れいぶる~自宅警備隊~

望月まーゆノベルバ引退

佐倉 絵里香


「私には、夢があるの! だから調理学校は辞める。迷惑はかけない」

「辞めるって?入学金や奨学金はどうするんだ?お前がどうしても大学に行きたいからってーー」
「働きながら返すわよ!私、美容師になる」
「美容師?専門学校にも行ってないお前がなれる訳ないだろ?」

「だから、専門学校に行く」
「は? 何を言ってるの。ウチにお金なんて無いわよ!」
「そうだぞ!そもそも大学を辞めるなんて許さんぞ!入学したばかりじゃないか」

「ーーだから迷惑かけないから専門学校もバイトして自分で入学して入るわよ」

「バイトしながらなんて無理に決まってる。今ですら一人暮らしするってアパートを借りて結局、家賃を滞納して払えずにいるのにーー」

「うるさいなあ。私、トーキョーに行くから」
「トーキョーってーー何言ってるの?お母さん反対よ」
「もう決めたんだから」
「絵里香いい加減にしないか!!父さんもお前のワガママにはもう付き合えんぞ」

「私、本気だからーーじゃあね」
「絵里香! お父さん止めて。あの子は無理よ」
「本当に出て行くならもう何があっても助けないからな!」

扉が取れてしまうんではないかと思うほど思いっきりエリカはドアを閉めたーー



私は、ひとりっ子だった。
子宝に恵まれない父と母に歳をとってからやっと出来た一人娘だった私はそれはそれは大切に大切に甘やかされて育った。

何をしても怒られない、欲しいものは何でも買ってもらえた。

その甲斐あって、いろんな習い事を始めてはすぐ辞め、飽きては辞めで長続きしたことはなかった。

学校の成績は最悪で雨が降れば欠席、風吹けば遅刻のような日々をそれを小学校の頃から続けていた。

唯一の救いは生まれ持った容姿の良さ。
本当に両親に感謝したい。
チャットやニコ生にちょっと顔を晒すだけでみんなに天使だの姫だのチヤホヤされる。
学校では、変わり者扱いだが、ネットでは普段の私を誰も知らない。
友達なんてリアルに居なくてもチャットではみんな仲良くしてくれるから寂しくない。

私は、今年で十九だが二度も補導されている。
一度目は万引き。
二度目はえん罪だが援助交際。
お金欲しさに下着を売っていた。
実際、私は売れなくて友達の後ろを付いて歩いてただけだった。

二度目の補導で両親を初めて泣かした。

援助交際ではなくたまたまラブホの近くを歩いていただけだったのだがPTAの学校関係者に目撃されたのだ。
しかも、私だけ? 何で?
説明したが両親は信じてくれなかったーー
それ以降は私はあまり出歩かなくなった。

いや、両親が厳しくなったのもあるが両親を泣かしたこともあり自分なりに反省しているのか引きこもりが強くなったように思える。

そう言う事もあり、高校を中退し通信制の高校に転入した。

通信制の高校には似たような境遇の子が何人もいて初めてリアルの友達が出来た。
通信制の高校はすごく楽しかった。

その中の子が一人良いバイトがあるからと私に勧めてきた。
その子とも仲が良かったから、その子がやってるならと簡単に返事をしてしまった。

そのバイトは化粧品の販売で、最初に自分が在庫を買い取り売れたら自分のお金というバイトだった・・・。

私は結局、売りさばく事なんてできる訳がなく両親に泣く泣く相談して両親がお金を払い可決してくれたのだった。

その後、私は楽しかった通信制の高校もその事を機に行きづらくなり辞めてしまった。

それから一年間はひたすら引きこもった。

ある時、このままでは何も変わらないと思いバイトをしながら一人暮らしをしようと思い立った。

まずは、バイト先を探した。

初心者でも大丈夫という居酒屋さんがあった。
学歴や年齢も問わないと書かれていた。

面接を受けすぐ採用された。
両親にはナイショにしていた。

夜な夜なこっそりと家を抜け出しバイトに行く日々を数週間過ごした頃、店長に呼ばれた。

姉妹店に戦力としていってほしいと頼まれたのだ。

人から頼まれたり頼られたりしたことのなかった私にとっては凄く嬉しかった。

次の日の夜、店長に案内された姉妹店という所に案内されたーー

そこはいつも通っていた店とはかけ離れた姉妹店というには見るからに違うキャバクラだった。

私は、店長の手を振り払いその場を逃げ出した。

初めて頼られたりしたのに裏切られた。
もう誰も信じられなくなった。

泣きながら家に帰ると両親が夜中に帰ってきた娘に驚いていた。
その時の私はそんな両親の優しささえウザかった。

もう一人になりたかった。

家を出たーー

両親に猛反対されたが無理矢理家を出た。

ファミレスでバイトをしながら一人暮らしをした。



長くは続かなかった。



性格なのか? 
引きこもりが板についているのか?
バイトを休みがちになっていった。

週に一度休んていたのが、週ニになり、二日に一度になりーークビになった。

クビになっても家には帰らなかった。
なぜか両親に言い出せなかった。

ガスが止まった。
お風呂は、入らなくても死なないと自分に言い聞かせた。

電気が止まった。
暗くなったら寝ようと思った。
ただ、チャットはしたいしスマホは親が未だに代金を払ってくれているので充電だけは何とかしようと思った。

水道水がついに止まった。

大家さんが部屋のドアを叩いてくるようになった。

布団を被ってそのままジッとしている時間が増えた。


水道が止まり、大家がやって来るようになって五日目遂に大家が部屋を開けて入って来た。
そこには、両親もいた。

両親は、変わり果てた私を見てまた泣いた。

私は、意識が朦朧とするなか、家に連れて行かれた。



また、両親に迷惑をかけたーー


滞納したお金は両親が全て払ってくれた。

その後、両親は私の為に懸命に働いてくれた・・・

私の今までの事もあり家にお金はほとんどないのは分かっていた。
母も知らぬうちにパートをしていた。
父は定年を迎えていたがそれでも定年を過ぎてもまだ働いている。

そして今年、私は料理を勉強したいと言い出し専門学校に入学したのだがそれも一ヶ月足らずで辞めてしまった。

電車通学するのが面倒臭いただそれだけの理由で・・・。

本当にやりたい事?
小さい頃に抱いた夢・・・

そうだった。
お母さんの髪を綺麗にしてあげたい。

美容師になろう。
お母さんが元気のうちにせめてもの恩返しに。

私は、新トーキョーに両親の反対を押し切り上京したのだった。

今の私・・・?

美容師とは無縁の自宅警備員だーー


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