記憶共有的異世界物語

さも_samo

第79話:絶対的【恐怖】

「ダメだ」

僕の声が教会内に響く。
奈恵が困惑の表情を見せる。

「記憶が共有されているんだ....。少なくとも僕は絶対に逃げられない」

「そりゃそうだろう?どこにいたって【記憶が共有】されちまってるんだから」

「じゃぁ僕のもとにシュンが来ない理由ってなんだと思う?」

僕の問いに皆が沈黙する。

「【待っている】って言いたい訳?」

最初に口を開いたのはライリーだった。
彼女は馬鹿らしいと言わんばかりの表情をしていたが、それは僕も同じ感情だった。

「僕の記憶がどれほど向こうに行ってるかは分からないけど、僕のもとにシュンの記憶はもう来てないんだ」

僕の発言に皆一斉に困惑の表情を浮かべる。

「え?」

「言葉通りの意味さ。シュンの記憶の一部は確かに【共有】されてるんだけども、シュンの新しい記憶は一切入ってきてない」

「つまり、彼がチュラル村の空間の歪みの奥の世界に行った後の記憶が僕の中に入ってきてないんだよ」

みんな一斉に何かを考えるような仕草を取った。

彼等の回答は分かっている。

....3ループ目のシュンはチュラル村の歪みの【奥】の世界で出会う。
大分断片的に記憶されているせいでかなり曖昧にしか思い出せないのだが、僕はその【歪み】に入った....と思う。

そして僕の今の質問に対して奈恵が「だからシュンはその【奥の世界】で待っているって言いたいの?」だ。

「そう.....でもダメ。貴方はやっぱり教会に残るべきだと思うの」

!!?

記憶と違う。
奈恵が最初に喋ったところまでは合っていたが、発言内容が違う。

一体何故?

いや、待て。これは【ズレ】だ。

ここからの判断に慎重にならなければ僕はまた彼の運命に従わなくてはならなくなる。

「....分かった。教会に残るよ」

「え....随分簡単に飲み込んだわね。なんで?」

「すまん。今は詳しく追求しないでくれ」

記憶と違う行動をとらなくちゃ行けない。
意識を集中させればさせるほど、僕の神経が磨り減って行く。

冷や汗が流れるのが分かる。

記憶が薄れていく。
次の記憶を思い出そうと努力すればするほどに記憶が薄れていく。

これじゃぁどう行動すれば【ズレ】が大きくなるのか分からない。

僕はチュラル村に行く....この記憶は本当に正しいのか?

どっちだ。

さっき思い出した様に感じたのは自分の思い込みだったのではないだろうか?

断片的に記憶されているせいで記憶が本当に曖昧だ。
本当に僕はチュラル村の歪みの【奥の世界】で彼と出会うのだろうか?

さっきの記憶のズレ...もしズレてなかったとすれば奈恵の質問に対して「そうだ」と答えて僕はチュラル村に行っていたはずだ。

そう考えるなら3ループ目の僕はチュラル村に向かったのだろう。

「....分かったわ。じゃぁ俊介...念を押すならシュンヤも、教会に残っててもらえるかしら?」

「あぁ。」

僕とシュンヤは頷いた。

ライリー、トウ。冬弥に奈恵。

この4人が居ればそう簡単に死ぬと言った事はないだろう。

「でも忘れないでくれ。今やらなきゃいけない事は【情報収集】。シュンと出会っても、可能ならすぐに逃げろ」

「えぇ、勿論」

奈恵のその返答に残りの3人が頷く。


━…━…━…

奈恵達がチュラル村に向かっている間、僕とシュンヤはお互いに疑問をぶつけ合っていた。

「なぁシュンヤ、お前のところにシュンの記憶は本当に行ってないのか?」

「一切来てない。俊介....お前こそ本当にシュンの記憶が届いてるのか?【記憶共有体】の俺等が共有出来ない記憶があるなんて信じられないんだが」

シュンヤのその理論は理解できる。
思想や考えてること以外は細かいところまで共有されている。お互いに。

それこそお互いの【黒歴史】だってしっかり記憶している。

そんな僕等に共有できない記憶がある事に僕自身困惑している。

■▽◎□▲■▽◎□▲

突然シュンヤの動きが止まった。

まるで【時が止まったかのように】。

「お、おいシュンヤ。どうした?」

「.....」

返答が無い。

不安になり、地面に落ちていた石を投げた。
投げた石は空中で固定された。

時が.....止まっている。

「おい!シュンヤ!」

「......」

大声で話しかけても一切の反応がない。
聞こえてすらいないのだろう。

一体何故....?

「やぁ....会いたかったよぉ.....俊介ぇ......」

背後から声がした。
その声を聞き。僕は心の底からの身震いが止まらなかった。

からだが完全に硬直したのを感じる。

首は疎か瞬きすら出来ない。
筋肉が変に硬直したのを感じる。

「そんなに怯えなくてもいいじゃぁないかぁ....君は本当に恵まれているんだよぉ....?」

僕が...恵まれている?

やっとの思いで首が動いてくれた。
ギチギチと鳴っては行けない音を鳴らしながら、僕は声の方向を見た。

心臓の鼓動が激しくなる。
心臓がはちきれそうとはこの事だ。

比喩ではなくはち切れそうだ。

純粋な痛みを感じる。

胃が逆流し、内蔵が全部飛び出そうなほどに恐怖を感じる。

黒髪のエアリーヘア。
スラリとした人を睨みつけるのに最適な眼光。

完全に僕だった。

僕がそこにいた。

しかしよく見ると、どことなくシュンヤにも似ていた。

まるで僕とシュンヤが【合わさった】かのように。

合わさった....?

おい待て。

鼓動がどんどん早まっていくのを感じる。

もはや音と音のつなぎ目が分からなくなるほどに早くなっている。


シュンのその不敵な笑みが、僕の全神経を逆立たせる。

あぁ...僕は選択を【間違えた】。

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