停導士の引き籠もり譚

山田 武

和弓女子を避けよう



訓練場


「さって、今日は何をしようかね……」

「待ちなさいよ――イム!」

 俺の名前を呼ぶ声に振り返ると――女子がいた。
 確か名前は……うん、誰だっけ?

「えっと……何方どちら? というか、どうして俺の名前を知ってるんですか?」

「なっ、(鑑定)を使いなさいよ!」

 あ、思い出した。
 BGM担当の和弓女子だ。
 青年兵士に名前を言われていたワコとかいう投擲女子しか、頭に入れてなかったよ。
 俺の脳のスペックは、一日一人ぐらいしか人物名を入れられないんだよなー。

「(鑑定)? あ、MP使いますので遠慮しておきます」

「使いなさいよ! たった1でしょ!」

「俺、資源は大切にしたいタイプなんです。だから不必要なことに無駄遣いしないように心掛けてるんで……すいません」

「……(ブチッ)」

 お~、堪忍袋って本当にあるのかな?
 何処からか聞こえてきた効果音に、ついそう思っちゃったよ。

「わたしは……わたしは「では、俺はそろそろ行きますんで。えっと、貴女は貴女で練習頑張ってくださいね」ま、待ちなさいよ!」

 さて、そろそろスキル実験を始めようか。


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 コピーしたスキルと自身で習得したスキルの効果は重複する。
 今日の実験で分かったことだ。

 今回実験に使用したスキル(異空間収納)、これはクラスメイトの誰かが持っていたスキルだ(視たけど忘れたよ)。
 MPを消費することで自分専用の収納空間を展開し、そこから荷物を出し入れできる。
 幸い、そのスキルの持ち主と空間を共有シェア……なんてことも無く、何度か意識しながら使用していたら無事習得できた。

 そして、その習得した方とコピーした方を同時に発動するとどうなるか……結果から言うと別々に出現した、である。
 右側と左側、双方でスキルを意識して使うと……あっさりとできた。
 一旦双方を消して、コピーした方のみを逆側に出るように意識しても――収納空間はそのまま、習得した方のスキルで創った穴の場所に出現した。

 多分、二つ目の空間はコピーに入れとかないと使えなくなるんだろうな。
 それならそれで、絶対にバレない収納空間になるんだけだから別に良いけど……。

「んじゃあ、弓の練習を続けるか」

 手に矢が出現するように意識すると、いつの間にか矢が握られている。
 (異空間収納)を持っていると、そんな便利な機能が使えるんだ。

 あ、今更言うが、メニューの"どうぐ"でも同じようなことはできるんだぞ。
 ただ、そこは数に制限があるインベントリみたいな感じだったから止めたんだ。
 こっちもこっちで、隠す必要のある収納には便利なんだがな。

「引っ張って~射る」

 そんな適当な所作であろうとも、スキルという存在は機能してくれる。
 言葉とは裏腹に体は正しい姿勢で的へと向き合い、俺の考えた通りに弓を引き――的へと矢を放った。

「うん、よしよし」

 二の矢を番えて再び矢を射る。
 照準は先程的に刺した矢、其の物。
 どこかの魔力チートな主人公のように、綺麗に中ててみたよ。


 さて、そうして何度か継ぎ矢をして遊んでいると……いつの間にか矢が手に出現しなくなる。
 ……矢が尽きたか。
 仕舞って置くと残りの本数が分からなくなるのが問題だな。

「……フゥ、疲れた。そろそろ休m「イム、本当に待って頂戴」……ハァ。今度は何なんですか? 折角休もうとしていましたのに」

「その敬語、気持ち悪いから止めなさいよ。全然敬ってる感が無いじゃない」

 うん、全く尊敬の念とか無いしな。
 あ、ヒ……ヒサギ君にタメ口だったのは、彼のお蔭で高校生活をイジメ無しで生活できたかも知れないからだ。
 彼が居なければもしかしたら、イジメの対象は俺だったかも知れない。
 ならば、彼へと敬意を表してタメ口で会話をしていたのだ。

 え、それこそ敬意の念が必要?
 いや、本人が望む口調にしただけだよ。

「いえいえ、知らない人と話す時はとりあえず敬語ですよ」

「クラスメイトでしょ!」

「そうですね。確かに同じ空間で勉学を共にした関係……ですが、それ以外に何か特別な関係でもありましたか? 貴女と関わった記憶はありませんし……名前も知りません」

「だから、(鑑定)を――」

「やらないと言ってるんですよ。一方的に名前を知って、貴女は虚しくありませんか?」

「そ、それは……」

 それって、ただのストーカーだろ。
 相手を知りたくて、勝手に情報を漁る。
 できたからやった――そう言うのは簡単だろう。
 そんな犯人の供述みたいな理由で起きる小規模な事件は、きっと大量に存在するんじゃないか?

「ご、ごめんなさ「ま、別に良いと思いますよ。コミュニケーションはまず、接触コンタクトを取るところからですしね」……なら、なんで言ったのよ」

「……貴女が罪悪感を感じるように言っただけですよ。もうこれ以上関わらないでください。面倒ですので」

「うぎぎぎ……」

 今時、そんな風に怒りを表す人っていたんだな……実に新鮮だ。

「それじゃあ、俺は矢を補填しに行かなければいけませんので」

「あっ」

 (付与魔法)の練習にも丁度良いしな。
 折角だし、色んな効果を付与してみるか。

 目の前で俯く女子を放置して、俺はさっさと矢の補充を報告しに行った。


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