記憶共有的異世界物語
第54話:真の預言者
僕がこのエルフに対して感じているこの違和感の正体はなんなのだろうか。
手応えがないわけではない。
完全に触った感触もあるし、殴らられた時の痛みも本物だった。
しかし何故だろう。
このエルフが無性に【カラッポ】に見える。
実際にそこに存在しているのに、無性に空っぽに見える。
それこそ、彼そのものにノイズがかかったかのようにさえ見える。
【ウィルブック】
バリッシュさんがそう唱えるのと同時に、エルフの周りに文字の配列が浮かび上がった。
エルフの目に血が走り、もはや黒ずんでさえ見えた。
光る文字に包まれたエルフは苦しみ悶えていたが、今目の前で起こった現象に僕の思考は再び停止していた。
「バリッシュさん?」
「あぁ、お前達に見せたこと無かったな。これが俺等の能力だよ、【ウィルブック】。相手に自分の知識を具現化して植え付ける能力さ」
初めて見た。
バリッシュさんと馬場さんが戦うところもそうだが、これほどまでに【美しい】と思える能力を見たのは初めてだ。
バリッシュさんの【ウィルブック】はまさしく魅せる能力と言って差し支えないだろう。
その文字の一文字一文字が美しく輝き、敵を包み込む。
しかしその可輝きとは裏腹に、敵の命を刈り取る恐ろしさがそこにあった。
美しいものには棘があると言うが、この能力はまさしくそうだと言えよう。
つまり、バリッシュさんは、あのエルフ相手に、充血に関する医学知識を具現化させたのだ。
やろうと思えば相手を好きな病気にさせることもできよう。
本当に恐ろしい能力だ。
エルフはだんだん目が黒くなっていき、もはや視力は皆無に見えた。
そんな彼の目線は依然僕に固定されている。
バリッシュさんと馬場さんに興味が無いとでも言わんばかりにこちらを睨んでいる。
「いい加減喋ったらどうだ?」
「フフ...君の事だぁ...、もう気づいてるんだろ...?」
突然しゃべりだしたエルフの第一声は、ぼくの理解とはズレるモノだった。
気付いてる...違和感にだろうか?
ふとエルフに目を落とすとさっき右腕にかかっていたノイズが今度は全身に広がっていた。
「そもそもぉ...俺はぁ...ここに【存在していない】んだよねぇ....君達はずっと架空の存在に攻撃してたわけだねぇ...」
彼のそのねっとりと苛立たちを誘う喋り方に、なぜか僕の足は震えた。
気付くと彼のノイズは彼の姿を認識できなほどまでに濃くなっていた。
「どうせ俺とはまた会うことになるんだろうけどぉ...う~ん...」
そのノイズは何かを考えるような仕草を取った。
ノイズが仕草を取るなんて言う訳の分からない状態になっているが、ノイズが意思を持って動いているのは確かだ。
「まぁ丁度いい機会だぁ....俺の名前はね...【シュン】だよ」
「【万物を司る神】さ」
彼の説明と共に、彼をまとっていたノイズが軽減された。
ノイズが薄くなっていき、その場から彼はノイズと共に消えていった。
そのノイズの隙間から見えた顔に、既視感とこれ以上ない恐怖を覚えた。
夢だ。
いつか見たあの夢の人物と同じ顔で、それは...。
僕の顔だった。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「おい、生きてるか?」
冬弥の声が聞こえてハッとした。
周りにバリッシュさんと馬場さんは居なく、トウと冬弥がそこにいた。
「馬場さんは?」
「先に探索を続けてるってよ、しっかしお前しょっちゅう固まるよなぁ~」
固まる?
もしかして意識が飛んでたのか?
「あ、あぁ。もしかして僕気絶してた?」
「いや、ボーッとして動かなかった」
「あ、そう...」
完全に呆気に取られていた。
あのノイズの隙間から見えた顔。
どう見ても僕だった。
名前の語幹も僕と似ていた。
初めてシュンヤに出会った時に似た感覚。
その事を考え出すと足が再び震えだした。
「お、おいどうした」
「いや、何でもない」
僕は深いため息を付いて、心を落ち着かせた。
シュン...【万物を司る神】。
僕とそっくりの見た目。
存在を自在に操る...。
いや、まさかな。
探索を続けて、はや1日が過ぎようとしていた。
たった一日でいろんな事があった。
ミガレヤを倒したり、別の圧倒的存在に出会ったり...。
今日は本当に疲れた。
シュンヤと手分けして他のみんなに集合するように声をかけた。
【禁忌の書撲滅団】の本拠地に集合することにした。
シュンヤの記憶でいつも見ていたが、実際生で入ると圧巻される。
ステンドグラスから差し込む光がまた本当に美しい。
地球じゃお目にかかれないような程よい光加減が、この場所を幻想的に照らす。
「んで、馬場さん。どうしてシュンと戦うハメになってたの?」
「突然攻撃されたんだよ、遠方から」
馬場さんは負傷した足を見せてきた。
結構深々とした傷を負っていた。
ウッドソードで治したが、この旅が命懸けであることを再確認させられた。
「遠方から?よくシュンの居る方向が分かりましたね」
奈恵だった。
奈恵はライリーと一緒にいたおかげか怪我は少なく、しかしどこか浮かない顔をしていた。
シュン...。
その存在の事は一切分からない。
でも僕が、僕の本能が。
【最も警戒すべき害】だと...そう言っている。
手応えがないわけではない。
完全に触った感触もあるし、殴らられた時の痛みも本物だった。
しかし何故だろう。
このエルフが無性に【カラッポ】に見える。
実際にそこに存在しているのに、無性に空っぽに見える。
それこそ、彼そのものにノイズがかかったかのようにさえ見える。
【ウィルブック】
バリッシュさんがそう唱えるのと同時に、エルフの周りに文字の配列が浮かび上がった。
エルフの目に血が走り、もはや黒ずんでさえ見えた。
光る文字に包まれたエルフは苦しみ悶えていたが、今目の前で起こった現象に僕の思考は再び停止していた。
「バリッシュさん?」
「あぁ、お前達に見せたこと無かったな。これが俺等の能力だよ、【ウィルブック】。相手に自分の知識を具現化して植え付ける能力さ」
初めて見た。
バリッシュさんと馬場さんが戦うところもそうだが、これほどまでに【美しい】と思える能力を見たのは初めてだ。
バリッシュさんの【ウィルブック】はまさしく魅せる能力と言って差し支えないだろう。
その文字の一文字一文字が美しく輝き、敵を包み込む。
しかしその可輝きとは裏腹に、敵の命を刈り取る恐ろしさがそこにあった。
美しいものには棘があると言うが、この能力はまさしくそうだと言えよう。
つまり、バリッシュさんは、あのエルフ相手に、充血に関する医学知識を具現化させたのだ。
やろうと思えば相手を好きな病気にさせることもできよう。
本当に恐ろしい能力だ。
エルフはだんだん目が黒くなっていき、もはや視力は皆無に見えた。
そんな彼の目線は依然僕に固定されている。
バリッシュさんと馬場さんに興味が無いとでも言わんばかりにこちらを睨んでいる。
「いい加減喋ったらどうだ?」
「フフ...君の事だぁ...、もう気づいてるんだろ...?」
突然しゃべりだしたエルフの第一声は、ぼくの理解とはズレるモノだった。
気付いてる...違和感にだろうか?
ふとエルフに目を落とすとさっき右腕にかかっていたノイズが今度は全身に広がっていた。
「そもそもぉ...俺はぁ...ここに【存在していない】んだよねぇ....君達はずっと架空の存在に攻撃してたわけだねぇ...」
彼のそのねっとりと苛立たちを誘う喋り方に、なぜか僕の足は震えた。
気付くと彼のノイズは彼の姿を認識できなほどまでに濃くなっていた。
「どうせ俺とはまた会うことになるんだろうけどぉ...う~ん...」
そのノイズは何かを考えるような仕草を取った。
ノイズが仕草を取るなんて言う訳の分からない状態になっているが、ノイズが意思を持って動いているのは確かだ。
「まぁ丁度いい機会だぁ....俺の名前はね...【シュン】だよ」
「【万物を司る神】さ」
彼の説明と共に、彼をまとっていたノイズが軽減された。
ノイズが薄くなっていき、その場から彼はノイズと共に消えていった。
そのノイズの隙間から見えた顔に、既視感とこれ以上ない恐怖を覚えた。
夢だ。
いつか見たあの夢の人物と同じ顔で、それは...。
僕の顔だった。
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「おい、生きてるか?」
冬弥の声が聞こえてハッとした。
周りにバリッシュさんと馬場さんは居なく、トウと冬弥がそこにいた。
「馬場さんは?」
「先に探索を続けてるってよ、しっかしお前しょっちゅう固まるよなぁ~」
固まる?
もしかして意識が飛んでたのか?
「あ、あぁ。もしかして僕気絶してた?」
「いや、ボーッとして動かなかった」
「あ、そう...」
完全に呆気に取られていた。
あのノイズの隙間から見えた顔。
どう見ても僕だった。
名前の語幹も僕と似ていた。
初めてシュンヤに出会った時に似た感覚。
その事を考え出すと足が再び震えだした。
「お、おいどうした」
「いや、何でもない」
僕は深いため息を付いて、心を落ち着かせた。
シュン...【万物を司る神】。
僕とそっくりの見た目。
存在を自在に操る...。
いや、まさかな。
探索を続けて、はや1日が過ぎようとしていた。
たった一日でいろんな事があった。
ミガレヤを倒したり、別の圧倒的存在に出会ったり...。
今日は本当に疲れた。
シュンヤと手分けして他のみんなに集合するように声をかけた。
【禁忌の書撲滅団】の本拠地に集合することにした。
シュンヤの記憶でいつも見ていたが、実際生で入ると圧巻される。
ステンドグラスから差し込む光がまた本当に美しい。
地球じゃお目にかかれないような程よい光加減が、この場所を幻想的に照らす。
「んで、馬場さん。どうしてシュンと戦うハメになってたの?」
「突然攻撃されたんだよ、遠方から」
馬場さんは負傷した足を見せてきた。
結構深々とした傷を負っていた。
ウッドソードで治したが、この旅が命懸けであることを再確認させられた。
「遠方から?よくシュンの居る方向が分かりましたね」
奈恵だった。
奈恵はライリーと一緒にいたおかげか怪我は少なく、しかしどこか浮かない顔をしていた。
シュン...。
その存在の事は一切分からない。
でも僕が、僕の本能が。
【最も警戒すべき害】だと...そう言っている。
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