停導士の引き籠もり譚

山田 武

討伐をしよう



 翌日
 ゆっくりと熟睡をした結果、魔物の討伐は午後からとなった。
 村人達が不審な目で俺を見ているが、たかがちょっと長めに寝ただけで疑われる信用など、要らないにきまっているよな。

「さて、反応はどこかな~……こっちか」

 昨日を放った"黄の矢"によって、魔物の場所は随時確認が可能だ。
 なんとなく分かるという感覚に従い、ただただ森の中を歩いていく。
 目的の魔物が暴れていた所為なのか、妙に殺気立っている気がするな。

「あ、でも念の為にやるのも大切だよな。こういう時、面倒事って面倒だし……」

 とりあえず、保有している探索に便利なスキルを起動しておく。
 頭の中に森の全体図が浮かび、様々な色によって存在するものが振り分けられている。

「目的地がここで、俺は――ここ。雑魚はこの色だとして、これは……素材か? それでこの色が……危険な奴だろうか」

 目的地は黄色、自分は青。
 それらは丸い形で示されている。
 雑魚や素材は菱形で、危険マークは黒い四角だ。
 ……髑髏でないのだ少し残念な思いがあるが、今はどうでも良いので置いておこうか。

 四角は黄色の近くに一つ置かれ、同時に魔力の反応も掴めている。

「要は、魔物と闘っているか強化しているかのどっちかだよな。うーん、狙い通りの展開になってくれればいいんだがな」

 必要な物はある程度用意してあるが、主人公が居る物語では無い現実に、100%の安全など存在しない。
 より確実に、生き残る為の準備を整えてから、黄色の地点である洞窟へと向かう。

◆   □   ◆   □   ◆

 道中で雑魚の魔物に襲われた。
 少し痩せ細っていた体から、飢餓と言う極限状態に追い込まれた故の選択だと判断した俺は、(魔物言語)と(契約魔法)を駆使し、食い物を渡して魔物を味方に付けていった。
 ゴブリンや犬型の魔物だったな。

 ……コイツらはいずれ、従魔の誰かの部下に配属されることになる。
 まぁ欲しい奴が使うことになるが、もし死なせたら……ソイツ自身に、しっかりと責任は取って貰うがな。

 そんなイベントに遭いながらも、鼻歌交じりに目的地へと到達する。
 少し広い空間の手前、その辺りで俺は入る機会を窺っている。

「……やっぱりこういう時って、『突撃、隣の晩御飯!』とかの方が良いのか? いや、でも異世界にまで来て今更それって考えもあるしな~。でも、中々捨てがたいんだよな~ヨネ◯ケもさ」

 え、そんなのどうでも良い? おいおい、様式美ってのも大切じゃないか。
 必ず勇者を回復させる魔王然り、ピンチからの逆転勝利が確定している主人公然り……やっぱり、やる方が面白そうだろ?

「と言うわけで、突撃隣の晩御飯!!」

「……ん? どうやら侵入者のようですね」

 そこに居たのは、インテリ系の雰囲気を放つ青年男性だ。
 ただ髪が濃い青色なので、普通の人間で無いことは確かである。

 男は俺の方を振り返ること無く、自身の目の前にいる魔物へと何らかの魔法を放ち続けている。

 ……あぁ、魔物はオーガだぞ。
 俺が見た時は赤黒い肌に二本の角が生えた大きいだけの鬼だったんだが……今は肌の色がより黒くなり、角もなんだか捩じるように立っているな。
 おまけに、目が血走っているように見えるし……色々と改造されたのか?

「俺は……そうだな、今は冒険者さんで充分だよな」

「そうですね。一々試験体の名前は憶えないようにしていますし、『冒険者』と一括りにできれば簡単です」

「ま、いっか。それよりお前は何をやっているんだ? 最近ここら辺を暴れていると噂されている魔物の目の前で、色々と魔法を発動して……討伐中か?」

「そう見えるならば、治療師の所で目と脳を回復して貰うことをお薦めしますよ。いえ、今から死ぬ貴方には、それは不可能なことでしたね」

 後ろを向いている男だが、それでも俺に隙は見せていない。
 膨大な魔力を少しずつバレないように新たに練っているのも分かるし、早めに動いた方が良さそうだな。

「なぁ、お前は魔族だよな。魔王軍的なものに所属しているのか?」

「えぇ、何せ私は――魔王軍研究部門に所属する、優秀な研究者ですから」

「ふーん、魔王軍ねー。魔王様ってのは、俺みたいな奴でも会うことはできるのか?」

「…………殺されたいのか?」

 ピタッと動きを止めた男は、俺の方を見てくる。
 ……うげぇ、雰囲気と同じように顔までイケメンだよ。

 殺気を放っているようだが、正直言って全然怖くない。
 催眠の効果で効いていないと言うのもあるが、生存本能に語り掛けるような恐怖が感じられないんだよな。

「いや、全く。別に魔王様を殺したい……まだ話は続いてるから。殺したいワケじゃあないんだよ。ただ、一度会ってみたいんだ」

「お前のような弱き人族に、魔王様が会うことなどありえない。精々、勇者が死ぬ為に会うことがあるぐらいだろう。……お前は今。ここでコイツによって殺されるんだ」

 魔法によって動きが止められていたのか、男が何かをするとオーガが咆哮を上げて動き出した。

「フハハハハッ! 私がカスタマイズしたこのオーガ・ウェルに、貴様のような白昼夢を見ている者が勝てるワケが無かろう!」

「――へ~、良く分かったな」

「何ッ!?」

 肉体を強化してオーガに近付くと、(神聖武具術)を発動させた状態で殴りつけた。
 オーガなんたらはそれに耐えることができず、体をぐしゃぐしゃに周囲に撒き散らして吹っ飛んで壁でべチャッとなっている。

「面倒だし、交渉も無理矢理交渉・物理でいいか」

「……おい、待て。な、何をする気だ」

「俺が白昼夢を見ているように、お前にも少し夢を見て貰うだけだよ――"デバック"」

 そう告げると、男は放心状態になる。
 ――さ、少し弄らせて貰いますか。


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