異世界召喚された俺は、チャットアプリを求めた

山田 武

スレ26 魔法ではなく石



 壊れてしまったセリさんを宥め、とりあえず蹲るのだけは止めてもらった。
 そして暫くしてから、セリさんが独白を始めた。

「元々、一族でもあまり優れた者ではなかったのだ私は」

「……はぁ」

「努力をして、どうにかとある地域で魔王を冠することはできた……が、それでも真の魔王にはなることができなかった」

「なるほど」

 最初に会った魔王は、覚醒済みの真の魔王だったからな。
 もうその差についても既に勉強済みだ。

 けど、あんまり違いは無かったんだがな。

「覚醒し易い家系……そう言えば分かるだろうか。しかし、それでも私は覚醒することはできなかった。だからこそ、一族の宝珠を用いて覚醒を計ろうとしたんだ」

「できたじゃないですか。おめでとうございます、セリさん」

「アサマサに、アサマサに負けてるじゃないか! 魔王に特化した勇者でもなく、属性を持たないアサマサに!」

「な、なんかすいません!」

 セリさんのその裂帛に染みた叫び声に、ついこちらも大声で謝ってしまう。
 確かにな、俺みたいな凡人に負けたら魔王として色々とあるんだろうな。

 俺には(無魔法)しか無いんだし、セリさんが魔力を吸収しようとするだけで、純粋な魔力の塊を放出する俺の魔法なんて、直ぐに対策できるんだけどな。

 俺も俺で死にたくはないから、それなりに対応策を潰していってはいるけどね。

「それで、セリさんはこれからどうするつもりですか? 真の魔王としてはまだ未熟な状態ですけど、それもいつかは完全に定着してセリさんの力になりますしね」

「……アサマサは何でも知っているな」

「俺は何にも知りませんよ。知っているのは別の人ですよ。俺はこの後、一人で旅をする予定ですので……あ、これをどうぞ」

 そう言って、"虚無庫"から掌サイズの箱を差し出す。
 ……まぁ、スマホだな。

「色々と便利な魔道具ですので、セリさんにプレゼントします。あ、使い方は――」

「ちょ、ちょっとアサマサ……」

「いっぱいあるから配っているんですよ。ここで遇ったのも何かの縁。ぜひセリさんに受け取って欲しいんですよ」

 昔読んだ小説に、自作のパソコンを配るという物があった。
 なので、俺も異世界人との交流を……と相談したら複数のスマホを送ってくれたのだ。

 一部制限もあるが、ハルカが作ったアプリの使用には困らないから問題は無い。

「――とまぁ、大体こんな感じです」

「なるほど……つまり、対話鏡や伝念紙のような魔道具の複合型か。しかし、遥かにそれらの性能を超えている代物だぞ。これを売ればアサマサには、恐らく巨万の富が手に入る筈だが……」

「あ、これは知り合いにしか渡さないって決めてるんですよ。それに、そこまで在庫があるわけじゃないですし……知らない人に渡して悪用されたら困りますしね」

 説明されなければ言語設定も困るだろうから、まぁありえないとは思うが――それなりに便利過ぎる機能もある。

 あと、知り合い以外が持っているのは、ハルカも嫌だろうし(俺の知り合いは自分の知り合いと言っていたから、俺が渡す分は構わないと思う)。

◆□◆□◆

 セリさんは展開していた空間を解除した後に、この場を去った。
 魔王の宝珠以外の物に、手を付けることは無かったな。

「さて、俺も探し物をするか」

 元々ここに来たのには俺自身の目的がある為であり、決してセリさんの為だけに来た訳では無い。

 そう、『面倒事対処シリーズ』に記されたアイテムを回収しに来たのだ。

「……えっと、どこらへんにあるのかな~」

 奪われたので(鑑定)は使えないのが、既に見るだけで魔具を見分ける方法を教わっているので目的の物は分かる。
 ゲームで言えば超激レア認定されるアイテムばかりが散らかっているが、殆どの物には使うのに条件がいるので俺には使うことができない。

「ま、それでも頼まれたから持っていくけどよ("虚無庫")」

 今まで遠回しな説明で誤魔化していた気もするが、このダンジョンはアキが攻略した場所である。
 なので宝物庫の鍵となるハンコも持っていたし、魔王の宝珠に関しても知っていた。

 ――そんなアキから、宝物庫の中身を全部持ってきてほしいと言われている。

 宝珠に関しては後で謝罪するが、それでも他の物は全部持って帰るつもりだぞ。

「無限に水が出てくる水筒に、空を歩けるようになる靴。それに……あ、これが転移用の魔道具か?」

 俺が手にしているのは、掌サイズの翡翠色の結晶である。

 ……ゲーマーには分かる人もいるかも知れないが、アキがこの世界で作った知り合いと共に作り上げたかなり貴重な魔道具らしい。

 イメージするならメガの方だな。
 ただ、一度行った場所にしかいけないらしく、俺自身が世界を巡る必要はあるが。

「あとは、ここから脱出するだけだ。確か、最下層に転送陣が出るんだよな」

 セリさんは便利な魔王スキルで空間に穴を開けて脱出していった。
 ……本当に、便利な力だな。

 だが、ただの(無魔法)にそんなことができるワケも無く、俺はちゃんと正規の方法で脱出せねばならない。

「……よし、じゃあ出るか」

 あ、宝物庫を探している時に既に転送陣が出る条件である、ダンジョンの守護者は討伐済みだぞ。
 ほら、この場所ってダンジョンの一番下にあるからさ。


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