記憶共有的異世界物語

さも_samo

第52話:感情の最期

俊介が足場を崩し、その一瞬姿が2重にブレて見えた。

数秒の間ライリーの吸い込みに耐えていたのだが無理だと判断したらしく、ライリーの口に自分から飛び込んでいった。

飲まれる直前、俊介は拳を構え勢いで攻撃しようとしていた。
しかしライリーは飲み込もうとはせず、途中で吸い込みをやめ俊介を迎え撃った。
勢いで加速していた俊介はライリーの攻撃をモロに喰らい、後ろにすっ飛んだ。

ムクリと起き上がり、狂気的に笑う俊介を見て無性に恐怖を感じた。
そんな俊介にコツン...コツン...と足音を立てて忍び寄る人影がひとつ。

その人影は女性の形をしており、俊介の頬をそっと撫で顔面を近づけている。
俊介の肩にスッと手を置き、くつろぐ姿勢を取りながらこちらをニヤニヤと見て来た。

「私はミガレヤ・ヴァレン。【感情を司る神】。ここまで言えば私が何をしたかは分かるわね?ライリー」

彼女の背筋に直接来るような喋り方を聞いて、私はライリーの方を見た。

ライリーの表情は憎しみに歪み、全てを破壊せんと言わんばかりの眼光を散らばせている。
目の鋭さがギラギラ上がり、眉間にはシワがより、その表情からは【殺気】以外何も感じなかった。

ミガレヤ・ヴァレン...名前からしてヴァレン家の人間なのだろうけど、彼女は一体何をしたっていうのだろうか?

「一応警告するわ、俊介の【感情侵食】を今すぐやめなさい」

「断る...と言ったら?」

「殺す」

そう言ってライリーは地面を強く蹴り、空高く跳ね上がる。

さっきまでの立ち振舞いからは考えられない身体能力。

腹の中に入ってるものが出るだけでこれほどまで能力差が生まれるのかと困惑するのと同時に、吐き出した後の能力で彼女に勝てるのかという予想と感情の闘争が起こる。

空高く跳ね上がった彼女は地面の一部を吸い込み、口に含んだ。
口の中が4次元になってるんじゃなかと思える量を吸い込んでいたのだが、彼女がいたって真面目であることを私は知っている。

ライリーは口から刃物の様なモノを取り出した。
恐らく口の中で加工したのだろう。

私の近くにライリーがゆっくりと後ずさりで来た。

「彼女はミガレヤ・ヴァレン。俊介は彼女に【感情侵食】されてるの。純也の憑依とかと違って、俊介の【意思】の方を操作するから、私の吸い込みは使えない。だからこそ倒すには俊介を殺すしかないんだけど、どうしたもんかしらね」

殺すしかない?待って待って。ここで俊介に死なれたら元も子もないと言うのに...。

「本体を倒すのは?」

「簡単に言わないで」

でしょうね。

「私を倒しても意味はないと思うよ?だって次の侵食は貴方ですもの....」

そう言ってミガレヤは気色悪い笑みを見せた。
その立ち振る舞いには歪んだ性癖を持つ精神異常者の様なオーラが漂っており、私はその眼光に固まってしまった。

「あらら、聞こえてたの?貴方耳はいいのね」

ライリーの煽りをしっかりとガン無視したミガレヤは右手を前に出し、その合図に合わせて俊介がこちらに走ってきた。

【ウッドソード】

俊介の手には短剣の様なモノが握られた。
素材は同じ地面。
強度はライリーと俊介同じなのだろうが、単純な剣術的な問題のハンディキャップがライリーには存在する...一体どう戦うつもりなのだろうか?

などと考えていたがそれは杞憂だった。

次の瞬間、ライリーは吸い込みを行い、俊介の体勢を崩させた。
ライリーはグサリと深い一撃を俊介に加え、俊介はその場に倒れ込んだ。

「何やってるのライリー!」

私は走って俊介の元に行こうとしたが、ライリーに手で止められた。
もはや彼女が何を考えてるのかが分からない。

俊介は地面を這ってライリーの命を取ろうとしていた。
その様は本当に無様で、目も当てられなかった。

しかしライリーは無慈悲にもそんな俊介の四肢を短剣で切断した。

「あああああああああああああああああああああ」

悲痛なまでの叫び...嗚咽...そんな耳障りな音を聞かされ、しかし一撃で殺さないライリーの狂気具合に、私は気が狂いそうになった。

俊介はピク...ピク...と動いてはいるものの、這ったりなどの動作はしなくなった。
死ぬのも時間の問題だろう。

「なーんだ。使えないの。これがミレイのイチオシなの?くだらないなー」

ミガレヤのその言動には感情なんてものは感じられず、そこにあったのは気色悪いまでの無慈悲さだった。

少なくとも人間に出来る事ではない。

気付くとミガレヤは私の背後にいた。
狂気じみた笑みを見せている彼女に、私は思わず固まってしまった。

彼女は私の顔の近くに手のひらをかざしてきた。

「これが私の能力...【オ」

【ウッドソード!】

ここら一体に広がるような叫びが聞こえるのと同時に、私と彼女の間に大きな壁が出来た。

「僕が油断したのも悪かったが、もうちょい優しく出来なかったの?マジで痛かったんだけど」

俊介はそう言いながらむくりと起き上がった。
切断された四肢は復活しており、機能面で問題はなさそうだった。

ミガレヤが驚いてるのが壁越しに分かった。
後ろに後ずさりしたのだ。

「逃がすかよ」

【ステンエギジス】

「ぎゃあああああああああああああああ」

ミガレヤの叫び声が聞こえた。
壁の横から血溜まりが見える。

もう訳がわからない。

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