記憶共有的異世界物語

さも_samo

第42話:異世界からの旅行者

運命の操作。ミレイ・ノルヴァなら可能だろうか?
まぁ可能だろう。宿命までは弄れなくとも、運命程度なら彼女の力でどうとでもなる。
じゃぁそれをする意味は?

考えられない。
いや、運命を弄られているという考え方自体が間違いなのだろう。
僕は【進んでいる】だけだ。
時の流れに沿って着実に、確実にハッキリと進んでる。

ならば、だ。
ならばこそこの流れで解決したい問題が一つだけある。
馬場さんの問題だ。

彼の左目を消してからBar.レインウォーターに行けていない。
行きづらかったのだ。
馬場さんがどうなってるかすら分からない。

...まて。
とんでもないことを思い出した。

不思議なことが連鎖しすぎて完全に忘れていた。
馬場さんも【記憶共有現象】を体験している。
バリッシュさんと記憶の共有をしているのだ。

完全に思い出した。
奈恵が来て話が途中で止まって、その後にミレイ・ノルヴァが来た。
圧倒的な緊迫感と、叩きつけられた絶望感で僕は倒れたんだった。
そして目が覚めて再び馬場さんの店に行けば今度は純也がやらかしてくれた。

そんな事が【連鎖】したおかげで完全に忘れていた。

馬場さんの記憶共有相手はバリッシュさんだ。

彼とは一度しか会ったことが無いが、しかしバーミアの人間とコミュニケーションを取ることはこの上なく重要だ。
その数は多いほうがいい。

しかし馬場さんの左目の件があるせいで、僕のあまり人を巻き込みたくないと言う思いが強くなっているのも事実だ。

このまま人を巻き込みまくって大丈夫なのだろうか?
否。いい訳がない。

しかし馬場さんは僕らと同じ【エルフの被害者】だ。
放置すると言う訳にもいかない。

畜生。

もう自分を信じることにしよう。
【流れ】に【乗る】事の出来ている自分を信じることにしよう。
何人巻き込もうとその全てを【流れ】に【乗せる】事のできる男になってやる。



これからについて話した後、そのままお開きにした。
中でも一番話したのは【エルフの集落にみんなで殴り込む計画】についてだ。
ミレイ・ノルヴァの鍵を使い、過去の世界に行く。
そうすればシュンヤはまだバーミアにいる訳で、そうなった状態で僕の記憶が過去の僕等と【共有】されたなら、僕等は【ステンエギジス】を使って再びバーミアに行ける。

もっともそれをやると純也との結びつきが強くなるからあまりやりたくはないのだが、こうなってしまったなら仕方がない。
それがエルフ潰しの大きな一歩となるならむしろウェルカムだ。

そしてバーミアに着いた後再び未来、つまり【現在】に帰ってきて、トウに調べてもらった情報を聞き作戦を立てる。

これでいよいよ【エルフ潰し】が現実味を帯びてきた。
目的はあくまで【禁忌の書】を消し去る事だが、エルフにナエラを殺された。
仇討ちをしても何の問題もあるまい。

一番素晴らしいのは【エルフとの和解】な訳だが、それは出来そうにない。
と言うかそれが出来たら苦労しない。
僕の予想が正しければ、僕等がエルフの集落に足を踏み入れた時点で、彼等は僕等に総攻撃を仕掛けてくる。

エルフの種族を、エルフの核となっている集落を潰さないと、また再び禁忌の書の様な事件が起こるかもしれない。

だから潰す。

理由としては十分だろう。

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カランコロン

至福の鐘の音が鳴る。
バー全体に鐘の音が響き渡り、馬場さんが僕に気付いた。

「俊介!」

馬場さんの髪が伸びており、左目を髪の毛が隠していた。

「馬場さんその左目...」

「あぁこれか?これについてお前に聞こうと思ってたことが山ほどあるんだ。本当によく来てくれた」

馬場さんに敵対するような感覚は無かった。
単純に聞きたいことを聞ける喜びを感じているように見えた。

「じゃぁ馬場さんいつもの頼む」

「オーケー、いつものね」

そう言ってオープンキッチンに向かう馬場さんを見て、僕は【あること】を思いついた。
馬場さんの左目を治す方法だ。

カツン...。

机の上に置かれたグラスには神々しく光る【ウィッチズラニーノーズ】が置かれていた。
炭酸の泡がはじけるのと同時に水面にできる波紋が共鳴し合い、まるで何かがグラスの中で【合唱】しているように見えた。

「馬場さん、ちょっと痛いけど我慢してくれ」

「え?」

【ステンエギジス】

馬場さんの左目の存在を【戻した】。
馬場さんは痛みに対する嗚咽を漏らしていたが、その嗚咽もすぐに止んだ。

【ウッドソード】

純也が切った左目の部分をシュンヤのウッドソードで治した。
しかしまぁシュンヤは本当に便利な技を見つけてくれた。

「めっちゃ痛かったんだけど!!?」

馬場さんの困惑した表情が僕をまじまじと見つめた。
ちょっとした罪悪感のようなものを感じたが、とりあえず馬場さんの左目が治ったことに安心を覚えた。

「ごめん馬場さん、まぁ左目が使えないよりはいいでしょ?」

「まぁそうなんだが...」

そう言って馬場さんは僕の向かい席に座った。

「バリッシュとコンタクトを取ってみたんだ、彼はお前の事を【異世界からの旅行者】と言っていた」

馬場さんは真剣な顔になって話し始めた。





「なぁ、お前って一体何者なんだ?」

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