記憶共有的異世界物語

さも_samo

第67話:信用

マヨイとの会談が終わり、私は空間を閉じた。
閉じられた空間は完全に【消滅】し、そこから煙があがった。

「あ、ミレイちゃん。これプレゼントね」

空間の消滅を共に見届けたマヨイ・ヴァレンが差し出したのは一枚の仮面だった。

「これは?」

「戦利品」

何の戦利品だったかはさっぱりだったが、特にこれと言った負の力が働いてるようには見えなかったので受け取ることにした。

「貴方が人にプレゼントを送るって言う行為を知ってたことに驚きだわ」

「心外ね....私だって常識ぐらいは.....いや、なんでもないわ」

ないんかい!と内心ツッコミを入れたくなったが、大罪を司る神に常識を説いても無意味だろうことぐらいは分かる。

マヨイ・ヴァレンの仮面の裏にはバーミアの言葉で【禁忌の書ここにあらず】と書いてあった。

戦利品...禁忌の書...まさか。

「ねぇマヨイ、この仮面って...」

気付くとそこからマヨイは消えていた。
全く気配を感じさせずに消えたところを見ると、彼女の能力が異常なまでに上がっている事を痛感させられる。

彼女にとってシュンはそんなに脅威なのだろうか?

自分の能力を鍛え直すほどに?

彼女はシュンと戦うつもりなのだろうか?
やはりあの会談は【準備不足】だった。

どうせマヨイの事だからトンデモ事をぶち込んでくるんだろうなぁ...程度に考えていたがそれでは足りなかった。

私はあの場所を彼女からありとあらゆる情報を引き抜く【尋問場所】にすべきだったのだろう。

やらかした。

しかし、情報が何も引き出せなかった訳ではない。
もし彼女が本気でシュンと戦おうとしているのなら、ノルヴァ家の信用を勝ち取れる【一手】を打ってくるはずだ。

その一手がどんなものかにもよるが、それを使って【ヴァレン家との闘争】を終わらせることだって可能だろう。

そう、第一優先はそれだ。

私だってシュンの捜査をずっと続けていた。
その途中でナエラがやられ、エルフの集落さえも見失ってしまったが、ここで目標さえも見失っていては本末転倒だ。

私がシュンを探している理由は当然【始末】しなくてはいけないからだが、マヨイが提示してきた条件を見るに、どうも始末だけで済みそうに無い。

始末だけで終わらせるには勿体なさすぎる案件だ。


━…━…━…━…━…

ヴィクセンの【死】の文字が着実に近づいてきている。

【ウッドソード】で生の文字を作り出そうと試行錯誤しているが、どう頑張っても作れそうにない。

さっきの奇跡が幻に思える程に...。

いくらなんでも強すぎる。
やはり人間の力では神に太刀打ちできないのだろうか?

奈恵は完全に魔力切れでダウンしている。
シュンヤも僕と同じ状態だ。
ライリーも【死】の文字を吸い込むのは出来ない様だった。

いや、吸い込むこと自体は可能なのだろうが、その文字を消化する事ができないのだろう。
なにせ【死】の文字だ。

それはライリーの直接的な【死】を表す。

グリシアがどんどん重力を上げてくる。

【ウッドソード】で猛反発しているが、グリシアも耐性を身につけたようで、どうやら重力操作で自身も重くしている様だった。

クソ、これだから神との頭脳戦は避けたかったのだ。
対策を練られてしまったらもはや勝ち目は消える。

もう筋肉がはち切れそうだ。

鋭い痛みが全身を走るのと同時に、体から【メシメシ】と聞こえてはいけない音が鳴り出す。

「アンタラはもう終わりさね、もう抵抗しないほうが楽さね...」

ヴィクセンの発したその言葉に違和感を感じた。
もう抵抗しないほうがいい...?

僕等が彼女の攻撃を受けることを【急かされている】ような言い方だ。

まさか死の文字の現出には制限時間があるのか?
そう考えるとグリシアの行動も理解出来る。

このタイミングで僕が【ウッドソード】を一気に解除すれば、僕もただではすまないが、グリシアにも大ダメージが行くだろう。

グリシアにかかる負荷が急に消えるのだから、ペシャンコとまで行かなくてもかなりのダメージが入るはずだ。

グリシアがそのリスクを犯してまで僕を抑えつけようとしている理由にも納得が行く。

「口には気を付ける事だな、案の定自分の弱点漏らしちまってるぜ」

この場に最高に適した捨て台詞が口から出た。
ヴィクセンの眉間のしわが濃くなった。

ビンゴか?

グリシアの重力が一気に上がった。

僕とシュンヤは地面に叩きつけられたが、2人とも【ウッドソード】を使いなんとか立ち上がった。

グリシアは吹っ飛ばされるのをなんとか踏ん張っていたが、正直こちらにも限界が来ている。

【ウッドソード】は同時に2つのモノを操作できない。

時間差さえあれば可能だが、グリシアの重力に関しては【常時発動】させっぱなしだからこそ、体の治癒に時間を裂けない。

プチッ...と言う無慈悲な音が空間に響く中、僕の足は遂に動かなくなった。
地面に膝が付き、猛烈な痛みとともに僕はその場に倒れた。

腕を使って起き上がろうとしたが、グリシアが腕を集中的に重くしたせいでそれも叶わなかった。

クソ...。

シュンヤも倒れた。

【死】の文字は無慈悲にも、僕等を殺さんと近づいてくる。

あぁ....マズイ。



突如空間に歪みが生まれ、その歪みからは【生】の文字が浮かび上がった。
僕が作ったのではない、かと言ってシュンヤが作った訳でもない。

しかし、その【生】の文字は、僕が奇跡で作り上げたそれより遥かに美しく、そして...。


遥かに恐ろしかった。





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