記憶共有的異世界物語

さも_samo

第92話:【マリオネット】の舞踏会

後ろに飛び続ける。

顔面の強い痛み。
苦い口内。

どんどん温度が上がっていく体。
ガンガン痛み、視界を黒く染める頭痛。

最悪の条件が僕を襲い、シュンの攻撃をただひたすらに回避し続けるしかない地獄を、僕は味わっている。

【ウッドソード】

自身をなんとか回復させる。
血液量が足りない。

時間に任せるしかないが、回復していく中僕の思考は様々な事を処理しようと必死だった。
ミレイ・ノルヴァの救出。
この状況からの脱出。

奈恵達の保護。

マヨイが槍を作り出しこちらに投げてきた。使えと言う事なのだろうか?
その槍をキャッチすると、僕の血液量がみるみるうちに回復していった。
くどいまでに悪化していた頭痛はスッキリと消え、吐き気を催す目眩も消えた。

身体が軽くなっていくのを感じる。

シュンが刺を直線上に作り上げ僕を追い込もうとしてるようだが、マヨイの槍で壊して進んでいるためその攻撃の意味はほぼ皆無だった。

槍の強度は十分すぎるもので、僕はこれに【能力】を付与できる気がした。

【ウッドソード】

ビンゴ。

思ったとおり、僕は能力を付与できない弱点を克服している。
槍に時間を戻す能力を付与した。
この槍が触れたものは物凄いパワーを発し時を戻す。

しかしこの槍の能力が発現すればするほど僕の体力が物凄い消耗をするようだ。
だから回数は使えない。
だが、僕はこの槍を使わなくちゃ行けない。

「うぉああああああああああああああ」

ミレイ・ノルヴァを貫いている刺を槍で触れた。
その瞬間、刺は物凄い音を発し縮んでいった。

地面に戻り完全に消えたその槍をよそに、僕は簡素な空間の歪みをミレイ・ノルヴァの下に作った。
歪みに落ちたミレイ・ノルヴァは奈恵とマヨイの元に移動させられた。

何度も回復魔法を使わせて申し訳ないが、死なれるよりは遥かにマシだ。

僕のその一連の動作を見て、シュンはこれ以上ないほどに不快そうな顔をしていた。
その顔を見て、僕はどこか【スカッ】としたのだが、この次にしてくるであろう攻撃の前に、血の気が引いた。

「君の成長は認めよう...でもさぁ!それが俺の思考の邪魔をしていい理由にはならないよなぁ?」

「成長させたのはお前だろうが...シュン!」

「ハハ、成長させて【あげた】んだよ、この為にねぇ!」

そう言うとシュンはウッドソードを唱え、その右手に十字架の木を出現させた。

その木から無数の糸が伸びてゆき、それは下にいた全員に刺さった。

「あぶねっ」

反射的に首をそらした。
目線の先には【死】の文字。

飛んできた方向を見ると、ヴィクセンがこちらに向かって腕を伸ばしていた。

ヴィクセンの怯えた表情を見て、彼女が【操られている】事に気付いた。
しかし気付いた時にはもう遅く、数秒もしないうちに僕は刺の地面に叩き落とされた。
グサリと深々く刺が胴体に刺さり、重力によってメリメリと刺の奥にめり込んでゆく。

痛い...気を失わないことで必死だ。

「ウッ..ド...ソ」

時が止められ、僕は口を動かせなくなった。
意識すればこの止まった時の空間でも動けるのだが、体力や痛み、悪条件が重なり身動きがとれない。

コツ...コツとミレイ・ノルヴァが近づいてきて、僕の腕を飛ばす。

「うわあああああああああああああああ」

「ウゴッ!?」

ミレイ・ノルヴァは切り取った僕の腕をつかむと、僕の口の中に押し込んだ。
精神的苦痛と、物理的な苦痛。
ミレイ・ノルヴァでは絶対にありえない攻撃...。

クソ、ミレイ・ノルヴァさえもシュンのあの十字架に逆らえないと言うのか。
あれは【マリオネット】だ。

シュンはあの無数の糸で、みんなの身体的コントロールを奪い、【操り人形】を作り上げたのだ。

シュンの独占欲、傲慢さ。その全てがにじみ出ている様なこの攻撃。
挙句の果てには見方を攻撃しなければ自身を守れないこの最悪な状況。

クズめ。

ミレイ・ノルヴァが押し込んでくる僕の腕を【ウッドソード】で溶かし、僕は自分の腕を飲み込んだ。
そのままの勢いでミレイ・ノルヴァの手が口内に入る。
顎はもうとっくに外れている。
こうなったら行けるところまでやってみせよう。

【ウッドソード】

自身の顎を治すと同時に、歯の一本を【全てを断ち切る刀】に変化させた。
ミレイ・ノルヴァの手の糸がプツリと音を立てて切れ、ミレイ・ノルヴァは自身の意思で手を口内から抜いた。

「すまんなミレイ。これしか思いつかなかった。」

自身の歯を手で抜いた。
神経を直接攻撃するこの痛み。
絶対に忘れない。

銀に鋭く光る自身の歯を投げる。
プツリプツリと音を立てて、ミレイ・ノルヴァについていた全ての糸が切れる。

そして僕はその歯に【意識】を与えた。

「さぁ、他のみんなの糸も切ってくるんだ」

刃と化した僕の歯はすごいスピードで飛んでいく。
瞬きほどの一瞬でプチリ...と言う大きな音が鳴り、辺りに静寂が訪れた。

刃は地面にポトリと落ちると、炭とも分からない粉になり、風とともに散った。

「どうだ、これで満足か?」

「あぁ...とっても満足」

舌なめずりをするシュンに気色悪さを感じると同時に、僕の肋骨に物凄い衝撃が走った。
骨折..と言うよりかは【砕けた】と言う表現が正しいのだろう。

血反吐と痛み...。

地面に這いつくばる僕が視線を上に上げると、そこにはファティマスが居た。

「糸は切った....は」

ファティマスが僕の顔を踏み潰す。

視界はシャットアウトされ。理解不能の中、僕は何も無い本当の意味での【無の空間】にいざなわれた。




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