異世界召喚された俺は、チャットアプリを求めた

山田 武

スレ29 依頼現場は墓場



 ルーラスト……転位石に登録できる場所には、幾つかの制限があった。

 一定量の魔力が存在し、尚且つ意思があるものがいる。
 そしてイメージし易い場所であることだ。

 俺は暫くの間、そうした場所を巡り続けていた。
 ほら、ドラ◯エⅨも果実を手に入れる為のイベントが起きる前から別の街へ行けていただろ?
 場所を登録するだけなら困らなかったよ。

「ま、やっぱり何も起きないってのが平穏で一番良いことだよな」

 街を巡り歩いたが、少なくとも俺が知れる表面上の部分では何事も無く平和な日々が続いていた。
 活気溢れる声が耳に、美味しい食べ物を焼く匂いが鼻に、沢山の人々の姿が目に、……スリをしてきた子供との衝突が体に感じられたよ。
 ま、金品の類は全部"虚無庫"か魔道具の中に仕舞ってあるから、子供が俺から奪ったのはただの袋なんだけどな。

 こっちの世界ではスリも日常だ。
 アイツらは、そうしたイベントに様々な対処をしていたらしいのだが……中でも一部の者が取った行動がアレだったので、説明は控えて置く。

 ここからが重大な話なのだが、街巡りの間は一度も『面倒事対処シリーズ』が更新されることは無かった。
 ……まぁ、イベントが起きないと送られてこないらしいからな。

 最初の方にそれが送られてきたのは、あくまで召喚者と言う俺に付加されたタグがそのイベントを強制していたからであり、既にそのイベントを終わらせた俺には、主人公のようにイベントが起きることはないのだろう。

 アレだ、フラグが成立していないからまだ発生しないと言うヤツだな。

 主人公が来た瞬間に即座に何か起きるぞ。
 一応平和ではあったが、そのフラグの種っぽい噂は一応されていたからな。
 魔王が云々魔族がえっちらほっちら……セリさん、元気にしてるかな?

◆   □   ◆   □   ◆

 あ、そうそう。
 今の俺は冒険者ギルドに登録している。
 ステータスの貧弱ぶりから最初の内は色々とあったが、それでもアイツら仕込みの体術でやり越し、どうにか小イベント? もこなしたぞ。

「……えっと、どれにするかな?」

 現在、俺はとある街のギルドで依頼を探していた。
 有り余る程に金はあるが、何もしないというのも暇だしな。

 折角なので依頼をこなすことで、日々の充足感を補おうとしているんだが……。

「薬草は見分けがつくし、魔物を倒すのもMPが持てばどうにかなる。だけどもう何十回もやってるし、残っているのは……これか?」

 今までに同じことを何回もやっていた所為か、なんだか作業染みてきて嫌になってしまうのだ。
 ローテーションを組んで今までやってきたのだが、その依頼をこなしたという経験を体が学習しているので結局飽きてしまう。

 成長はできないのに飽きるとは……やっぱり俺の体は少し不便なんだよな。

 あ、薬草に関してはアイツらの内の一人に色々と教わったので知っているんだよ。
 錬金術師的なことをしていたらしいので、他にも様々なことを教えてくれた。
 ……ま、スキルや職業有りきの方法もあったから、教わったこと全部ができるわけじゃないけどな。

 その中で見つけた一枚の依頼、今までにやることも無くスルーしていた依頼を確認し、俺は受注することにした。

 ……いや、未知なる経験もまた、俺の知識となってくれる。
 こうした積み重ねこそが、成長できない俺にとっては楽しいんだろうな。

◆   □   ◆   □   ◆

 嗅覚をシャットアウトしていなければ、即座に胃の中身が出ていたかも知れないな。
 今居る場所には、それだけの力がある。

「とりあえず――"虚無限弾・追尾"」

 無限の数を誇る魔力の塊が、俺の元から離れて飛んでいく。
 対象は予め察知したこの場所の生存するもの全て。
 それら目がけて一気に弾丸が放たれた。

「もう少し魔力を広げて……うわぁ、ここってどんだけ広いのさ」

 俺が居るのは、街の地下に広がる巨大な墓場である。
 何故誕生したかは分からないが、それが外に出るのを防ぐために生まれたのがこの街であるとのことだ。

 今までに訪れた街では、霊体に色々と思うところがあったので墓場に関する依頼を受けて来なかったが、いずれ襲い掛かって来た時の為にも、一度は経験しておこうと言うわけで受注したのだ。

 しかし、この場所はとても広大だ。
 誕生と言う単語から分かると思うが、ここは迷宮として扱われている。
 膨大な年月がこの場所を変質させ、今では巨大な地下迷宮となっているそうだ(最初は一層しか無かったらしい)。

「死体の匂いってのは、どうにもなれないものだな。腐臭に耐えられない」

 俺は魔力で膜を作って防いでいるが、辺り一面からそうした匂いが放たれているので、冒険者からはあまり好まれていない迷宮だ。

 一定期間に一度、間引く為に一気に放火や浄化をしているらしいが……その依頼時は風で匂いを飛ばす係が必ずいるらしいぞ。

 俺も風属性の何かが使えたらな~。
 魔道具なら一応所持しているけど、丁度良い風が出せないので使えないんだよ。

「うーん、この辺りの魔物は倒せたかな? なら、次の場所に行くとしようか」

 追尾が機能してくれるのは、あくまで魔力が広がる範囲内だけである。
 なので一旦作業が終了したら、俺自身が移動して魔力が広がる範囲を変更しないといけないんだよ。

 ……この迷宮の攻略の模様は、アイツらへプレゼントしてやろう。
 ふっふっふ……。


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