れいぶる~自宅警備隊~

望月まーゆノベルバ引退

Encounter


「ねえ、私たち付き合ってるの? いつも忙しいって全然会えないじゃん。こんな状態で付き合ってるって言えるの?」

「ーーごめん」

「ごめんって、私より部活をとるの? 最低」

僕は、頬に思いっきり平手打ちをもらった。

僕は、頬をさすりながら苦笑いを一人浮かべているとーー

「ーーお兄ちゃん」
僕は、びっくりして振り返った。
そこには妹が悲しそうな表情を浮かべて立っていた。

「優梨奈、見てたのか? 何かカッコ悪いとこ見られちゃったな」
僕は人差し指で頬を掻いた。

妹は、首を横に振りながら口を尖らせていた。

「ーーお兄ちゃんは悪くないもん」
「えっーー」
「お兄ちゃんは誰よりも努力してるもん。一生懸命、夢のためにいろんな事我慢してるもん。だから・・・悪くないもん」
顔を真っ赤にして頬を膨らまし下を向きうつむいている。

「優梨奈・・・」

「お兄ちゃんのこと何も分かってないんだから」

今にも泣き出しそうな雰囲気だ。
ぶっちゃけ僕の方が泣きたいくらいなのに。

僕は妹に近づき頭を撫でながら
「ありがとう」

「ーーお兄ちゃん」
妹に抱きつかれたーー 誰かに見られたら誤解されそうな場面だ。

「優梨奈、優梨奈ちょっ・・・」

僕が焦っているとーー

「私がお兄ちゃんの彼女になってあげよっか?」
上目遣いで見上げてきた妹の顔は真っ赤だった。

「えっ?」
困っている僕の表情を見て僕から離れた妹は、
「ーーウソ! 嘘だからね」
そう言うと妹は、僕に背を向けて走って行った。



最近過去の夢を見ることが多いーー

全然妹に会ってないが元気だろうか?
確か今は大学生だったはずーー

自宅警備員になっていろんなことが目が苦しく動いていて、正直僕にも何が起きているのか分からない。
鏡面世界の扉が開いてからは特に・・・

「妹がどうしたって? カケちゃん妹いるの」
いきなりベットで僕にまたがっているエリカ。

「うわっ!! なんでお前が居るんだよ。最新型マンションの防犯システムはどうなってんだよ」

「えへへ。カケちゃん妹いるんだあ?私は一人っ子だったから兄妹とか憧れたなあ」

「そうなんだ。あまりみんなの昔のこととか聞かないから分からないーーって、そろそろ僕の上から退いてくれよ」

「ごめん、ごめん」
エリカは、カケルの上から降りた。

僕は、枕元のスマホを手に取り時間を見ようとした。ーーん? 着信あり。

( 誰だろ? 自宅警備隊中央本部・・・か)

「なに、スマホじっと見つめて固まってるのよ?怪しいわね」

「べっ、別に怪しくねえよ。着信があったから誰かな?って見てただけじゃん」

「ふーん。っで誰?」
「はっ?何で」
僕は思わず口を大きく開けた。

「何?私に言えない人からなの」
「ーーだから何でお前に言わなきゃならないんだよ」
「怪しくない人からなら言ってよ」
エリカは、なぜか真剣な表情で瞳をうるうるさせて見つめてきた。

「ーーーー」

「・・・他の女の子からなんでしょ?」
「ーーちゅ、中央本部からだよ」

「・・・本当に?」
「ーーっん当だよ」

「神と私に誓う?」
「ああ、誓う誓う!!」
僕は、最後は投げやりになった。
正直このやり取りが面倒くさいと思ってしまった。

エリカは安心したのか少し笑みを浮かべながら僕の寝室から出て行ったーー

僕は、疲れたのか大きくため息付いた。

「ーー中央本部に折り返してみるか。イズミさんでいいかなとりあえずは」


ああ、朝から面倒くさいな・・・


★  ★  ★


「合同調査?第四支部とーー」

「冗談でしょ、あそこ評判と柄が悪くて有名なんですけど」
( やっぱりついて来たエリカ・・・)

僕とエリカは中央本部に居る。
朝の電話は中央本部の呼び出しだったからだ。

「鏡面世界は新種のクリーチャーだけでなく他の危険生物もいるかも知れない。大隊部隊が組めない第十二支部は他の支部と組んで任務を遂行するしかないのよ。嫌ならメンバーを集めて大隊部隊を作りなさい」
イズミ呆れたという風に肩をすぼめる。

「何よ、こっちも必死に勧誘してるわよ」
ふんっとエリカは口を尖らせた。

「第四支部なのは何で?他の支部で大隊部隊を作れない支部もあるのと思うんですけど」

「鏡面世界でポイントを上げてる支部でやってほしい任務なの。第九支部は全てに他の支部を吸収合併してるわ。第四支部も他の支部を吸収合併してるのだけど今回はたまたま第四支部だったって事で宜しくね」

( たまたま第四支部って・・・ )

ノックというより殴ってるような音が二回応接間に響いたーー

「おっ、噂をすれば第四支部が来たかな?」

「ちわっ。何の呼び出しーーカンザキ?」
扉を開け入ってきたのは上下真っ黒の皮のライダースに身を包んだ男達三人が入ってきた。

「ーーーー」
( 誰だ? )

「ーーカケちゃん知り合いなの?」
エリカは小声で耳打ちしてきた。
僕は、首を横に振ったーー

「あの有名なカンザキ カケルと一緒の任務とは光栄ですよ」
あとで分かるのだが第四支部の黒崎ショーゴというリーダーらしい。
プロレスラーのような体つきでリーゼント、頬に傷があり上下真っ黒の皮のライダース。これが第九支部ジョーカーズと呼ばれるランキング二位の支部だ。

黒崎の両隣には同じ黒のライダースを着てサングラスをかけた仲間を従えている。

「ーーっで、イズミさん任務って何スか?」
黒崎が僕を横目で見ながらイズミさんに問いかける。

「壊滅した第三支部の社会ゾンビ及びクリーチャーの一掃と生存者の確認よ。任務完了の暁には第三支部を管轄エリアにしても良いわよ」
「なるほど、美味しい任務ってわけだ」
「ショーゴさん、第十二支部には割に合わない話ッスね」
「どうしたよシンジ?」
「小隊しか組めない支部に管轄エリア二つは無理っしょ?」
「そりゃそうだな」
第四支部の三人は高笑いしている。

それを見たエリカは顔を膨らましていた。



「何なのアイツら。カケちゃん何で言い返さないのよ」

「実際そうだろ?中隊すら組めない僕等には管轄エリア二つは無理だ。今の鏡面戦線の世の中小隊規模の勢力ではすぐに壊滅させられる」

「やっぱり十二支部のメンバーを集めるしかないのね」

「ああ、せめて小隊を二つ形成するか中隊規模で連携するかしないととても太刀打ち出来ない。特に第四支部は構成員の数は圧倒的だからね」

モノレールから外の景色を眺めてみて思う。
鏡面世界で僕らが必死で戦っていても周りの人たちは何も知らないんだろうな。
自宅警備員の存在自体が薄れていっている感じすらする。
そう思うとたまに必死で戦っている自分が馬鹿らしく思えてくる時がある。
だけど、僕らが戦わなければ現実世界に影響するのは確実だ。

「カケちゃんどうしたの?ボーッとして何考えてたの?」
大きな瞳をくりくりさせて真っ直ぐエリカは見つめてきた。
本当は、僕の考えてること分かってるんじゃないかと思う。

僕は何も言わずエリカの頭をポンポンと軽く二回叩いたーー
エリカは嬉しそうに笑って見せた。

「カケちゃんは、自宅警備員になったの間違えだったとか後悔してる?」
図星を突かれたって心を読まれた?
女の勘?
僕は思わず目が点になった。

「私は、自宅警備員になって良かったよ」
僕の方に微笑みかける。

「だって第十二支部のみんなやカケちゃんに出会えたんだもん。それだけでも十分嬉しいよ」

「・・・そうだよな。自宅警備員じゃなければ出逢えなかったんだもんな」
「そうだよ。カケちゃん私に会えて良かったでしょ?嬉しいでしょ?」
隣に座っているエリカが顔を思いっきり近付けてくる。

「ーー嬉しいよ、嬉しいから!!」
恥ずかしくてそっぽを向く僕。

「もう!嬉しそうじゃない」
顔を膨らませるエリカ。

嬉しいに決まってるじゃないか。
エリカが可愛いというのもあるけど、第十二支部のみんなに出会えて今のこの毎日がこんなに楽しくて充実していると感じる日々が嬉しい。

みんなに出会わなければ今の僕は居なかったかもしれない。

自宅警備員にならなければみんなに出逢えなかった。

引きこもらなければ自宅警備員にならなかったかもしれない。

運命って一つでも嚙み合わなければ今は無かったんだなって改めて思ったーー

停車駅の案内アナウンスが流れる。

「カケちゃん降りよ。第十二支部だよ」
「うん」
エリカが差し伸べた手を思わず握ってしまった。

エリカが可愛いのもあるけれど、何となく自然な感じがして僕はいつまでもその手を握っていたーー



 第四支部との合同任務が始まる。

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