停導士の引き籠もり譚

山田 武

新たな力で強くなる



ダンジョン"王家の迷宮" X階


「……フゥ、イム君の御呪いの効果は凄まじいね。お蔭でコイツを倒すことができた」

 龍(?)と共にダンジョンの奥深くへと落ちた筈の少年――ヒデオは、既に息絶えた龍の目玉に刺さった剣を抜きながら呟く。

「体から力が湧き上がってくる……これが本当の力ってやつなんだね」

 ヒデオはそう呟くと、今度は自分のステータスを確認する。


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ステータス
名前:ヒデオ・ユウシ (男) 
種族:異世界人Lv36 職業:【■望■】Lv1 New

状態異常:催眠

 HP:10/1480(JOB+1000)
 MP:0/0  (JOB+3000)
 AP:0/0  (JOB+500)

 ATK:1 (JOB+275)
 DEF:0 (JOB+149)
 AGI:1 (JOB+105)
 DEX:1 (JOB+82)
 INT:0 (JOB+94)
 MIN:0 (JOB+148)
 LUC:0

通常スキル
(言語理解)(鑑定)

New
(闇魔法)(龍躯強化)

唯一スキル
【■望■】New
\(下剋簒奪)

祝福
(地球神の祝福)(女神カーの寵愛)New

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「(下剋簒奪)は殺すことによって発動するスキル強奪。しかも一人でやらなければいけないから面倒だね。(龍躯強化)はこの龍から奪えた身体強化系のスキルだけど……今のままじゃ、長時間は使えないね。後気になるのは女神の存在だけれど……テンプレ的に言うなら、ユウキ君に寵愛を与えた女神と対立している女神なのかな? 新しく増えてる魔法が闇だし……ってHP極振り!?」

 迷宮の底にいるとは思えない程に、明るくツッコむヒデオ。――これは催眠の影響でもあった。

 こういった極限状況に追い込まれた者は、すぐに諦めるか、何かを糧にして必死に足掻こうとする。
 これにより、復讐者は誕生する筈……だった。
 イムが掛けた御呪いは、二つではなく三つ――最後の一つは、彼の思考へと掛けたものだった。

 イムは物語で復讐に囚われる主人公達を見て偶に思った。

(……極限の状態でも復讐という考えに絶対に辿り着けないなら……主人公は、一体どういう行動を取るのかな?)

 物語において、復讐者になる主人公は常識的な考え方をぶち壊し、復讐という非人道的な考えを何処からか持ち込む。
 それによって主人公は禍々しくも強い力を手に入れるのだ。

 だからこそ、そんな展開が無かったら復讐者候補はどうするのか?
 聖人以上に聖人的な思考ならば、復讐など考えつかない人格者ならば、彼らがどのような力を手に入れるのか――それをイムは知りたかった。

 ……とは言っても、それは直ぐにバレる。
 世の中にそんな清い心の持ち主など、存在しないに等しいのだから。 

 そう考えたイムは前提条件を一段階下げて実験を行った。

(――ん? いつまでも日本の常識に囚われたままだったら――人殺しは忌避すべきものだと考える状態だったら――復讐に対する思いはよくある復讐物の主人公より小さいものとなるし……面白いかな?)

 突然今までと異なる環境で生活をすると、大抵のものは過去の認識を捨てて生きようとする。
 イムはそれを阻止し、過去の常識をいつまでも定着させる催眠をヒデオに掛けた。

 ――実際、それは成功していた。

 ダンジョンの底という真っ暗な空間で、生と死を分けた戦いを済ませた後でも、彼は平常心を全く失っていない。
 それこそが、彼が彼のままである、その証明となるのだ。

「だけど……この職業、えっと……なんて読むんだろう? 伏字だから分からないや」

 元々、ヒデオは職業を持っていなかった(それも異世界に来てからも苛めが継続した理由の一つだろう)。
 しかし、この戦いの末、ヒデオの脳裏に職業を入手したというアナウンスが鳴り響いたのだ。

「この世界ってゲームが元なのかな? そういう話ってよくあるし……。何より、この文字がね~」

 ヒデオはそう言って自分の近く壁に記されていた文字を見ていく((龍躯強化)には、パッシブ効果として暗視が付いている)。

「スキル、ステータス、ログ、クエスト……メニューについての説明がギッシリと。最後にご丁寧にOnlineなんて言葉まで」

 彼が見つけたのは、イムが独自に見つけたログ機能――それを統制するメニュー機能全ての使い方である。

「前半部分が読めないから、何のゲームかは分からないけど、MMOの世界がベースだってことが分かる文章だ。……でも、それならどうしてこんな所に? 王族にMMOの存在を知っている者……初代が日本の人? それとも偶々このダンジョンに書かれてただけ? ……まだ確証が少ないから良く分からないね……」

 ヒデオはそれから少し悩んだ……が、結局答えは出ることは無かった。

「いつまでも悩んでたら進めないし……何より(グゥー)……お腹が空いたしね。丁度美味しそう(?)な龍の肉もあるし、それを食べながらゆっくり考えてみようか」

 それから彼が調理法(火について)悩んだことは、当然のことでもあった。


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