記憶共有的異世界物語

さも_samo

第44話:絶対的な成長

冬弥の家に来たのだが、インターフォンを何度鳴らしても出てこない。
家にいないのだろうか?

トウが掴んだ情報を聞き出す為には冬弥に会う必要があるのだが、場所が分からないとなると話は別だ。

奈恵にお願いして呼び寄せてもらうか?
奈恵のテレポート魔法は自分以外の人間に対しても使えるだろうか?

あんにゃろ...電話にも出ねぇ。

何かあったのではないかと不安になってきた。
エルフのあの一件が起こった後だ、実はもう2,3匹こっちの世界に連れてきてました~なんてもの考えられる。

いや、それは考え過ぎか?
だとしたら真っ先に僕を狙いに来たっておかしくない。


さっきから妙だ。
今が夜中だからというのもあるだろうが、車がちっとも通らない。
気持ち悪いほどに辺りが静かだ。

一旦家に帰ろう。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

「ただいま」

....

誰もいない。
シュンヤの記憶では確かにシュンヤはこの部屋に居るはずなのだが、シュンヤはこの部屋に居ない。

向こうも異変に気づいてくれたようで、僕の目の前まで来ている。
でもそこにシュンヤは居ない。

僕だけ違う【どこか】に飛ばされた?
誰に?

訳のわからない状態に置かれた時に、一番大事なのは【混乱しないこと】な訳だが、正直無茶言うなって感じだ。
困惑からくるこの微妙な感情に慣れるはずもない。

冬弥と会えなかった理由は単純だった。
冬弥が居ないのではなく、僕【だけ】がいなくなっていたんだ。

僕だけが別の世界の様なものに飛ばされている。
だからこそここで誰を探そうと見つからないわけだが。

【ステンエギジス】

僕の存在を一度消して僕をシュンヤの所に【再出現】させる。
【記憶共有現象】が起こってるからこそできる芸当なわけだが、純也との結びつきが強くなるから出来ることなら使用は控えたかった。

....?

移動しない。
僕自身を消せない。

【ウッドソード】

....。

近くにあったソファーにウッドソードを使ってみたが、能力の影響は起こらなかった。
能力全般が【封じ】られてる。

これって純粋にまずいんじゃないか?
ステンエギジスで元の世界に帰ることもできない。
ウッドソードを使って空間をこじ開けるような【異物】を作ることもできない。

この世界じゃ僕は非力な人間だ。
一体どうしたら....。

「どう?あたいの世界は」

後ろから声が聞こえた。
僕は反射的に振り向いたが、そこには誰も居なかった。

「こっちだよ」

顔の位置を元に戻すと、そこには見知らぬ女の子が立っていた。
女の子。そう表現するのが適切だろう。
小学校低学年ぐらいの背丈の女の子。

「君は?」

「あたい?あたいはねぇ....【空間を司る神】。グリシア・ヴァレン」

空間を司る神?
一体何人神が出てくれば気が済むんだよ。
もう神のインフレが起こってるせいで、なんというか神と出会うありがたみというか、そういった類のものが一切感じられなくなってきている。

ヴァレン...今回はノルヴァ一家じゃないみたいだが...。

「子供の神もいるんだな」

「まぁ貴方よりは年上だけどね」

彼女の発言に一瞬思考が止まった。

「え?」

「え?じゃないわよ。あたいはこう見えて20は超えてるの。貴方達人間と違って神は成長が遅いのよ」

じゃぁミレイ・ノルヴァはいくつなんだ...と内心失礼な事を考えていたのだが、それよりこの見た目で20はビビった。
どう見たって小学校低学年だ。

『わたち6ちゃい』とか言っていてもなんら違和感無い見た目をしているのに20?
いくら神の成長が遅いといってもこれは極端なのでは?等色々思考を巡らせていたが、神の常識を人間が理解できるはずもなく、諦めた。

「で?その空間を司る女神様が僕になんの用ですか?」

もう神に会った時の挨拶のようになってしまっているこの言葉も、なんというか重みが変わってきている。

もう色々台無しだ。

「貴方、エルフを潰すのよね?種族をひとつ滅ぼすのよね?」

神に対してこの表現を使うのは間違ってるのだろうが、一体どこからそんな情報が漏れたのだろうか?
僕等の作戦とかってのは全部向こうにリークでもされているのか?

「そうだけど...」

「なら敵ね。今回はその確認がしたかっただけ」

「え?」

彼女の突拍子のない発言に再び思考がフリーズしかけた。
熟神と言うのは僕の思考フリーズさせてくる。

「ヴァレン家は代々ノルヴァ家と闘争状態なのよ、ただおじいの代辺りからちょっと方向性がズレちゃって、ノルヴァ家のやることなす事全てを否定して止めさせようとする...なんて謎の風潮が出来ちゃったの」

その口調からは見た目から感じる幼さを一切感じさせず、この娘が本当に20前後なんだろうなという事を感じた。

同時に、今物凄く重要な事を告白されている様な気がして、謎の緊迫感が僕を包んだ。

「まぁ...あたいはそんなのどうでもいいと思ってるんだけどね、ただ家が総力を上げてノルヴァ家を攻撃するものだから...ま、そんなわけ」

そう言ってグリシアと名乗った女神は狂気じみた笑みを見せた。

「ミレイ・ノルヴァが貴方にアドバイスを始めた時点で貴方は敵のようなものだったんだけど、これで確定したわ。貴方はエルフを【潰す側】...つまり」


「敵よ!」


急に空間が揺れ出し、この部屋に地震が起こった。
部屋にあったありとあらゆる家具が僕に向かって飛んできた。

【ステンエギジス】

とっさの出来事だった。
無意識がやった。
反射的にやってしまった。
僕じゃない【誰か】が、スイッチを押したかのように能力を使った。

部屋の家具は空間の歪みへと消え、地震が起こっていた部屋に静寂が訪れた。

ステンエギジスでこんな大量のモノを消したら...。


まぁいいか。


「それって純也の...貴方どこでそれを?」




「どこでも何も、俺が純也さ」

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