異世界召喚された俺は、チャットアプリを求めた

山田 武

スレ01 異世界の説明



 俺はいつの間にか、真っ白な空間に立っていた。

(これって、もしかして……)

『そう、その通りよ。貴方は異世界へと旅立つチャンスを手に入れたのよ』

「そ、そうですか」

 俺がここに来る前で覚えていること。
 それは、自分の足元に展開された幾何学な魔方陣である。

『……何よ、全然乗り気じゃないわね。ここに来た奴等の大半が――「ヒャッハー! 異世界が俺を呼んでるぜ!!」とか言っていたわよ。貴方もその類いじゃないの?』

「いえ、折角できた友達との別れが……何とも虚しく感じまして」

『……ふむふむ。その友達とやら、楽しくカラオケパーティーしてるわよ』

「――それじゃあ、異世界についての説明をお願いします」

『切り替えが早いわね……』

 アイツら、俺を先置いて始めやがったな。

 俺は、その友達とのカラオケパーティーへ行く為に歩いている途中でこの場に呼ばれたのだ。
 本当だったら俺も『Red0』をシャウトしようと思っていたのに……(友達全員は参加してくれなかったが、それでも四人は参加してくれた)。

 どうせ歌えないならもう良い。
 今は異世界について前向きに考えよう。


説明中
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 俺がこれから行く場所は、リーネという世界の、ディルク大陸にある王国らしい。

 そこにいるお姫様が発動させた召喚魔法に引っ掛かった為、俺はその世界へと飛ばされることになった。

 俺以外にも色んな人が呼ばれており、異世界で俺Tueeeをやっているそうだ。

「その魔法で召喚される条件って、何なんですか?」

『リーネの人より上位の世界に住んでいる人の中で、異世界への親和性の高い魂を持つことね。貴方は……ギリギリみたいだけど』

「……となると」

『えぇ、貴方が選べるチートなんて、本当にゴミッカスぐらいの物しか無いわよ』

「……どうせなら、カッコいいチートが欲しかったですけど、最近は微妙なチートが輝くことが多いですし、大丈夫ですよね?」

『……それがね、最近はそういったことが多過ぎて、神々でもチートの格を改めることになったのよ。だから貴方が言って実現できるのは本当に微妙なものだけよ。もし、言ったのが成り上がり物に出て来るようなチートのことだったら――当然貰えないわ』

 成り上がり共! テメェらの所為でチートが貰えねぇじゃねぇか!

 錬成もネットスーパーも無いなら、俺は一体何を選べば……あっ。

「なら、俺のスマホのアプリを一つだけ、一つだけ使えるようにしてくれませんか?」

『異世界にスマートフォンねー。アニメ化まで行けるようなチートを持って行けると思うの? ……参考までに一応聞いておくけど、一体どんなアプリを異世界で使えるようにして欲しいの?』

「チャットアプリです。登録されている友達と家族だけで良いので、連絡が取れるようにしたいんです」

 そもそも、巷で大人気のチャットアプリにはソイツらを除けば公式のアカウントしかない。……やっぱり虚しいな。

 なので、俺が要求したのは別のアプリ。
 友達の一人が一からプログラミングした、多機能型の便利アプリである。

『……一応許可は取れたけど。その代わり、貴方は他のチートを取れないわよ。あと、友達本当に少ないわね』

「どうせスキルを取ったとしても、絶対何処かにいる強奪系のスキル持ちに取られるだけですよ。それなら俺だけしか使えない携帯を貰えた方が嬉しいです。あと、そっとしておいてください」

 ……結構気にしているんだから。

『確かにいるわよ、その能力持ち。しかも貴方と同じタイミングで召喚される中に』

「タイミング悪ッ! ……やっぱり、これを選んで良かったです」

 女神様が指から光を放つと、俺の携帯にその光は吸い込まれて行った。

『はい、これで貴方の携帯は神器扱い。充電は切れないし、絶対に壊れないし盗まれない……そんな便利な代物になったわ。
 ただし、ネット環境が必要なアプリで使えるのは、本当にチャットアプリだけよ。マップアプリでターゲットして一斉スタンとかは無理よ』

「分かってます。女神様、ありがとうございます」

『頑張ってね。一応召喚特典のスキルは貴方にも付いているし、私からのささやかなプレゼントも付けてあるから……大体一週間は必ず生きていけるわ』

「本ッ当にありがとうございます(土下座)」

 女神様が指を鳴らすと、俺の足元に再び魔方陣が現れる。

『……コホンッ。愛すべき人の子よ、新たなる地でも加護があらんことを』

 最後に女神様がそう言うのを聞きながら、俺は意識を失い異世界へと旅立った。


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 その頃のカラオケ店の一部屋では、こんな会話がされていた。

「……お、朝政が遂に同類になったぜ」

「ふーん、何処で召喚されたの?」

「丁度ここに来る途中の道みたい。魔方陣の反応が残ってるわ」

「アイツ、折角アニソン祭りだ! って喜んでたのにな。俺も実は楽しみにしてたのに」

「それと、呼ばれたのはリーンみたいよ。
 ……どうしますか? 勇者様……プフッ」

「おいおい、あんまりからかわないでくれ。俺をからかって良いのはアイツだけだ……それより賢者様。アイツに連絡は付くか?」

「……駄目ですね。本人が意識を失っているでしょうし、まだ確実ではありませんが」

「一回目は大体気絶するからな。異世界改変に体がついていけないし」

「その間に鬼畜な神様が、人々からソイツに関する記憶を消滅させていく……。帰って来た時には、ソイツのことを誰も知らないんだから堪ったもんじゃ無いわよ」

「実際、俺達も忘れられかけたしな。賢者様が対応策を用意してくれなかったら、朝政が召喚されたことにも気付けないままだっただろうし……」

「朝政さんを解析していたら方法が見つかっただけですよ。あそこの家は義父さんと義母さんが凄いですしね」

「ちょっと……字が違くありませんか、賢者様?」

「何を言いますか聖女さん。きっと貴女の気の所為ですよ」

「……おいおい剣聖、アイツら本当に譲る気無いよな」

「そうだな勇者。誰も彼もが自分を忘れている中で、アイツだけが自分のことを覚えていてくれたんだから、そりゃあコロッと堕ちるだろう」

『何か言(った)(いましたか)?』

「……いいや、何でも無い。そういや朝政、アイツ絶対チートスキル弱いよな」

「えぇ、私達と一緒に居たのである程度魂の強さが強化されてますが、本人の力はあくまでそのままですし……」

「本当に大丈夫かしら……」


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