停導士の引き籠もり譚

山田 武

偽装を更新しよう



 奴隷達の進路面談も終わり、それぞれの職場へと旅立って行った。
 侍従に関しては、そのままトショク邸で失敗を重ねながら修業を行って貰う。
 さすがに、現在も王国でメイドをやっているミルを呼ぶワケにもいかないからな。

 ――方法は、幾つかあるけどな。

「……これを、こうしてこうすれば……まぁこんな感じか?」

 現在、俺はステータスの偽装を修正・更新していた。
 監視員の女にバレたからな。
 定期的にLvアップを適応させないと駄目だと理解したんだよ。

「流石に自動偽装は……あ、できるのか」

 少々設定が細かかったが、どうにかこっちの世界の者の平均的な成長率を再現した状態でのステータスの表示に成功した。

「"鑑定"……うん、バッチリだ」

 偽装した俺のステータスは、大体こんな感じである――


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ステータス
名前:イム・トショク (男) 
種族:異世界人 Lv8〔普人Lv20〕職業:睡眠士 Lv10

 HP:670/160 〔150/150〕
 MP:670/160 〔180/180〕
 AP:670/160 〔120/120〕

 ATK:111 〔70〕
 DEF:112 〔75〕
 AGI:111 〔60〕
 DEX:115 〔55〕
 INT:116 〔80〕
 MIN:112 〔95〕
 LUC:0

通常スキル
(言語理解)(鑑定)(過剰睡眠)(料理)(錬金)
(弓術)〔+(狩弓術)〕(集中)〔+(鷹の目)〕
(魔力操作)(回眠)(解体)〔+(自動解体)〕

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 ステータスには、なんと催眠による偽装が施されているのだ。
 俺を異世界人だと知っている者には異世界人としての偽装ステータスが、そうでない者には普人としてのステータスが……かなり便利じゃね?
 スキル自体は本当に持っているスキルなのだが、一部派生を隠してある。
 表示している物はあくまで出しておいた方が行動に支障が出ない物ばかりだ。

 本当は(空間魔法)や(付与魔法)等も表示したいのだが、それはかなりレア度の高いスキルらしいので、控えておくことにした。

 奴隷達からコピーしたスキルは、それと同等にレア度の高いスキルだ。
 その為ここに表示することはできないが、クラスメイトが所持していたスキルと併せることで面白い反応が起きた。
 ……唯一スキルって、本当に唯一かどうかがまた分からなくなったよ。

「えっと、誰か飲み物w……ありがとう」

 聴力が高い侍従が、俺の注文を聴いて即座に飲み物を用意してくれる。
 部屋を出て行くときに、ピョコンと兎の耳が見えたと言えば大体理解できるだろ?

 東の方の国から売られてきた湯呑を使ってそれを飲み、ホッとする。

「うーん、やっぱり誰かが淹れた物は美味いなー。自分が動かないから」

 他人の金で食う飯が美味いように、他人の不幸が蜜の味と例えられるように、面倒事をせずに得られた物とは何でも良いように感じられるのだ。
 努力をせずに力を得ている俺の唯一スキルもまた、そうした考え方が元になり、生まれたのかも知れないな。

 これまたコピーした(錬金)で工夫を重ねて生み出した緑茶を啜る。
 ……あぁ、やっぱり日本人は緑茶だよな。
 紅茶の流通が行われていたから、それの発酵度合いを弄るだけで済んだ。
 お蔭でウーロン茶もついでに作れたぞ。

「……ハァ。茶が美味い」

 人肌程度の温度な為、貰って直ぐに口に含もうと火傷することは無い。
 じっくりと喉を潤していき、日々の疲れを癒していく。

「……ふぃいい。さて、そろそろ行くか」

 湯呑をその場に置き、(空間魔法)を使ってある場所へと移動する。さて、それは一体何処でしょうか?

◆□◆□◆

???


 名も無き空間。
 俺が組み合わせたスキルで創り上げた簡易的なスペースは、そう名付けられた。

 正直厨二かよ……と言いたいところだが、それ以外の案が出るわけでも無かったのでそのまま採用となった。

「――大体、揃っているな」

 周囲を見渡すと、事前に招集命令を放っていた者達が集まっている。
 ドラゴンや狼、植物や土人形など――主に人では無い者や物がこの場には集っていた。

「ハッ! イームやブラド達は、主様の命を遂行する為に行動中です」

「あぁ……そういえば頼んでいたな。あそこは俺の頼んだ面倒事の中でも、確か難易度がかなり高かったんだっけ」

 マチスの報告に、そうだったと思い出す。

 先程挙げられた者達には、とある場所の調査を頼んでいる。
 その場所は大量の死者が出るような場所なので、従魔の中でも適正を持つ者を選んでそこに派遣したのだ。

「……まぁ、一番面倒な場所なだけで、お前達に頼んだのも同じくらい大変なものだったからな。本当に呼ばなきゃいけないのなら、ちゃんと(召喚魔法)で呼べるし、今はどこまでやれるかを確かめる期間だ」

 転移禁止空間であろうと、それ以上の力で転移を行おうとすれば移動は可能だ。
 どうせ俺に動く気は無いのだから、魔力ぐらい全力で消費して呼び戻すぞ。

「さぁ、それじゃあ始めますか――会議を」

 ま、何度かやっているんだけどな。


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