記憶共有的異世界物語

さも_samo

第73話:仮面の表情。

卓がザワつき、とても穏やかな【晩餐】が始まった。

食事はどれもとても美味しく、地球ではとても食べられないような特殊な食材がより僕の舌を刺激した。

美味し過ぎて逆に引く。
見たこともない肉に手が勝手に伸びる。

しかしこれをここまで楽しめるのは僕だけなのだろう。
なぜならこれはグルヴァニアが選んだものなのだから。

彼の腕は本物だ。

本当に凄い。

そういう意味でも人間と【神】の違いを思い知らされる。
能力が制限された人の形でさえこれほど強いのだ....。

フゥ....と一つ幸せそうな溜息をついてみせた。

落ち込んでいた奈恵やトウ達も、その出された食事の美味しさに、僕と似たようなリアクションを取った。

「はい、注~目☆」

マヨイ・ヴァレンの高い声が卓に響く。

「じゃぁ、俊介君達のご要望通りヴァレン家の紹介をするわ...と言ってもこの人数。一人一人挨拶してちゃ飯が冷めてしまう....だからね、移動しようと思うの」

そう言ってマヨイ・ヴァレンは指を鳴らした。

その瞬間空間が歪み、あたりは舞踏会場を思わせるような広く美しい空間へと早変わりした。

「まるで王城だな」

シュンヤの発したその一言になる程と共感した。
共有された記憶でしか見たことがないが、それでも確かにこの空間は似ていた。

「これであたりは広くなったわけだし、みんなで歩きながら食事とでも洒落込みましょうか....後は気の済むままにダベってればオールオッケー☆」

マヨイ・ヴァレンのテンションの高さにギャップを感じると同時に、僕は辺りを見渡した。

一ミリのズレもない綺麗な螺旋階段。
空中に浮いている無数のシャンデリア。
至るところに有る丸椅子とテーブル。
ダーツ台やビリヤード台まで完備されている。

ビリヤード台に関してはカードゲームが出来る台に早変わりできるシステム付き....。

もう正直言ってなんでもアリだ。

遊技場と舞踏会場が合わさったかのようなこの空間に、僕は無性に【ワクワク】していた。

「ところでなんで用心棒なんて付けたんだ?ここは和解の場みたいなもんなんだろ?」

ミレイ・ノルヴァに聞いてみた。

「いや、ヴァレン家の人間は信用してるわ。トップがあの女って事を含めなければ至って正直な娘達だもの」

「ただね....」

突如、ポーカーを楽しんでいたヴァレン家の神々の遊技台が破壊された。

ヴァキッと言う木製製品が壊れる音が辺りに響く。

その音の方向を見ると一人の女が立っていた。

「こういうのが来るのよ....毎回」

そう言うミレイ・ノルヴァの顔には虫を噛み殺したような苦い顔が浮かんでいた。

「母さん...私警告したよね...?なんでこうも容易く...」

その女の表情は完全に激昂したそれだったが、しかしその表情と内心が全く比例していない事にちょっとした恐怖を覚えた。

仮面の表情。

そう表現するのが適切だろう。

その神と視線が合った。
その瞬間にその神はこちらに瞬間移動してきた。

本当に移動が見えない。
これで暗殺とかされたらたまったもんじゃない。

「貴方が俊介ね?今すぐこの卓を終わらせて。」

その女の顔はやはり激昂に歪んでいたが、しかし声のトーン等を何度聞いても彼女が激昂しているようには見えなかった。

「まずは自己紹介してくんねぇかな....僕等は君が誰かすら分からないんだ」

女は数秒僕を睨んでいたが、溜息を一つ付いて自己紹介を始めた。

「私はアノィバ・ティアラ...【憤怒】を司る女神」

憤怒....と言うとやはり七つの大罪の憤怒だろうか?

「私の妹よ、次の」

ライリーが口を出してきた。

という事はライリーは姉なのか....って待て。
確かアイツ長女だったよな?

て事はコイツは次女になると....。

マヨイさん...貴方の上の娘さんどっちもグレてますやん....。

いや、マヨイ・ヴァレンがヴァレン家に入った時点でもう娘ではないのだろうか。

とりあえずマヨイ・ヴァレンの家庭環境は置いておくとして、一つ面白い情報を手に入れた。

【ティアラ】

王冠みたいな名前をしたコレが大罪一家の苗字に当たるのだろうと言う事だ。
詰まるところ、マヨイ・ヴァレンはマヨイ・ティアラになり、ライリー・ノルヴァはライリー・ティアラになるという事だ。

なる程。

しかしこれで整理が付いた。

大罪一家とヴァレン家は別物で、大罪一家【ティアラ】のマヨイ・ティアラがヴァレン家を乗っ取り、マヨイ・ヴァレンになったという事だ。

そしてティアラ家の娘にグレられると....。

「【憤怒】って事はやっぱりティアラ家は7人兄妹なのか?」

「いえ、6人だけよ」

「【怠惰】を司る神が生まれれば完全に揃ったのに...あそこの駄女神がヴァレン家の長になったりするから....」

その発言を聞いてか、マヨイ・ヴァレンが近づいてくる。

「あらあら、アナタってそんな礼儀知らずだったかしら?私からも警告するわぁ....」

「今すぐ立ち去りなさい。ここはアナタが来ていい場所じゃない」

「断る..と言ったら?」

マヨイ・ヴァレンは手を振った。
ヴァレン家の神々は一斉にアノィバの方を向き、構えた。

アノィバは「あ~そうですかい」と頭を書きながら顎を引いた。

どうやらこの神々とヤり合うつもりらしい。

正直内心来てよかったと思っている。
神同士の戦闘は滅多に見れるものじゃない。

参考にして自分のモノにしてみせる...!

アノィバの足が地面に食い込み、彼女は驚異的な跳躍力を見せた。

頭突きが一撃男の神に入り、彼は悶えていたが、そのままアノィバの頭を抑えた。

そのまま回転投げを食らわせていたが、神同士の戦いで物理攻撃使うのか....と内心困惑した。

アノィバは立ちがり、こちらを睨む。

一体何を企んでいるのだろうか?




コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品