていたりしていたので
ネットニュース、新聞などは一切見ていなかったです」
苦笑いを浮かべ頬を人差し指でかじる。

「・・・二、三日前の新聞でもネットニュースでも良いから見てみろ!!」

「え? 何か問題でもーー」

「大問題だよ。よりにもよってだ」

「は、はあ?」
何のことだか分からずスマホでニュースを開くとーー

翔太の顔が一瞬で青ざめた。

「ーー看守さん、これどう言うことですか?どうなってるんですか?」

「ーーーー」

「看守さん!可憐は?彼女は大丈夫なんですか?」
立ち上がり牢の鉄格子を握り締める翔太。

「ーー分かんねえよ、そこに書いてあることが正しいのかも分かんねえ。ただ言えることはもう時間は巻き戻せないって事だけだろうよ」

看守はそういうと翔太に背を向けその場を後にしたーー

冷んやりとした牢獄が更に温度が下がり寒気すら感じる翔太だった。


★  ★  ★

公園の中心で奇声を上げ苦しんでいるように見える乙姫。

そこに第十二支部のメンバーと第七支部の二人が加わり陣形を形成し乙姫の暴走を止めようと並んだ。

「分かってると思うけど、乙姫可憐の特異能力は無形の衝撃波よ。見えないだけに厄介よ」

「私のエリアウォールでも直撃を避けるだけで無傷での回避は出来ないの」

「私のテレポートで回避するのが一番だと思うけど全員を全員って訳にはいかないですし・・・」

「暴走している乙姫のランクはAを超えてランクSに限りなく近いぞ。俺のボムで足止めするからその隙に気絶でもさせて黙らせろ!」

「柊、なるべく無傷に近い形で彼女を救いたいんだ。頼む」

「神崎さん・・・乙姫は無傷でも俺は無傷では済まないっスよ」

「ーー目標、乙姫可憐! 魔導力上昇中、約二十秒後に衝撃波来るわよ、みんな回避準備して」

「「 了解!!」」

それぞれ公園内に散って衝撃波に備える。


乙姫を中心にして全てがスローモーションになった気さえする二十秒が過ぎた。

その刹那ーー衝撃波が公園内全域を襲う。

「エリアウォール!! くっ、うっ、エリカちゃん私に捕まっててーー」
「分かった。千夏お願いね」

通常の魔導障壁よりも硬く範囲内の広いエリアウォールでも乙姫から放たれた衝撃波ですでに砕かれる寸前だった。

「テレポート!!」
優梨奈のテレポートでカケルとキーは衝撃波を避け、乙姫の背後に移動した。

感知爆発サーチボム
キーが直ぐさまボムを乙姫を囲むようにセットする。

「チルドレンコード零 【レイブル】発動」
膨れ上がる魔導力、乙姫の魔導力を凌駕するほどの大きさーー

「これが、神崎カケルの実力・・・」
「お兄ちゃん、凄い・・・」
キーも優梨奈も驚きを隠せない。

「神崎、動きを止めたつもりだ! 乙姫が動けばボムは爆発するしくみだ」

「ああ、何とか正気を取り戻したい」
カケルは乙姫に近づき機会を伺う。

乙姫はボムに気づき再び魔導力を高めようとモーションに入った瞬間、キーのボムが爆発する。

「ーーーー!!」

「姫ちゃん!!」
それを見ていた柚葉が思わず声を上げ公園内に入って来た。

「ゆず、行ってはダメよ」
乙葉も柚葉を追いかけ園内にーー

「たああ! 隙アリッス!!」
柊が乙姫の背後から首元に峰打ちを狙うがーー

「あっ! あの馬鹿・・・」
キーのセットしたボムに反応し爆発した。

「ーー無念ッス」
柊は黒焦げになり崩れ落ちた。
それを見ていたキーは顔を抑え首を横に振った。

「魔弾・・・嫌、それだと致命傷は避けれない」
考えがまとまらないカケル。
焦りばかりが襲う。

「姫ちゃん、姫ちゃん!」
カケルの真横にまで駆け寄って来た柚葉。

その声に反応を示す乙姫ーー

カケルはその一瞬の表情の変化を見落とさなかった。

「ゆず、ダメよ。みんなの邪魔になってしまうわ」
乙葉がゆずの手を掴んで連れ戻そうとした時、

「ーー大丈夫、柚葉さんを少しお借りしますよ」
カケルが乙葉の肩にポンと手を置いた。
乙葉は不思議そうにカケルを見た。

「柚葉さん、乙姫を正気に戻せるのは君だけだ! チカラを貸してくれるね?」

「私が姫ちゃんをーーうん! 私に出来る事があるならやるわ」

柚葉が覚悟を決めている時、カケルと乙姫の目が合った。
カケルは乙葉の心情を読んでか、笑顔を見せて頷いた。

「柚葉さん、これから僕は身を呈して君を守ると約束する!かなり危険な賭けだけど協力してほしい」

「うん、大丈夫。私も頑張る! 神崎カケルの事信じるよ」
 
真っ直ぐ見つめてくる彼女の視線にカケルは応えようと心に決めたーー



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