第99話:昔話

神の試練を突破して尚且つ奈恵達を救う方法？

！！？

自分が置かれている状況を今やっと理解した。
残り数時間の余命宣告をされた僕。

みんなを救う為に来た過去の世界。
神を殺すことによって達成される【試練】。

なんだこの詰んだ状況。
自分の能力に早速慢心していた。
最も理想的な状況は２，３時間以内に奈恵達を救い出し、天界に行き神を殺すことだが....無理だろ！

神を殺すなんてシュンみたいな事が出来るはずも当然無いのだが、それ以前に奈恵達を助け出すのでさえ２，３時間で終わりそうにない。
なんだこの詰んだ状況。

そしてこの状況を解決する方法って一体...。

「私を殺して」

ミレイ・ノルヴァの口から出たその言葉に、僕の脳は処理を止めた。
再び脳が動き出した時に、僕が見たのはミレイ・ノルヴァの覚悟めいた表情だった。

全てを覚悟した美しい姿が、そこにあった。

「お前が死んだらどうやって奈恵達を助けるんだよ！」

「貴方に【ロストブランク】を継承させるわ。貴方は私の死骸を取り込んで【神】になるの」

「待て待て....話が飛躍しすぎて理解できてない。整理をさせてくれ」

「時間がない事ぐらいは貴方が一番良く理解してるんじゃない？それに飛躍した話なら今まで何度も聞いてきたでしょ？」

「.....」

ミレイ・ノルヴァの冷たくも美しい眼光は、いつにも無く【マジ】だった。
ミレイ・ノルヴァは生まれ付いての【神】。それも上級層の....。

生まれ持った何もかもを捨てるなんて覚悟は僕には出来ない。
そしてその覚悟を受け取る事も、それと同様に出来るはずがない。

「元々私の責任なの。貴方を生み出したのも、貴方に水晶を渡したのも。全部は私が原因」

「私の命と、貴方のその【魂】が合わされば....。」

「他にもっといい方法があるはず....何もそう簡単に...」

「時間がないの！分かって！これは私への罪滅ぼしでもあるの！」

ミレイ・ノルヴァのその言葉に、僕の中の何かが切れた。
気付くと僕はミレイ・ノルヴァの肩を掴み、鬼気迫る表情で心の中から溢れ出る感情をあるがままに吐いた。

「そう簡単に命を捨てようとするなよ！何が罪滅しだ。そんなのただ単に【逃げてる】だけだろ！」

「それでもノルヴァ家の長なのか？お前が死んだら残されたニーナやメグロはどうするんだよ」

「もっと他にいい方法があるはずだろ？お前それでも【時と運命司る】女神かよ」

ミレイ・ノルヴァの目は完全に虚ろになっていた。
目が死んでる。

仕方ない...。

地面にあった石を拾う。

【ウッドソード】

ミレイ・ノルヴァと距離を取るのと同時に、その石が懐中時計の形を作る。
僕がその懐中時計のステムを押すと時が止まった。

世界が色を失った様に見えるのは、静止した時の世界では光が上手く反射しないからだ。

【ウッドソード】

地面から刺が生え、それは螺旋を描きながら空中に伸びてゆく。
その刺の先にエネルギーボールが出現する。

僕はそれを目一杯ミレイ・ノルヴァに飛ばした。

ミレイ・ノルヴァは僕のその全力の攻撃を、右手で払った。
その瞬間僕が飛ばしたエネルギーボールは何処かに消えていった。

ロストブランクではない、ミレイ・ノルヴァ純来の能力でかき消された。

「ほらな、僕じゃお前を受け止める【器】としては役不足だ」

「自分の価値を自分で下げる行為はそう簡単にやっていい事じゃない」

「ちょっとだけ昔話をしてあげる」

ミレイ・ノルヴァの死んだ目に若干のハイライトが入った。
しかしその目はやはり冷たく、冷気さえ感じるものだった。