れいぶる~自宅警備隊~

望月まーゆノベルバ引退

戦闘:明け方のエリア外


「優梨奈ちゃんのお兄さんカッコイイよね
「背も高いし、スポーツ万能で羨ましいなあ。ウチの兄貴と交換して欲しいよ」
照れ臭そうに顔を真っ赤に染めて喜んでる女の子。

朝の学校への通学路を女の子三人が制服姿で横一列で歩道を占領して歩いている。
朝日の淡い光が反射してより一層女の子達が眩しく映る。

「優梨奈ちゃんのお兄さん県外からたくさん高校の推薦来てるってウチのお母さんが言ってたよ」
「私も聞いた本当に凄いよね。優梨奈ちゃんのお兄さんって」
「ーー私の自慢のお兄ちゃんなの」
自慢気に笑顔で答える。


★ ★ ★

なぜこんな夢を見たんだ?

妹の笑顔でニヤニヤしながら起きる兄貴って。

しかしーー悪い気はしないが今の自分とのギャップに胸が痛む。

もう、忘れていた記憶・・・嫌、忘れたい記憶だ。
封印してきた。
過去の自分なんてただ、惨めなだけ。
もうあの頃に戻れない。

それ以降の僕の姿を見て妹はどう思ってきたんだろう。
今の僕を妹はどんな風に感じているだろう。
僕のせいで虐められてはいなかっただろうか。

もう妹とは何年も顔を合わせていない。

どこで何をしてどんな生活を送っているのか知らない。

妹は県外の高校へ入学し、そのまま県外の大学に入学したとまでは知っている。


洗面台で顔を洗いながら鏡の中の自分の顔を見たーー

「相変わらず冴えないツラしてんな」

慣れない都会の一人暮しだが自分一人の自由な空間を独り占め出来るのは有り難い。

自宅警備員として働いているおかげとなぜか能力判定Aだったおかげでチート能力も備わって常にスコアリーダーで金に困ることはなくなった。

まっ、その実績を買われて管轄がこの大都会トーキョーの第十二支部になった訳だが。
慣れた手つきで沸かしていたコーヒーをカップに注いだ。
コーヒーをすすりながら大きな窓から覗く複雑な形状をしている大都会のビルたちを眺めた。


しばらくするとーー



「こちらコード7008。誰か応答願います!コントロールセンター!!誰か、誰か応答願います!」

通信デバイスの音と騒がしい声が響いた。


( またしても嫌な予感がする・・・)

しばらく無視していると再び通信デバイスが騒ぎ出したーー

「こちらコード7008。頼む誰か、誰か応答してくれ!!頼む、誰か・・・」

必死でとても深刻な状況だけは良く伝わってきた。
そんな時は大抵面倒くさい状況だ。
普通は無視してしまう。
ましてや、まだ明け方だ。
面倒なことに首を突っ込みたくないのはみんな同じだ。

( ・・・仕方ない。 ハア )

大きなため息を吐き通信デバイスを手に取った。

「こちらコード1001。どうした?」

「ーーやっと繋がった感謝する。黒だ!黒が街に・・・この地区の自宅警備員のおよそ半数がすでに奴に殺られてしまった」

( 通称・黒。クリーチャーか・・・面倒だな  )

「今の現象は? 戦っているのは何名でスコアリーダーは?」

「ーー現状戦っているのは私一人だ。スコアリーダーも私だ」

「・・・・・・」

( マヂか・・・どうなってるんだ? )

「ーーぐっ、 また黒が・・・頼む援護に来てくれ、場所は旧東京西地区だ」

ここでコード7008からの通信は途絶えたーー

正直、行くも行かないも自由だと思う。

危険を冒してまで行く必要があるのか?
自分の管轄下にある支部ではないのに守る必要があるのか?
会ったこともない人のために、同じ支部の人間は戦っていないのに・・・

そう思うとーー

「馬鹿らしいな」


★ ★ ★

特別緊急警報が鳴り響いている。
明け方の住宅地ーー

その中を迷彩服を着た青年が一人必死に戦っている。
静まり返る街はまるで青年を無視するように寝ているようだ。

クリーチャーは、青年の攻撃を平然と回避する。
青年は、ギリギリのラインでクリーチャーの攻撃を何とか回避しながら攻撃している。
誰の目が見ても青年は分が悪い。

クリーチャーは、お構いなく前進するーー

「くっ、ーー行かせない。応援が来るまで守り抜く・・・」

青年の後方には大きなタワーマンションがそびえ立っている。
クリーチャーは、間違いなくそこを目指して前進している。

あのマンションには沢山の住人と自宅警備員もこの支部のほとんどがそこで暮らしている。
そこが落とされればこの支部は壊滅してしまう。

機能を失った支部は今後、中央からの支援は受けれなくなる。 謂わゆる切り捨てになるのだ。

もともと、中央は新トーキョー十三支部をメインに支援援助している。
地方の支部にはほとんど支援援助していない。
そこで崩壊した支部に新たに自宅警備員を新設して支援援助するなんてことをする訳はない。

青年は、そのことを理解していた。

だから必死に戦っている。
仲間に声をかけたが誰一人戦いに出てくれなかった。

もともとこの地域一帯を青年が一人で守ってきた。
地方は社会ゾンビやクリーチャーはほぼ出現することはなかったからだ。
青年自身もクリーチャーを相手にするのは初めての経験だったーー

「黒がここまで強いなんて」

応援はまだか?
自分の体力、気力は最後まで保つのか?

ダンッ!!

銃声音が街中に響いたーー

「ーーーー!」
激痛が走るーー

今までの人生の中でこれほどの痛みを感じた事は一度も無い。

「ーーうっ、左肩を・・・」
利き腕でなく、更にかすった程度で撃ち抜かれた訳ではないのが幸いだった。

それでもこの痛みはーー
青年は、立っていられず思わず座り込んでしまった。
この光景を目にして黒が逃してくれる訳もなく次の一手はすぐそこまできていた。

ダンッ!!

銃声音が街中に響いたーー

青年は思わず目を閉じた。
死んだ。
死んだ?

あれ?
目を開けた先には迷彩服を着た人物がいた。

「ーー防御障壁のやり方教わってないのかよ?」

青年の目の前に現れた男は自分自身が待ち焦がれた援軍。
それも、エンブレム三ツ星。
「あなたは、今噂の魔弾のーー」
ーーっ、
言いかけた時カンザキは動き始めた。

神崎ーーカケル?




「黒は、一体だけか? ん、マンション?」
僕は、直ぐさま状況を把握する。
慣れている管轄の第十二区ならば頭に全ての土地勘があるので動けるが初めての土地ではいつどのタイミングで攻撃されるか分からないからだ。

「コード7008、あのマンションは?」
「ーーあそこには沢山の住人と自宅警備員が何名もいる」

「何名も?なぜ出てきて戦わない?黒の目的は住人じゃない!僕たち自宅警備員だ。社会ゾンビは住人を襲うが黒は魔導能力を察知して行動しているんだ。マンションにとどまっていることで住人を巻き込む危険性が上がるだけだぞ」

( 地方の自宅警備員はそんな事も知らないのか?)

「とりあえず黒は僕が食い止める!コード7008はマンション前で社会ゾンビや他に黒が攻めて来ないか防御に努めてくれ」
「了解した」
( 僕、もしかしたらコイツのこと・・・)


黒は、一目散にタワーマンションに向かっていた。
僕は、遠距離から威嚇射撃をし注意をこちらに向けようとするが、

「ーーダメか・・・余程マンション内の自宅警備員たちが気になるようだな」
( 一体何名の自宅警備員がいるんだ? )

「仕方ない。チルドレンコード零【 レイブル】発動」
爆発的に溢れ出す魔導量、運動能力、五感全ての能力の限界値を突破する選らばれた自宅警備員にしか使えない裏コード。

黒はこの爆発的に溢れ出す魔導量に直ぐさま反応を見せるーー

僕は、一瞬で黒との距離を詰めるーー

「やっと追いついた! このマンションは諦めてもらうぜ」
魔導を練り上げて魔弾を創り上げる。
何もない空間から魔導銃を取り出す。

黒は後方に後退りしながらお得意のライフルを構え僕に狙いを定めて攻撃してくる。

僕はそれを横っ飛びし回転しながら銃に弾丸を詰め込んだ。
起き上がると同時に黒にロックオンさせる。

「永久を彷徨う闇なる者よ 我が聖なる炎に身を焦がせーー《魔弾 フレイムフュージョン》」

黒に弾丸が命中したと同時に聖なる炎が黒を包み込むーー

黒を倒したが安心はしてられない。
タワーマンションの方から銃声が聞こえる。

タワーマンションの周りを大量の社会ゾンビが囲んでいた。
コード7008は必死に戦っている。

「今、助けてやるからな! 永久に彷徨う此の世ならざる者よ 浄化の力により消え去りたまえ 《魔弾ラグナ・リボルバー》」

光の閃光弾が辺り一帯を包み込むーー

「ーーもう一発!! 消え去れえええ」

凄まじい爆発音と光の閃光で真昼のような明るさが一瞬灯った。


社会ゾンビは全て浄化されたーー



「なぜお前一人なんだ?さっき少しこの地域の自宅警備員のデータ調べたよ」


「調べたならわかるよな、このマンションは十代の自宅警備員が多く任務を放棄する者が多い」

「みんな知ってるよな?ポイント取らないと剥奪されるの」

自宅警備員は月に最低1ポイントは獲得しないとライセンスを自動的に剥奪されてしまう。
謂わゆる職務放棄扱いされてしまうのだ。

「みんな知ってるよ。知っているがそれを無視してるって言うか面倒くさがってるんじゃないかな。他人の指図は受けないし自分がなりたくてやりたくて自宅警備員何てやってる訳じゃない。守りたいモノは自分で決めるってね」

「ーーそれでもポイント取らないと強制的に剥奪に・・・」

「多分、それも含めてどうでも良いと思ってるんだと思う。新世代の十代の子供たちは無気力だから」

「無気力って・・・お前それでもいいのかよ。この先も黒が来るかも知れないのにそれでも一人で戦うのかよ」

「ハハ、神崎今日はありがとうな。本当に来てくれて助かったよ。お前の元気な姿をまた見れて嬉しかったよ」

「やっぱり、顔見たことあると思った。僕のこと知ってたんだね」

「一目見て分かったよ。学生の頃から全然変わってないよ。それと良かったな、肘治って」

「肘?」

「コントロールセンターに報告やら連絡やらしなくちゃならないからまたな」
コード7008は通信デバイスを片手に去って行った。


「ああ」

肘って??


いつの間にか陽は昇っていて僕らが必死で守り抜いたマンションから人々の楽しそうな声が聞こえて来ていた。

ああ、帰って寝よ。

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