停導士の引き籠もり譚

山田 武

お土産を渡そう



 依頼は無事終了。
 オーガの死体を回収し、村長に報告して撤収した。
 祝杯だの宴会だのと言っていたが、どうでも良かったので断ったぞ。

 ……いや、飯が美味くないしな。
 酒も要らないし女も要らない。
 金は報酬で貰うことは分かってるんだし、残る必要が無い。

「ただいまー、お土産はコイツだぞー。……できるだけ情報を集めといてくれ」

「了解しました」

 スキルによって屋敷へと帰って来た俺は、お土産を侍従に渡して直ぐに部屋に戻る。
 依頼達成の報告は明日でもできるが、心地良い睡眠は今しか取れないんだよ。

「"清潔"、"秘匿"……よし、準備OKだな」

 "清潔"は俺の付いたあらゆる汚れを消し去り、"秘匿"は俺の周囲に特殊な結界を複数展開する。
 これら二つを合わせて使ってから眠りに就くのが、最近のベストなのだ。

「お土産ができるだけ役に立ってくれていると良いんだけどな……"お休み"」

 そんなことは明日でも考えられるか。
 瞼に掛かる重圧に耐えきれず、俺は大人しく幕を下ろしていくことになった。


「それで、情報は取れたか?」

「はい、これがそれを纏めたリストとなります。今は精魂果てて眠っていますが、寝かせますか?」

「……いや、少しにしておけ。アレにはまだ価値があるからな。しっかりと保存しておいた方が良い」

「差し出がましい発言、申し訳ありません」

「いや、いつかはそうするかも知れなかったし、強ち間違っていないだろう」

 翌日、執務室でボーっとしていた俺の元に資料が届けられる。
 昨日渡したお土産を、有意義に使ってくれたようだ。

 しかし、ずっと寝かせるのは不味いな。
 一応は借り物だし、返そうとした時に壊れているというのも……少々罪悪感がな。

 侍従との会話はここで終わり、執務室には静寂が訪れる。
 ま、基本的に静かな場所なんだよ。

「何かやり忘れたこと…………あ、報告をまだ済ませないのか」

「それに関しましては、わたくし共で行わせて頂きました」

「おぉ~。ありがとう、本当に嬉しいや」

 俺がやらなければいけないことが、誰かの手によって勝手に済む――それがどれだけ素晴らしいことか!

「ですが、その……イム様を城へ呼ぶように指示されてしまい……」

「…………え? 行かなきゃ、駄目?」

 俺と言う主と、国からの指示と言う何かの間で悩んだのだろう。
 少ししてから、首を縦に振ってきた。

◆   □   ◆   □   ◆

王の間


「流石イム様! 迷宮主を倒したその実力、村の者達も理解したでしょう」

「ハハッ。そう言われると照れますね。私はただ、皆様の平和の為に動いているだけですから」

「それはそれは! 異世界から来た者達は、とても情に厚い方々なのですね」

「私達からすれば、それが普通ですがね」

 まぁ、ここまでの会話をフィルター越しに見たならば、相当黒い会話が聞こえてくるだろうな。

 偶に確認しているのだが、王様はどうやらまだ足掻くらしい。
 折角寄生先に良い場所だと思っていたんだが……そんなだと、息が詰まってしまう。

「ところでイム様、一つお願いがあるのですが……」

「ん? どうしたのですか?」

「イム様に、護衛の依頼を頼みたいのです」

「護衛……ですか。一体どなたのですか?」

 護衛。
 まぁ創作物だとよくある依頼だな。
 ここで出会う人物が、後の主人公に関わる人物だった……なんて展開もテンプレに入っている気がする。

「――この国の第三王女、フレイア。彼女をレンブルクまで守ってほしいのだ」

「レンブルク……ですか」

 確かレンブルクは、ここから少し行った先に在ると言っていたな。
 丁度そこにも中迷宮があって、既に従魔の一体が攻略済みなんだよ。
 ……っと、ダンジョンの話は後回しだ。

 本題はここからだ。
 その国には、あるクラスメイトが向かっている。
 特に『俺Tueee!』ができるというワケでもないが……スキル構成がだいぶピーキーな奴なんだよ。
 あ、リュウハン君じゃないぞ。
 アイツは確か、俺達を召喚した国が最も敵意を抱いている国へと送られたんだっけか。

 スキルがスキルなので、国堕としでもやらせるつもりなんだろうな。

 え? レンブルクに行ったクラスメイトのスキル? ……ま、魔法特化だよ。

「えっと、フレイア様はどうしてレンブルクまで? あ、言えないならば言わなくても構いません。無理矢理聞き出すようなことはしませんので」

「いや、イム様には正直に話しましょう。実は新たな同盟を締結する為、交渉役としてフレイアは向かうのです。他の王子や王女は他のことを行っていますので、フレイアが行くことに。ですが、現在国の兵士は第二王子の元演習を行っています。騎士を付けようにもフレイア自身がそれを拒み……ですので、イム様にお願いしたい所存で」

 長い、それに一部情報が抜けていた。
 色々と隠している所がありそうだ。
 しかし、第三王女と言えば噂があったんだよなー……なんでも、特別なスキルを持っているとか。
 ――うん、実に面白そうな奴だな。

「分かりました。その依頼、受けさせて頂きます」

「おぉ、ありがとうございます! それでは詳細を説明していきましょう」

 うーん、アイツに会わなければ面倒事にはならないよな。


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