れいぶる~自宅警備隊~

望月まーゆノベルバ引退

Fleeting Break


「どう言う事だい?Dr.ドリトル」

Dr.ドリトルは説明を求められ苦笑いを浮かべている。
「いや、まさかこういとも簡単に殺られるとは・・・」

「どう言うことかと聞いているのだ」

Dr.ドリトルは頭を掻きながら、
「ランクAを侮ってたあなどってたーーしかし、神崎カケルのデータは撮れました。コレをベースに新たなプログラムを作成し取り込みます」

「ーー神崎カケル」

「【レイブル】を扱える数少ない自宅警備員ですね」

「誰が【レイブル】を裏コードを教えたのだ?」

「ーー私は知りませんが」

「ーーーー」

誰が神崎 カケルに裏コードを・・・

★  ★  ★


後日ーー某病院

柊が負傷して入院している自宅警備隊中央本部連結の病院。

「どう言う事っスかね?」
「・・・何が?」
病室のベットで横たわりミイラのように包帯巻きになり点滴を受けている柊。
その柊を押し退けてベットに腰掛けているエリカ。

「いやいや、あの鏡面世界に迷い込んだ一般人の事っスよ」
「僕が現実世界に『迷い込んだ一般人』と帰ってきたらもう既に中央本部が待機していて保護してくれたんです」
「おかしいっスよね?何で中央本部が待機してるんスか?俺らが発見した事何で知ってるんスか」

ベットの隅で手を広げながらリアクションをする柊。
そんな柊を横目で千夏がタブレットを見てながら、
「セントラルコントロールが鏡面世界でも全て監視している可能性があるの。ポイントランキングだってゾンビを何体倒したとかどの支部がどこの支部を倒したとか申告しなくても勝手にポイントが加算されているのは監視されてるからなの。今回の件も監視されていたんだと思うの」

「僕等の行動は全て監視されている・・・」

「あの一般人は迷い込んだのか?セントラルコントロールが監視しているのに。どうやって?」
「・・・連れて来られた」
「誰に?」
「新種のクリーチャー?」

「分からないけど、一般人が鏡面世界にいたって事実は変わらない。コレが何かを示してるのかは知らないけどきっと何かのキッカケや今後の鏡面世界での鍵になりそうな気がする」

「なーんか怪しいよね中央本部って色々隠してそうだし」

「そういえばDr.ドリトル、京極政宗両方とも検索拒否がかかってネットで調べられないの」
「ますます怪しいわね」
「中央本部の地下研究室の件があったので調べようと思ったの」
「プロジェクトの秘密がまだ謎だったな。忘れてたよ」
 「どっちにしろ間違いなくこの二人は怪しいわね。絶対に関わってるわ」
「この二人を調べないとプロジェクトの謎には近づけないな。だけど調べたくても調べられないんじゃ・・・」

「関連記事を探したりして共通点を探ったりしてみる」
「悪いなちなっちゃん、頼むよ」
千夏は頷き、再びタブレットの画面を見つめた。

「じゃあ、そろそろ帰りましょ。じゃあね柊元気出しなさい」
包帯ぐるぐる巻きの柊のお腹を思いっきり叩くエリカ。

「ぎゃああああああ」

柊の叫び声が病院に響きわたったーー

( エリカ、鬼だな・・・ )


★  ★  ★

「ねえ、カケちゃんこの後暇?」
「ん?特にする事もないから暇って言えば暇だな」
「本当?なら一緒に出かけない?」
「おう!カイトとちなっちゃんはどうする?」

その言葉にエリカは顔を膨らませる。
「あっ、俺ひーーんっンん」
「私たちは二人で別件の用事があるの。ね?カイトくん」
慌ててカイトの口を塞ぐ千夏、そしてエリカと視線を合わせウインクする。
エリカは嬉しいそうに笑顔を見せる。

「そっかあ、じゃあどうする?」
「二人で行こうよカケちゃん」
強引に手を引っ張り歩き出すエリカ。

「楽しんで来てね」
「んっんんんん?」
千夏は笑顔で手を振り送り出した。カイトの口を塞いだままーー



晴れ渡る空ーーただ青が眩しい、鏡面世界では真っ白だっただけにこんな都会でも空は眩しく輝いている。

そんな眩しい陽射しを受けながら僕とエリカは肩を並べて歩いている。
ただ、一緒に歩いているだけなのに凄く嬉しそうな顔をしているエリカ。
僕なんかと歩いて何が楽しいのだろうか。

「どっか行く宛てあるのか?」
「えっ?んーと・・・」
上のほうを見て考えているエリカ。

「そんな事だろうと思ったよ。ちょっとのど乾いたし喫茶店にでも行こっか」
「うん」
エリカは満遍の笑みを見せて僕の腕にしがみ付いてきた。
冗談ぽく「寄せよ」と言ってみたけど本心は嬉しいに決まってるのだ。

第六支部内にある柊が入院していた病院から真っ直ぐ直線に歩いて来た。

更にもう少し歩けば繁華街に面した大通りにぶつかる。こことは違い人混みに溢れた都会らしさが戻ってくる。

僕とエリカは他愛もない話を永遠としながら大通りにある喫茶店に入ったーー

 扉に掛かっている鈴の音が小さな店の隅々まで緩やかに響き渡る。
 コーヒーのほろ苦い香りとケーキの甘い香りが店内に広がっている。
  
ウエイトレスが水を運んで来てテーブルに置いた。

カウンター席が四つ、テーブル席が五つの小さな店内には他の客はおらず僕とエリカの貸し切り状態だった。

ウエイトレスが運んでくれた水を一口飲んでメニューに目を通す。
エリカもメニューを見て僕の顔をチラッと見た。思わず目線が合ってしまった。

「何で目を反らすのよ」
「べ、別に。見つめ合ったままじゃおかしいだろ?」
「おかしくないわよ。私は嫌じゃないもん」
「ーーとりあえず注文しようぜ」
本心なのか悪戯に言ってるのかたまに分からなくなる。
黙ってれば本当に可愛いと思う。
キツイ口調とワガママな態度がなければ優しいし面倒見のいい子だと思う。

まじまじとエリカを見ていると視線に気付いたのか顔を赤くして下を向いて、
「本当に見つめないでよ。恥ずかしいじゃん」
こう言うところも可愛いと思う。

僕はアイスコーヒー、エリカはアイスティーを注文した。
時刻は午後三時になるところだ。
店内にはクラッシックの音楽が流れている。
穏やかな天気とのんびりした雰囲気、そして目の前には可愛い女の子。

僕の人生で初のリア充というモノを経験しているのかもしれない。

ウエイトレスが注文した飲み物を運んで来てくれた。

コーヒーを飲みながらこの前の僕の部屋での出来事を思い出したーー

みんなの過去を全然知らない。
僕と出会う前はどこで何をしていたのかもーー

「エリカは何で自宅警備員になったの?」
「私は、お金かなーー」
僕の質問に目を細くしてストローをコップの中でクルクルと回しながら答えた。

「お金・・・」
「美容師になりたかったの。ただ、バイトしても続かなくてそれで自宅警備員に」
「カケちゃんは?どうして自宅警備員になったの?」
「僕は、親に無理矢理家から追い出される形で自宅警備員になったんだ。自分の意思とは関係なくね」
「そうなんだ。そういえば妹さんがいるんだよね?全然連絡とってないの」
「ああ、妹が高校卒業と同時に家を出て行ったからそれっきり会ってないな」
「仲悪いの?私、兄妹いないから居たらメッチャ仲良くしてると思うなあ」
「嫌、仲は悪くなかったと思う。ただーー」

ただーー僕が引きこもってから妹に合わせる顔がなくなったんだ。

妹の大好きな理想の兄はもう居なくなった。
僕は、妹の自慢の兄でいたかったのかもしれない。

僕はどこで人生の歯車が噛み合わなくなったんだろう。

「ーーカケちゃん?大丈夫、顔真っ青だよ」
「うん、大丈夫大丈夫」
僕は、アイスコーヒーを一気に飲み干した。

「私もみんなに出会う前はあまり良い思い出ないの。だから逆に今のこの暮らしのが好きだし充実してるって思う」

僕と全く同じことをエリカも思ってたんだな。 

「カケちゃんと出会えた事が一番嬉しいかな」
真っ赤な顔でそう言うとストローを咥えて下を向いたエリカ。

「・・・僕も同じだよ」

心臓がドキドキして口から出そうだったーー
思わず声に出してしまった。

エリカは嬉しそうに口を手で押さえていた。

この日から僕はエリカを友達以上の存在として意識するようになった。


そのあとは二人手をつないで街を歩き、少し早い夕食を食べてマンションに帰った。

こんなに楽しい時間を過ごしたのは、いつ以来だろうか・・・。

いつまでもこのひと時が続けば良いと思った。

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