れいぶる~自宅警備隊~

望月まーゆノベルバ引退

失踪事件⑥ Dr.ドリトル・ミトラ


Dr.ドリトルの研究室があるのは、中央本部の一番隅の地下室にあった。
中央本部のエントラスの案内図には載ってない。
政府の役人などには見せてはならないってことなのだろうか。
僕たちもイズミさんにこの地下室のことは秘密だと口酸っぱく言われた。
それほど、重大でヤバイ研究でもしているのだろうか。

そこは行き止まりだったーー

イズミさんが監視カメラに首からぶら下げていたID証を見せると地下への階段が現れた。
薄暗い冷たい階段を降りて行く。
明らかに気温が下がったような気がした。

しばらく降ると先ほどの石造りの階段には不似合いな近未来的な自動ドアが現れた。
イズミさんは、足を止め振り返ると、

「ーー良い、これから見るもの聞くこと全て他言無用でお願いね。本来ならここには中央の幹部以外の出入りは禁止なの。あなた達を連れてきたのはそれだけ私が信用しているからよ。頼むわね」

僕たち全員がほぼ同時に頷くと、イズミさんはそれを確認しまた首からぶら下げているID証をカードリーダーに読み込ませた。

近未来的な自動ドアは静かにスライドし中身の全貌が明らかになったーー

「Dr.ドリトルお久しぶりです」

「今日はずいぶんと賑やかなだねえ、フォフォフォ」

白髪で髪の毛の薄い小柄で小太りの老人。
いかにもドクターと言うように白衣を纏っている。年季の入った眼鏡は左右傾いており逆に見づらいのではーーと思ってしまう。

Dr.ドリトルとイズミさんは親しそうに僕たちを無視してしばらく談笑していたが、やっと僕たちの存在を思い出したのか、ようやく本題入ってくれた。

「Dr.ドリトル紹介するわ、こちらは第十二支部の自宅警備隊のメンバーよ」

「フォフォフォ、魔弾のカンザキだったかな? 【 レイブル 】を扱えるんじゃろ?」

「ーーよくご存知で」
( 驚いた、僕の名前を知ってるとは思わなかった )

「フォフォフォ、知ってるとも。君は数少ないランクAで【 レイブル 】を扱えるコード零なんじゃからねえ」
Dr.ドリトルは、僕をマジマジと見ながら笑った。
その笑みはまるで新しいおもちゃでも見つけたかのような不気味な笑みで思わず僕は背中に寒気が走ったーー

「Dr.ドリトル本題の質問に入るわ。そのために私たちはここに来たのよ。正直に答えてくれるとは思わないけど教えてくださることがあれば答えてほしい」
イズミさんの言葉にDr.ドリトルは眼鏡を押さえながら笑っている。

「フォフォフォ、何が知りたいんじゃ?言ってみい」

「Dr.ドリトルあなた本当は、何か知ってるんじゃないんですか? 今回の失踪事件について。 自宅警備員たちが目撃したという鏡の中から謎の人物が出てきたということと」

「んんん・・・困ったねえ。まだ知られたくなかったんだけどねえ。だから政宗ちゃんには自宅警備隊システムはまだ早いっていってたんだよね」

「ーー政宗ちゃんって・・・局長はこのことをご存じだったんですか? 」
「知ってるも何も私の研究室の活動費は全て自宅警備隊中央本部から貰っているのだよ。今回の件も分かっていたんではないかな」

「ーーーー!!」

「フォフォフォ。 これは喋ってはならない事を言ってしまったかも知れないかな」

「局長は、知っているのになぜ自宅警備員に調査を・・・」

マッドサイエンティスト、Dr.ドリトル・ミトラ。
彼の噂は尽きる事はないーー
レイブルの生みの親であり魔導適性検査など現在の自宅警備員の母体を作った科学者だ。

しかしーー

その反面、生き過ぎた部分が多く人体実験に近い行為を行ったりしていたなど、噂が絶えない。
実際、今現在彼が何の目的でこの実験施設のような場所でどんな事をやっているのか検討もつかない。
彼のような科学者を野放しにしておく事自体が事件を招くきっかけではないのか?

「Dr.ドリトル、中央本部がやろうとしているプロジェクトはご存知ですか?」
僕が何気なく質問を投げかけてみた。
Dr.ドリトルは一瞬だが動きが止まったように見えたーー

「ーーさあ、知らないなあ。なんだいそれは」
Dr.ドリトルは無表情で僕を見た。
しかしーーその瞳は明らかに知らないとは程遠い冷たい目をしていた。

「ーーーー」
これ以上聞いてはいけない気がした。

「局長がこの件に関わっているだけでも知れて良かったわね。あとはこの件を局長に問い詰めればいいだけだしょ」
エリカがそういってこの場を立ち去ろうとすると、

「それは困るんじゃよ。研究費を貰えなくなってしまうのでね」
Dr.ドリトルは不敵な笑みを浮かべる。
「はあ?何言ってるの。こんな悪事黙ってられる訳ないでしょ」
エリカが肩をすくめてみせる。

「ーーだから、黙ってて頂くことを承諾してもらうか。それとも」
Dr.ドリトルの手にはいつの間にか手術用のメスがぼんやりと青白く光っていた。

「きゃっ、何?」
エリカは慌ててその場を離れる。
「お嬢、下がってーー」
柊が前に立ち、チェンジする。

あれ?

「・・・チェンジ出来ないッス」
「なんだって?」
僕もチェンジを試してみるがーー
( 本当だ、チェンジ出来ない。なぜ? )

「ーー当たり前よ。チェンジシステムを作ったのもDr.ドリトルよ。この研究室は特異能力は全て遮断さらているわ」
イズミさんは分かっていたかのように無抵抗である。

「ーーっで、こちらの条件を飲み込んでくれませんかね?ええ、こちらも無条件とは言いませんよ。そおですねえーー鏡面世界のゲートを解放してあげますよ。自宅警備員なら誰でも出入り出来るようにね」

「鏡面世界に自由に出入り・・・カイトを助け出せる」

「その通りじゃよ。その代わりーー分かってますよね?約束じゃよ」
Dr.ドリトルは悪戯っぽい笑みを浮かべていた。

「約束は必ず守るよ」
僕は真剣な眼差しをDr.ドリトルにおくった。

「ーーそうそう、言い忘れましたがどんな鏡のからでも自由に鏡面世界に入れる訳ではないんじゃ。合わせ鏡になっている場所のみですのでくれぐれもご注意を」
Dr.ドリトルはフォフォフォと笑いながら研究室の奥に消えて行ったーー

僕たちも研究室を後にしたーー

自動ドアが閉まる瞬間、振り返るとDr.ドリトルが僕たちが居る間には見せたことのない狂気に満ち溢れた表情でこちらをじっと物陰から見つめていた。

僕は思った。
やはりアイツは、何か知っていてそのプロジェクトもアイツが絡んでいると。

「ーーカケちゃん、どうしたの?ボーッとして。顔色悪いよ、大丈夫?」
心配そうに僕の顔をエリカが覗き込んだ。

「あ、ああ、大丈夫だよ」
( こういう時のエリカは、凄く優しいな )

「神崎さん、カイトをやっと助け出せるますね」

「うん。 早く助け出してやろう」

地下への階段を上がり中央本部の廊下に出ると再び地下への階段は塞がれた。

「カケルくん。私はこれから会議があるの、後は戻れるわね?」
「大丈夫ですよ。今日はありがとうございました」
「ええ、こちらこそ。また何かあったら遠慮なく連絡してね」
「はい、ありがとうございます」
イズミさんは僕たちに背を向け去ろうとしたが再び戻って来たーー


「ーー鏡面世界に入る際はくれぐれも注意しなさい。どんな影響を受けるかわからないわよ」

イズミさんは、これまでに無いくらい真剣な表情を僕たちに見せた。

鏡面世界ーーそこはどんな場所なんだろう。

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