記憶共有的異世界物語

さも_samo

第30話:禁忌の書と女神

ステンエギジスを使ってバーミアの世界にアクセスする事は出来ない。
シュンヤを保護する必要こそあったが、それはエルフに読まれていた事だ。
現にそれのせいで苦労している訳だが、シュンヤをバーミアに送り返してナエラの助太刀を...みたいな事は出来ない訳だ。

しかし...



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困ったことになった....。
シュンヤが活動に戻ってきてくれると思って見切り発車でチュラル村にまで来たけど、計画とか何も考えずに来てしまった。

で、現にこうして囲まれちゃってる訳だけど...。

「ねぇ?通してくれない?私の目的は知ってるんでしょう?」

「我々が君を通さない事だって知っているだろうに、最も通さないだけで済んだらいいがな」

自分の無鉄砲さに嫌気がさす。
最も私がこうなったもの言ってしまえばシュンヤのせいな訳なんだけど...。

「そう、ならしょうがないわね」

右足に重心を傾ける。
そのタイミングで首を左にズラす。
こうすれば攻撃がどちらから仕掛けられるか分からなくなる。
たったこれだけで、大抵の動物は騙せる。

踏み込みを入れていた右足を曲げて上に飛ぶ。
エルフは皆手のひらをこちらに向けて魔法詠唱をしているが、私だって魔法使いだ。

木がモーションブラーの様に残像を残しながら揺れている。
エルフの動きがスローに見えて身構えたが、その身構える自分自身もスローに感じた。
言葉で表現できない恐怖心があったのだが、それ以上に気味悪かったのはこの場の雰囲気だ。

地面に魔法陣が形成されていき、鉄格子が空中に高速で伸び始めた。
スローモーションの空間に物凄い速度で動く物体がある、ほんっとに迷惑な話だ。

鉄格子はあっという間に檻を作り上げ、私は閉じ込められた。

「スローエフェクト。あたり一面の体感時間を極端に遅くする魔法だ。当然我々の体感時間も遅くなるのだが、その分普通の速度で物を動かせば光よりも早く動かすことだって可能っていう魔法....いや、お前さんはこの魔法になんの興味もないんだろうな、君の興味はこれにもってかれっぱなしなんだろ?」

そう言って老いたエルフは一冊の本を手にとった。
大辞林の様に厚く重そうな見た目をしていたが、老いたエルフはそれを軽々と持ち上げていた。

「もっと言えば君の見たいページはここだろう?」

そう言って老いたエルフはそのページをこちらに向けてきた。

「貴方もアホね、誘導するならもっと分かりにくくしないと....」

咄嗟とっさに目を閉じれた事に感謝しましょう。気づくのが後数秒遅れていたら死んでいた。

煽ってきてるのかと思ったが、さっきの禁忌の書は偽物だ。
僅かとは言え魔力を感じた。
老いたエルフが軽々と持っていたので筋力増加魔法か何かと思っていたが、その魔法がまさか本そのものにかかっているとは思っていなかった。

自分の幸運に感謝しよう。

「ホラ、相手を侮るからそうなるんだぜ爺さん。相手はこれでもあの【禁忌の書撲滅団】だぜ?もうちょい直接的にやるべきなんだよ」

そう言って一人の若いエルフが出てきた。

エルフが鉄格子を撫でると、硬そうに見えた鉄棒がぐにゃりと曲がり、鋭利な部分が私に近づいてきた。

「これでお前さんの首を掻っ切る事だって簡単なんだがなぁ....お前って確か奈恵だったっけ?と繋がってんだろ?じゃぁお前に拷問すればその奈恵ってやつも同じ体験を【追体験】する訳だ」

好青年の様に見えるエルフの目は完全に逝っていた。エルフに人道を求めるのはどうかと思うが、少なくとも彼にそのような概念が存在するとは到底思えなかった。
彼は口の周りをペロリと舌で舐めた。

その様子に気味悪さを感じて思わず一歩後ろに下がってしまった。

冷静になると今のこの状況は非常にまずい。
魔法で曲げることのできる鉄格子のようだったが、私の魔力で曲げられるとは到底思えない。
完全に閉じ込められたこの密閉空間でどうやって戦えばいいのだろう。
戦うことは疎か、逃げることすら出来ない。

一体どうしたら...。

【ロストブランク】

あたり一面に知らない声が響いた。
鉄格子が砂とも分からぬ塵と化して空中に散乱した。

「当たり前の様に瀕死の状態まで追い込まれるのやめてもらえないかしら?こっちの作業がまともに出来ないんだけど」

奈恵の記憶で見たことがある....銀髪、濃いピンクの瞳、無造作ロブ。【ミレイ・ノルヴァ】

時と運命を司る女神がなんでこんなところに等様々な疑問が浮かぶが、今はそれどころじゃないことぐらい知っている。

「あ、ありがとう...ございます?」

ミレイ・ノルヴァはゆっくりと息を吐き、そして偽物の禁忌の書をじっと見つめた。
気付くとミレイ・ノルヴァはその場から消えており、老いたエルフの首元に指を押し付けていた。

「どう?貴方たちの調べた世界に私はいた?」

「お前...何者だ?」

「あぁ、ごめん。自己紹介が遅れたね...私はミレイ・ノルヴァ【時と運命を司る女神】」

「女神...?」

「えぇ」

そう言った瞬間。老いたエルフの首が空中に吹っ飛んだ。
大量の血が噴き出す中、ミレイ・ノルヴァは偽物の禁忌の書を手にとった。
血まみれの彼女を見て私は、何故か【かっこいい】と思った。

エルフが一斉にミレイ・ノルヴァに手を向けて、魔法詠唱を始めた。

【ロストブランク】

彼女がそう唱えるのと同時に、エルフ達の手は砂とも分からぬ塵と化して消えた。

「このクソアマァーッ!」

若い好青年のエルフがミレイ・ノルヴァに向かって突進していった。
しかし彼女はそれをひらりと躱し、彼の首を手刀で飛ばした。

「無益な殺生ってほんっと最悪だよね、でも私がする殺生って本当に無益かしらね?」

こちらに振り向いてそう言う彼女の口は、狂気的なまでにニッコリとしていた。

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