記憶共有的異世界物語

さも_samo

第85話:最も恐るべき【死神】

シュンが冷たくこちらを睨む中、僕等は彼のその目線に違和感を感じていた。

「どこ見てんだよ...」

小声でボソッとそうつぶやく....彼はどうして僕等を【殺さない】のだろうか?

沢山の疑問が頭をよぎる。
彼の能力なら、上級の神相手でもサクリと殺せるはずだ。

一撃喰らえば細胞レベルで消滅するであろうファティマスの攻撃をサラリと躱して、カウンターまで決めている。

彼が殺さない理由は、どう考えても一つしかない。

【遊び】だ。

彼はその自身の能力故に恐ろしいまでの【慢心】をしている。
しかし慢心して尚、彼は強い。

圧倒的に弱体化していてこれだ。

鼓動が跳ね上がるのを感じる。
突然シュンの口角がグイッと上がる。

「君たちってさぁ....天界じゃぁ...かなりの【権力者】だよねぇ...?」

「それがどうした」

「君達が居ないって事はぁ....つまり今って【天界が甘く】なってる訳だよねェ....」

「まさか...」

彼のその発言と同時に、極度に強い【地震】が起こった。
震度で表すとどれぐらいだろうか、立っているのも辛い程の揺れに襲われて、僕は思わず地面に手をついた。

僕以外は宙に浮いて揺れを回避している。

【ウッドソード】

地面を切り取り宙に浮かせる。

「貴方...本当にとんでもない事するのね...」

「何が起こってるんだ?」

「天界の神を【消し】回ってるのよ」

「消す...?」

ライリーのその発言に一瞬理解が遅れた。

「あーもう」

ライリーはその場に空間の歪みを作り出し、そこに飛び込んだ。
それに続き、ファティマスもそこに飛び込む。

僕も行こうとしたが、ミレイ・ノルヴァに止められた。

「貴方...自殺願望者か何かなの?」

「いやぁ....?僕ァねぇ....【遊人】さぁ....自由気ままに世界をかき回す...そんな【遊人】」

「自由気ままな【死神】....神をも自身の手の平で躍らせる【強者】!」

地面の揺れが激しくなり、それはこの世の終わりに似ていた。

ありとあらゆる場所で空間が歪みだし、世界が【バグった】。

━…━…━…━…━…

天界に来たのはいいものの、ヤッパリこうなってた....。
シュンに似た小型の人型生物は、沢山の神を【殺し喰い】していた。

ムシャムシャと神々を食い散らかすその生物に気味悪さを感じると同時に、無慈悲にも神々を殺し続けるシュンに激量の怒りを覚えた。

「ファティマス!手伝って」

「あぁ」

ファティマスは獣の形に変形し、沢山沸いたシュンを蹴散らして行った。
小型の劣化シュンとは言え、その固さは言わずもがな知れたものだった。

どんな物質をも簡単に砕けるパワーを持つファティマスの拳でさえ、飛ばすだけで壊れはしない。

私は神に群がるシュンを一度に【吸い込み】そして【消化】した。
一体吸い込むだけでかなりのパワーが吸収できる....。

しかしそう上手くは行かない。
一体にこれ程パワーがあるという事は、吸い込み過ぎると私の身が持たない。

一体どうすれば....。


━…━…━…━…━…

「奈恵...貴方精神力には自信ある?」

「え?一体何を」

「大丈夫そうね」

「わっ、ちょ」

ミレイ・ノルヴァが奈恵の足元に空間の歪みを作り、奈恵はそこに飲み込まれた。

空間の歪みが月のクレーターの様に沢山出現しているのだが、その歪みの一つ一つが別の移動先につながっているのだろう。

どれがどこに繋がるのかさえ分からないが、とにかく【世界が滅茶苦茶になっている】と言う事だけはよく分かった。

「わーお。ミレイちゃん鬼畜~」

「じゃぁ貴方が行く?」

「私が欲しいから奈恵ちゃんを行かせたんでしょ?」

マヨイの煽りに、ミレイが舌打ちをする。

「ま、こっちもこっちで覚悟を決めないとダメだしね~☆」

「その軽いノリなんとかしなさいよ」

ミレイ・ノルヴァとマヨイ・ヴァレンが肩を合わせる。
その光景はとても【神々しく】、その光景に思わず見とれてしまった。

<a href="//19508.mitemin.net/i269907/" target="_blank"><img src="//19508.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i269907/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>

マヨイが腕を振ると、空中から槍のようなモノが現れた。
その槍を掴み、シュンに向かって突進していたが、その速度はもはや目で追えるものではなかった。

瞬きほどの一瞬で、シュンの体が粉々になった。
シュンの体は数秒もしないうちに元に戻ったのだが、シュンの目は相変わらずどこか虚ろだった。

シュンがその虚ろな目でこちらを睨む。

ミレイ・ノルヴァがいきなり後ろに吹っ飛んだ。
右肩を抑えながら立ち上がるミレイ・ノルヴァ。

「まさか私の時止めにカウンターを仕掛けてくるとは思わなかったわ....」

「能力にぃ....慢心するからぁ....どこの世界の神も?本当に....【脆弱】なんだよねぇ...」

「あらそう?でも貴方のその左手...随分と痛そうよ?」

シュンの左手の人差し指が欠けていて、そこから大量に出血していた。
シュンは左手をじっと見つめて、ウッドソードでその指を元に戻した。

ジーとミレイ・ノルヴァを睨み、そしてニヤリと笑った。
その薄気味悪さにミレイ・ノルヴァは一歩引いていたが、それでも闘士は消えていない様だった。

「タッ....」

ミレイ・ノルヴァの右手の人差し指が突然欠けた。
ダポダポ垂れる血を見て、ミレイ・ノルヴァは理解不能と言いたげな顔をしていた。

「俺の時止めはぁ...君のそれより遥かに優れてるんだよねぇ....」

「だって俺はぁ....」


「世界を滅ぼせる【死神】だもの!」

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