記憶共有的異世界物語

さも_samo

第69話:無慈悲との交渉。

「マヨイ家とヴァレン家...和解しようかと思うの」

マヨイ・ヴァレンの突然の発言に、神々含めたこの場にいた全員が口をポッカリ開けた。

またこうやって爆弾発言をする....。
神って種族は本当に爆弾発言が大好きだ。
だからこそ人知を超える存在なのだろうか?

「あぁ、そうね。よくよく考えれば人が足りなかったわ」

そう言ってマヨイ・ヴァレンは指を空中で円を描くように振った。
その振られた空間から歪みが生まれ、そこからトウと冬弥が落ちてきた。

イテテテテと腰を抑える二人。それをニヤニヤ見下ろすマヨイ・ヴァレンの表情には、さながら試練を与えそれを見守る神の様な感覚を覚えた。

トウと冬弥は最初は驚いた表情を浮かべていたが、マヨイ・ヴァレンの顔を見て驚きの表情は引いていった。

「貴方達は私を見てもあんまり驚かないのね....ちょっと意外だったわ」

「未知ほど怖いもんはないもんでな。ご生憎様アンタの事は調べ尽くしたんだよ....コイツが」

そう言ってトウは冬弥の方を指さした。
心なしか冬弥がドヤ顔をしている様に見えるのは気のせいだろうか。

トウと冬弥には記録を漁ると言う形でエルフの捜査を続けてもらった。
そのついでに神話も漁ってとお願いしたのだが、それが功を成したようで何よりだ。

しかしいくら調べたとは言え、あそこまで冷静になれるのは素直に感動を覚える。

僕が恐怖した場合、反射的に威勢を張るが、それはあくまで内面の薄い部分のみだ。
彼等は心の底から威勢を張れる。

羨ましくもあり、素晴らしくも思う。

「あらそう...」

そう言ったマヨイ・ヴァレンはどこか不服と言った表情を見せたが、数秒もしないうちに真顔に戻った。

「じゃぁ改めて....【ヴァレン家とノルヴァ家で和解しよう】と思うの」

さっきより強調して言う。
もう分かったっつのと言いたくなったが、やはり何度聞いても理解できそうにない。

「理由を聞いても?」

冬弥が聞いた。

マヨイ・ノルヴァは数秒黙り込んだが、一つ溜息をついてから口を開いた。

「シュンの事はもう知ってるのよね?私は彼と戦いたいの」

そう言ってマヨイ・ヴァレンは服を脱ぎ始めた。
突然の不意を付く行動にみんな驚きの表情を見せていたが、彼女が脇腹を見せたかった事を理解した。

脇腹に穴がガッポリ空いていた。

その状態でどうやって歩いてるんだ?と疑問に思うほどにガッポリ空いているその穴は、覗けば内蔵が見えそうなほどに大きかった。

「シュンは強すぎる。それこそ神が束になっても勝てないと思うわ。だからこそノルヴァ家との闘争は極端に邪魔なのよ」

「そこで和解を考えたって訳。協力を仰げればどれほど素晴らしいことか」

マヨイ・ヴァレンは服を着ながらそう言った。

「ふざけないで!」

ライリーの叫び声が辺りに響く。
キーンと耳鳴りがするレベルの叫びだった。

「貴方自分の言ってる事が分かってるんですか?まさかヴァレン家がノルヴァ家に与えてきたダメージを知らない訳じゃないでしょうに....。現についこの前そこの女神にこちらの仲間が殺されたばっかりなんですよ?和解なんてとても...」

そう言ってグリシアを指さしたライリーの目には【恐怖】の感情が浮かんでいた。
彼女が何を思ってその発言に至ったのかは分からないが、これもノルヴァ家の信用を勝ち取る為なのだろうか?

親子揃ってノルヴァ家の信用を勝ち取らなきゃいけない状況に陥るとかノルヴァ家は一体ナニモノなんだと聞きたくなったが、ライリーのマヨイ・ヴァレンに向けた眼光は【マジ】だった。

「あらそう....」

【ステンエギジス】

マヨイ・ヴァレンの詠唱した能力に驚きを隠せなくなる間も与えず、グリシアは空間の歪みに消えていった。

どう見たって僕のステンエギジスだ。

何故...。

もっと理解できなかったのは記憶が消えないことだ。

ステンエギジスは存在を司る能力で、基本的に消したものの記憶は消える。
しかしコツを掴めば記憶を【残留】させることも可能なのだ。

純也はそうやって僕だけに記憶を【残留】させる事で僕を呼び出したんだ。

マヨイ・ヴァレンがステンエギジスをそこまで使いこなせている理由が理解できない。

「貴方のそう言うところが嫌いだって言ってるんですよ!」

ライリーは激昂していた。

マヨイ・ヴァレンが不快そうな顔を見せる。

あらそう...と一言残し指を鳴らすと空間の歪みから再びグリシアが現れた。

自分の体をポンポンと叩き生きていることを確認したグリシアの安堵した表情を見て、神も人間も不安になる感情は同じなんだなぁ...と思った。

「和解するなら条件がある...」

僕はマヨイ・ヴァレンンに【交渉】を掛けてみる事にした。

「何?」

そう聞く彼女の眼光にはどこか艶かしいものがあり、その立ち姿には猛烈なまでのインパクトがあった。

あぁ...なる程。これが【風格】ってやつか。

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