記憶共有的異世界物語

さも_samo

第94話:【生き残る】という名の不幸

僕はシュンに蹴りを入れた。

後方に吹っ飛ばされるシュンを見て、僕の成長を感じると同時に、冬弥を守れなかった自分の無力さを悔いる。

【ウッドソード】

冬弥の失われた肉片の一遍から彼を【生き返らせる】。
ボトッと落ちる音と同時に、シュンの死体が生成された。

やはりダメだった。

そこに生は無かった。

冬弥を生き返らせても、そこにもう【生】は無かった。

死体。

冬弥が動くことは無かった。
僕の学生生活の数少ない友人...。

シュンが起き上がると同時に、僕の怒りは限界値を超えた。

「がああああああああああ」

「返せ!返せよ!返せえええええええええええ」

「俊介!落ち着いて!」

「お前が!お前さえいなければ!」

「お前が!この世界に来なければ!」

「死ねぇええええええええ!」

拳を入れる。
何度も何度も、自分の手が壊れるまで殴り続ける。

「フフフ...凄いなぁ.....。何度抵抗しようとしてもできないやぁ....」

「君はすごい速度で成長してるんだねぇ....僕と互角....いやぁ?怒りの分キミの方が上かなぁ!」

シュンがふてぶてしく嗤う。

クソ...クソ!

【ウッドソード】

シュンを空中に浮かせて、地面に叩きつけた。
コッパーンと言う景気のいい音と共に、シュンは原型を止めない程にグッシャグシャになった。

「はぁ...はぁ....」

しかし....シュンに物理的攻撃が効いたところで...。

原型を止めない程にエグい壊れ方をしていたシュンは一度液体化し、そして元の形に戻った。

クソ!

「そこまでぇ...冬弥が大事だったのぉ?僕の世界じゃ冬弥はただのゴミだったけどなぁ~?」

「なんでだよ...お前は僕らと共にこの世界を消し去るつもりなんだろ?なんでわざわざ僕等を成長させるんだよ」

「成長させてお前の手の届かない領域に行った奴が現れたら...」

「簡単な話さぁ!俺は他の世界のお前等を消し去った時のあの味気なさが嫌になった...それだけさぁ!」

「美味しい食べ物はゆっくり味わいたいだろぉ?それと同じさぁ....。まぁ本音を言ってしまうと」

「お前が不快なんだよ、俊介。他の世界の俺はみんな【俺の根幹】と同じものを持っている。だからこそ僕の弱点が君の弱点になるはずだったんだ。少なくとも別の世界のお前はそうだった」

「だがキミだけは違う。この世界はどこか【狂ってる】んだよ。何がこの世界をそうさせたのか...。主人公補正って奴か?だからこの世界はおかしいのか?...」

「何を言ってるんだ...」

「俺はねぇ....俊介。君が俺じゃない事がイヤでイヤでしょうがないんだ...。だからこうやって君を強くするように仕向けた。俺と【同等】に強くなってもらわなきゃ困るんだよぉ...」

「そんな身勝手な理由でナエラや馬場さんを...ついには冬弥までも....?」

「そうさ!」

「そうか、死ねッ!」

無数の棘が地面から生えて空中に伸びながら絡まり合い、巨大な剣を作り上げた。

【ウッドソード】

刺の根元が折れ、その剣は僕の手元に戻った。

「お前の世界のシュンヤが、この能力を【ウッドソード】なんてクッソダサい名前にした理由って結局なんだったんだろうな」

「僕にはそれがサッパリ分からなかった。だが、今ならなんとなく分かる気がする。【ウッドソード】って名前はヒントだったんだよ」

シュンが疑問の眼差しでこちらを睨む。
その視線一つ一つが不愉快だ。

「ウッドソードは!お前を葬る方法のヒントだったぞ!」

ウッドソードを使い、刺は木製の剣に凝縮された。
そしてこの剣の能力は、【空間を歪める】能力。
歪んだ空間の先は...【無】だ。

この剣で切れば、切れた箇所は何も存在しない、この無の空間より遥かに【無】な世界に繋がる。

それを【無】と認識出来ないほどの、完全な【無】。

「はぁあああああああああああああああ」

僕がシュンに剣を振るうと、シュンはバリアのような物を張り、僕の攻撃を防いだ。

「グリシア!」

「えぇ、分かってるわ」

僕の重力を遥かに重くした。
これだけでとてつもないパワーがかかるがまだ足りない。

「ヴィクセン!」

「もうやってるさね!」

【壊】の文字が大量に生成され、それら全てがシュンのバリアを壊しに向かう。

当たっては消滅しを繰り返し、少しずつシュンのバリアを削っている。

マヨイは槍を投げて、ファティマスの馬鹿みたいな筋力で、ライリーの消化液で、そしてパッセの能力で攻撃の経過を進める...。

インティートは魔法陣のような物を大量に生成し、そこから雷のような攻撃を、ネッティブはバリア周辺の温度を急上昇させて、中にいるシュンを蒸し焼きにしようとしていた。

ミレイ・ノルヴァと奈恵はみんなの援護魔法を担当し、僕等は今。これ以上ないほどに最高のコンビネーションでシュンに一撃を入れようとしている。

「終わりだ!シュン!」

刺から作り出された【ウッドソード】は、着実にシュンのバリアを【無】に葬りながら進んで行く。

シュンのバリアもみんなの攻撃に耐え切れず、遂には壊れた。

「はああああああああああああああ」

僕が剣を振ると、それはシュンに直撃した。
真っ二つになるシュン。

2つになったシュンを切り刻み、体のありとあらゆる部位を無に送り込んだ。

「僕はお前を無慈悲に殺す!良かったな、シュン。これで僕とお前は【同類】だ」

バラバラに刻まれたシュンの口のパーツが微弱に動く。
唇読術を学んでいる訳ではなかったが、その時のシュンの言葉はハッキリと分かった。

「違...う」

その瞬間、無の空間が物凄い音と共に歪みだした。
青い光が地面からこぼれ始め、少しずつつ【消滅】していくのが分かった。

少し目を離すと、切り刻んで残り少ないシュンのパーツが一箇所に集まり、シュンの生首が復活してしまった。

生首になったシュンはこちらをギョロリと睨むと、狂気じみた笑いを見せた。

「まだだよ!まだお前は俺じゃない。だから【勝てない】!」

瞬間、物凄い光が僕を包んだ。
何も見えなくなる程の爆光。

真っ白な光の空間が少しずつかすれて行く。


━…━…━…━…

気付くとボロボロになった教会の中に居た。
壁から鉄の棒がむき出しになっていたり机が真っ二つに割れていたりととにかくボロボロになっていたが、それよりもっと恐ろしい損害に気付き僕は膝を付いた。

ノルヴァ家の感覚を何処にも感じない。

水晶玉はしっかりとある。

でも何処にもノルヴァ家の感覚を感じない。
僕と同じくノルヴァ家の分家に入った奈恵やトウの感覚も感じない。

おい...おい...待ってくれ。



壊れボロボロになった教会に居たのは――――

僕だけだった。

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