記憶共有的異世界物語

さも_samo

第102話:失われた最期の希望

シュンのこのどうしようもなく不快な高笑いが、虚無をそのまま体現したようなこの無の空間に響き渡る。

彼の妖しく光るその眼光はとても美しく、不快だった。
全身の毛が逆立つのが分かる。

怒髪が天を衝こうとしている。
僕の中で僕自身が感情の葛藤を起こしている。

まだだ....まだ足りない。

「君達は僕に勝つことが出来ない...そこにいる俊介とミレイ・ノルヴァがその証拠さぁ....」

過去のミレイ・ノルヴァは下唇を噛んだ。
過去の僕は相変わらず理解できていない様子だったが、僕はミレイ・ノルヴァと似たような感情だ。

悔しくて、不快で。しょうがない。

「どういう事だ?」

「そこにいる俊介とミレイ・ノルヴァは未来から来たんだよ....」

「僕に負けてやり直しを求めて....ねぇ!」

【ウッドソード】

地中から無数の棘が飛び出す。
茨のような棘が無数に絡まり合い、シュンを一突きした。

僕の目に殺意が篭っているのが分かる。
圧倒的な怒りが僕の中を駆け巡る。

顎を引き、最高の警戒姿勢を取った。

「この僕が負けた....?妄言も程々にしておけ....」

太い茨に貫かれたシュンは腹に大きな穴を開けておいて尚狂気的に嗤う。

「そうかぁ.....君がぁ....」

シュンが時を止めた。

ミレイ・ノルヴァでも認識できない領域での時止め....。

だが、今の僕ならわかる。

シュンは茨を破壊し、直ぐに過去の僕に向かって球体の様なものを飛ばした。

「フフ....。」

思わず笑みがこぼれた。

僕の声が聞こえたらしく、シュンが驚いた表情でこちらを見た。

過去の僕に飛ばされた球体をキャッチし、そのままシュンに投げ返した。
シュンの腕に当たった球体は、僕が時止めを解除するのと同時に爆発した。

その一瞬の出来事に皆驚いていたが、一番驚いていたのは過去のミレイ・ノルヴァだった。

「貴方....一体何を...?」

「時間の操作。ミレイ。アンタ本当にいい能力持ってるよ」

腕が破損したシュンがムクリと起き上がり、その狂気じみた笑みの表情に引きつりが生まれた。

あぁ、最高の気分だ。

【ウッドソード】

無数の棘が空中で絡まり、それは【木の剣】を形作った。
僕の手にフィットしたその木の剣は物凄い力を発揮する。

一振りするだけで空間が切れる切れる。

僕はその剣をホームラン予告する野球選手の様にシュンに向けた。

シュンの顔から余裕の笑みは消え、今度は憤怒の表情が浮かび上がった。

「お前はぁ...本当にぃ.....僕を!狂わせるなぁ!」

シュンが手を指揮者の様に振り上げると、地面から無数の空気の歪みの球体が浮かび上がった。
無数の弾がこちらに向かって飛んでくる。

しかし、ウッドソードの前では無力だ。

僕はその歪み弾を全て切り落とした。
シュンの怒りの表情はますます深くなり、攻撃が単調になっていった。

空気の歪みが黒色に染まり、莫大なエネルギーを漏らす弾がシュンから周囲360°に飛ばされた。

僕が対応しきれない攻撃を仕掛けて精神攻撃....。本当に単調な攻撃だ。

時を再び、止める。

シュンの攻撃は一瞬静止したが、再び動き出した。
みんなにシュンの弾が直撃する。

....しかし何も起こらない

「なぜ!」

「この時間は僕がホストだからだよ」

ウッドソードを片手に、みんなに直撃したまま静止している弾を全て切り落とした。

再び時が動き出す。

シュンが俯いた。

ハ、ハハ、ヘヘヘヘヘと気色悪く笑うシュン。

「ハハハハハハハハハハ!」

「君は強くなりすぎた。これは俺の傲慢なんかじゃない」

「よこせ!お前のその能力!よこせえええええええええええええ」

シュンの顔がどんどん狂気に歪んで行く。
無の空間が歪んでいく、圧倒的な閃光を発して【消滅】する。

o0O○O0o0O○O0o0O○O0o0O○O0o0O○O0o0O○O0o

シューと空間の歪み音を立てて消滅していった。

エルフの集落。

荒れ果てた土地、無造作に散らかった生活痕。
そして、残った僕とミレイ・ノルヴァ。

「結局こうなるんだな」

「えぇ。覚悟は決まった?」

「.....あぁ」

奈恵や過去の僕はもういない。
あの無の空間に取り残された。

そして無の空間も存在しない。

シュンが消し去ったのだ。

僕の中から最期の希望が消えた。
【神の試練】のタイムリミットが近づいているのだろう。さっきから頭痛がすごい。

頭を抑えると手に火傷に近い感覚を覚えた。

熱い。

高熱が出ている。

最悪な条件は【重なる】。

「なぁ、僕の覚悟は決まった。だから一つだけお願いを聞いてくれないか?」

「何?」

「僕には無抵抗の人間を殺す事は出来ない」

「....だから」

「僕と、真剣に戦ってくれ」

フフ、と不敵な笑みを浮かべるミレイ・ノルヴァ。

「貴方も大分鬼畜な事を言うようになったのね」

「いいわ、その話乗ってあげる。幼少期以来決闘なんて滅多にやってないから体がなまってないといいんだけど」

ミレイ・ノルヴァが肩を回しフゥ....と一つ溜息をつく。
そのまま指を鳴らすと、空間にブロックノイズが発生し、僕等は森に移動した。

「ここでいい?」

「あぁ」

ミレイ・ノルヴァの目は、子供をあやす母親の様に優しかった。
しかしその目の中に、しっかりと【殺意】が篭っていることを感じ、僕は安心を覚えた。

「さぁ、始めようか」

地面に踏み込んだ足に、圧倒的な力が入るのを感じる....。

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