記憶共有的異世界物語

さも_samo

第104話:時と運命を司る怠惰の女神の最期

「僕は....僕は!」

揺らいだ覚悟が再び固まる。
色を失った僕の棘が色付き、再び鋭利に光る。

「僕は人間だ。人情を捨てるつもりも無ければ神になるつもりだって無い」

ミレイ・ノルヴァの表情が凍る。

「それで?」

「僕がミレイ・ノルヴァを殺すのは単に奈恵達を助ける為だ」

「僕はそうすることでこの殺神を....【肯定】する」

僕の棘がミレイ・ノルヴァを貫いた。

「貴方は....神に....ならなくちゃ行けない.....」

血反吐を吐きながらこちらを睨むミレイ・ノルヴァ。

「資格を....蹴る...蹴らない....は、貴方の....自由」

「でも....貴方は」

手刀で僕の刺を折り、体に刺さった刺を自分で抜いた。

「ハーッ...ハーッ....。」

「でも貴方は神の資格を手に入れないと死ぬ」

「神の資格を持ったまま神にならないなんて愚行。貴方に耐えられるの?」

ミレイ・ノルヴァが右手をかざす。

まずい――――

【ロストブランク】

自分の体が消滅していく。
存在のパラメーターごと【0】にするつもりみたいだ。

だが....。

【ウッドソード】

自身を存在ごと【再構成】する。

その一部始終を見て、ミレイ・ノルヴァはニヤリと笑った。

「これで貴方は私のミスによって生まれた【俊介】じゃ無くなったわね」

「....最初からこれが目的だったのか?」

「水晶玉を割ったのは貴方よ」

ミレイ・ノルヴァ....【時と運命を司る怠惰の女神】。
彼女の不敵で妖淡ようたんな笑みが僕の精神をゾクリと刺す。

これでこそミレイ・ノルヴァ。
僕を憑依現象によって複雑で残酷な運命へ叩き落とし、ここまで持って来てくれた。
僕の偉大な....【恩師】。

「さぁ、神の試練はそう待ってくれないわ。終わらせましょう」

彼女の攻撃で僕はミレイ・ノルヴァとの【宿命】を絶った。
僕は、ミレイ・ノルヴァによって作られた【俊介】ではなく、【万物を司る神】として生まれ変わる。

万物を司る神【俊介】。

彼女は自身の罪の贖罪を探した。
その贖罪の器として僕を選んだのだ。

それは来るべき【運命】であり【宿命】だった。
ミレイ・ノルヴァとの【宿命】を断ち切ることで、僕は自身が死ぬ運命を選ぶ権利を得た。

【与えられた】のだ。

僕が死ぬか、ミレイ・ノルヴァを殺すか。

ミレイ・ノルヴァは強制的と言えた選択肢を最後の最後で【自由】にしたのだ。

僕は【試されている】。

【ハッピーエンド】を迎えるための覚悟を。
【シュンとの因縁】に決着を付ける覚悟を。

そして....。

【万物を司る神】になる覚悟を。


【ウッドソード】

━…━…━…━…━…

物凄い閃光が辺りを覆い、ミレイ・ノルヴァはクリスタルの中に封印された。
行動を取ることは不可能。

【自由】を制限する能力を付与したクリスタル。
僕がクリスタルに許可を与えたのは五感情報と喋る権限だけだ。

チェックメイト――――

ミレイ・ノルヴァの頬に涙がこぼれた。
開放の喜び。巻き込んだ罪の意識。
色々な想念が渦巻き、絞り出された涙。

それは俊介も同じだった。

俊介の精神はぐしゃぐしゃになっている。
誰も体験できないような【憑依】という冒険を与えてくれた彼女。
圧倒的な力を手に入れても尚、先を行く尊敬できた彼女。

俊介の顔は涙でグチャグチャになっていた。
自分に課せられた任務の重さに涙した。
恩師を殺さなくてはならない現状に涙した。

齢17の男。俊介は自身の状況に、目の前で凍らされている女神より涙した。

「落ち着きなさい、俊介。貴方は何も考えなくていい。貴方は神になるの。ただ優秀で圧倒的な能力を持った、でもそれ故に他の神から蔑まれる。そんな神様に」


━…━…━…━…━…

紅の空が黒に染まって来た。彼が近づいているのだ。

「シュン....」

コツ...コツ...コツ...と着実に一歩一歩、その姿はこちらに近づいて来ている。
圧倒的な力を感じる。
憎悪の感情が、その立ち振る舞いから理解できる。

「やぁ俊介ぇ...げんきぃ?わざわざ生かしてやってるのに、出迎えもなしかいぃ~?」

この口調、ピリピリと感じる圧倒的な力。
地球とバーミアを終わらせ、2人の自分を一つにし、圧倒的な一人の【万物神】に成り上がった男。

シュン。

ミレイ・ノルヴァが閉じ込められている結晶を見て、狂気に顔を歪ませる。

「なんだぁ...滅茶苦茶いいプレゼント用意してくれてんじゃぁん」

そう言ってシュンは右手を突き出し、こう唱えた。

【ウッドソード】

地震が起こる。
天変地異を思わせる程に大きな地震。

シュンは自身の手を暗黒空間へと変換し、あたり一面の【魂】を吸い込み始めた。
バーミアの木々から魂が吸われ、枯れていく。
動物から魂が吸い取られ、死体の山が積み上がる。

バーミアの世界から秒で色が失われいてく。

「待て!やめろシュン!」

俊介の警告も無視し、彼は結晶を暗黒空間に吸い寄せ始めた。
もう行動を考える時間は無い。

【ウッドソード!】

俊介は力強くそれを叫んだ。

瞬間、彼の右手には炎のオーラが纏った。
今までに感じたことのない感覚。
物凄く温かい。でも非常に冷たい。

「ウッ....」

ミレイ・ノルヴァの腹にオーラをまとった僕の拳が貫通している。

「うああああああああああああああああああああああああ」

俊介の拳が、雄叫びが、ミレイ・ノルヴァを突き通した。
貫通した手のオーラは徐々に大きくなり、ミレイ・ノルヴァを燃やし尽くした。

「それで...いいの...俊介....後は...分かるわね?」

すべて理解している。
神殺しの殺神試練。神を殺すと最初に神の能力、つまり【神の資格】が体に宿る。

ミレイ・ノルヴァは燃え尽き、その灰が血しぶきのようにあたりに飛び散る。

俊介は灰の雨を浴びながら、ただひたすらにシュンを睨んだ。

涙は無い。
後悔も無い。
殺意も無い。

そこにあるのは、【圧倒的な力】そのものだけだ。

「あ~あ、僕へのプレゼントはぁ~?」

「...ねぇよ」

シュンの顔から笑顔が消えている。
そこにあるのはただの悪魔。

完全な悪魔。

傲慢で、卑猥で、横着で、蹉跌さえも我が物とするような死神。

【ウッドソード】

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