異世界召喚された俺は、チャットアプリを求めた

山田 武

スレ16 模擬戦相手は騎士長様



訓練場


 ……どうして、こうなったんだろうな。
 訓練場に設置された武舞台に立つ俺の目の前には、男が一人倒れている。

『………………』

 周りの者も絶句してその様子を見つめ、その事態を引き起こした俺を恐怖の対象として見ている。

「ねぇ、しっかりしてよ!」

 聖女の職業に就いているアヤさんは、倒れた男に必死で(回復魔法)を掛けている。
 ……うん、やっぱり本職は凄いな。
 見る見るうちに回復しているや。

「しっかりして――ユウト君!!」

 ――そう、現在俺の前で倒れているのは、【勇者】の職業に就くリア充君。
 本当、どうしてこうなったんだろう……少し前の時間を思い出しながら、俺は少々後悔する。


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「アサマサ。お前の実力を見せて貰いたい」

「……俺、武器関連のスキルは一つも持ってませんよ」

「それも込みでの確認だ。こういったことを確認しないと、君の適性が分からない」

 遂に教官に余裕ができ、俺にも担当が就くようになった……と思ったのだが、最初にテストをするということで(、何故か最初に話していた一番偉そうな人と)戦うことになった。

 あ、思い出した!
 確か、ここの騎士長だったなこの人。道理で、色んなことができるワケか……俺、どうしてそんな人と?

 俺達は今、正方形に整えられた武舞台の上に立たされており、他の召喚者達に観察されている。

「どうして、こんな公開処刑みたいな晒しをするんですか? 適正を見るだけならば、貴方一人が確認すればいいでしょう」

「彼らは君と共に魔王と戦う仲間だ。仲間の戦力は正確に計れていないと、後にしこりを残してしまうからな」

 ……まぁ、一理あるけどさ。
 俺のショボさ加減を、どうして他の人に見せないといけないのだろうか。

「あの、魔法の方は……」

「お前の武術としての力を見たい。すまないが、今回は魔法を無しとさせてくれ」

「は、はぁ……」

 あ、もう駄目だな。
 魔法が駄目だということは、恐らく氣の使用も駄目なのだろう。
 あくまで俺の武術のスキル(存在しない)を知りたいんだ。
 ……大人しく負け試合を受けるか。



「さぁ、君から仕掛けて良い。掛かって来たまえ」

「あ、はい。少し待ってくださいね」

 騎士長は剣を部下に預けており、無手での勝負にしてくれている。
 氣の使用も無し、おまけに無手縛りとなると……ここはやわらでどうにかするしかないか。

 大きく息を吸って力を抜き、脱力の構えで騎士長を待つ。
 特別な構えなんて必要無い。

 ただ、流れる川のようにその時をひたすら待つだけだ。

「……では、どうぞ」

「――なら、行かせて貰おう!」

 ビュンッと風を纏ったような勢いで、騎士長が俺に駆けてくる。
 魔力探知は解除しているので、全ては野生の勘でやるしかないな。

 騎士長がどこから攻撃を仕掛けてくるか、それを読み取って――今だ!

 シュン ドーンッ

 風切音がすると、その直後には何かが地に落ちる音がした。
 勘任せだったので、本当に成功するか微妙だったが……イケたみたいだな。

 騎士長の攻撃を読んだ俺は、その勢いを往なしてそのまま倒した。

 背負い投げだっけか?
 今回使ったのは、それを少し弄ったようなもので、手を掴んで斜め上に上げてできた隙間に肘を差し込んで、腰を回すというシンプルな技だ。

 これを教えてくれた奴は、理論なんて教えずに体に直接叩き込んできたので、自分がどうやってを騎士長に倒したかはあまり詳しく分かってない。
 ただなんとなく、どこら辺を持ってどうしたか……そんなことしか俺には分からないんだよ。

 だが、そんな裏事情を知らない騎士長は、直ぐに立ち上がり――。

「……本当に、武術のスキルを会得していないのか?」

「あ、はい。何一つ、習得してませんよ」

 召喚者からは模擬戦を始める前から(鑑定)が使われていたが、このセリフの後に更に視てくるようになった。

 (鑑定)はMPを代償に相手の情報を赤外線通信で手に入れようとする物なので、その取引は『凝』で確認できてしまう。
 ……うん、現在針の筵ってこんな感じなんだって、よーく分かったよ。

「おい、アイツのステータス。全然変わってないじゃん」「しかもあの(想像補正)って、もしや患ってる?」「運、低ッ!」「偽装するにももっと隠しようがあるだろ」「バレバレじゃん」「レベルアップしてんだからさ、しっかり数値上げとけって」

 ステータス関連、本当に変わりません。
 (想像補正)、内容を見てください。
 運、ほっといてください。
 偽装、していません。

 そう律儀に答えたくなったが、自分が虚しくなるだけだから止めておいた。
 どいつもこいつも、俺が反論しないからって好き勝手言いやがって……確かに今回勝てたのは偶々だろうけど、俺のステータスは関係無いじゃないか!

 そう思っていると、一人の男が騎士長の元に歩いてくる。

「ゼルトさん。相手がアサマサ君だからって手を抜いたんですか? 僕だって、剣を持った貴方にはまだ一度も勝てていないのに」

 そう言う男――リア充君は、どうやら騎士長が手を抜いたことを疑っているようだ。

 うん、俺もそう思う。
 騎士長だったら、俺の攻撃をカウンターしようとしていることに気付いて、わざと受けてくれたのかも知れない。

 そして、今それの問題点を今提示してくれるんだな、と思ってたんだが――。

「いや、本気でやったぞ。ユウキ、俺は自分が剣も無手も同等のレベルだと思っている。だから剣かどうかなんて関係無く、俺は純粋に負けたんだ」

『――――ッ!!』

 みんなその言葉を聞いて驚いている。

 あぁ、俺もビックリだよ。
 そこまで言って、俺に優しくしてくれるのかとさ。
 魔法が無属性であったこともあり、俺の城での扱いはそこまで良いものでは無い。

 なので、騎士長はわざと負けて俺にスポットライトを当ててくれている……嬉しいんだが、正直勘弁してほしい。

 ほら、例えば――。

「アサマサ君。僕とも一度、勝負してくれないかい?」

 ――やっかみからの勝負イジメとかな。


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