記憶共有的異世界物語

さも_samo

第20話:気色悪いカード

シュンヤがチュラル村に行ったのは分かった、しかし記憶が途絶えたってのはこれが初めてだ。
一体シュンヤはエルフに何をされたんだ?

「なぁ奈恵、今シュンヤがどこにいるかって質問だが、答えを出せそうにない。記憶が完全に【途絶え】ている。こんなの初めてだ」

頭をどれほど悩ませても、どれほど思い出そうとしても、シュンヤがチュラル村でエルフとコンタクトをとった時以降の記憶が無い。

ミレイ・ノルヴァとの一件を知っているって事は、アイツがチュラル村に行ったのはあの件より後ってことのはずだ。

「チュラル村の周辺にはいると思うんだが....待て、エルフの魔法ってテレポートとかあったりするのか?」

「えぇ」

僕の質問に奈恵が即答したのだが、正直その即答にちょっとした絶望を感じた。
相手は高度な魔法技術を持っている。
神隠し、転移、時間停止、こっちの世界で超常現象って呼ばれてるありとあらゆる現象はエルフにとっては極当たり前のことだ。

くそったれ、随分面倒な相手に絡まれたもんだ。
しかし彼の記憶の中に一つ引っかかるものがあった。

【ルール破り】の件だ。

シュンヤこそ自覚していなかったが、彼はエルフの禁忌の書に載っていない行動をとったようだった。
それはミレイ・ノルヴァが仕組んだことなのか、また別の力が僕等にかかっていたのかは不明だが、今重要なのは彼が【ルールを破った】ってことだ。

エルフの言うルール破りってのが禁忌の書に載っていない行動をとった事だというのなら、禁忌の書に書かれている運命は宿命でもなんでもなく、ただ単にエルフが妄想で作ったリアルすぎる小説って事になる。

となると、ミレイ・ノルヴァが伝えに来た【失敗に終わる】って言う追加項目は確定事項ではないってことだ。

ここまで考えてやっと色々落ち着いた訳だが、落ち着いてふと思った。

「なぁ、聞きそびれてたんだが、あの後馬場さんはどうなったんだ?」

奈恵は必死こいてナエラとコンタクトを取ろうとしてたが、ふとこちらを振り向いて、ちょっと意外そうな顔をした。

「馬場さんって誰?」


「...え?」

「いや、馬場さんだよ、あのいつも行ってるバーの店主の!」

理解できない。

バーで奈恵とミレイ・ノルヴァと馬場さんの3人は話していたはずだ。

「いや、ほら、バーの店主の...いや、待て。ミレイ・ノルヴァと最初に会ったのってどこだ?」

「また?だからその女の事は忘れ」

「重要なんだ、答えてくれ。最初に会った場所を覚えているのか?」

奈恵の顔には嫌悪の感情が浮かんでいたが、ゆっくりと目を閉じ思い出す仕草をとった。
しかし段々眉間に皺がよりはじめ、頭を俯かせた。

「サッパリ思い出せない。いや、ミレイ・ノルヴァの存在自体はハッキリ覚えているの。しっかり対面して会ったことも覚えている。貴方が気絶した後スッと消えた事もハッキリ覚えている。でもその場所が思い出せない」

奈恵はブツブツとそう言い始め、理解不能の現象に目を丸くしていた。
そりゃそうだ。正直な話、奈恵の記憶が部分的に消えているという非現実的な状況に僕自身目を丸くしている。

「私の記憶の件に、その馬場さんって人が関わってるの?」

否定も出来ないし肯定もできない。
奈恵が馬場さんの事を忘れている...のではなく、ミレイ・ノルヴァ以外のあの状況の全てを忘れているとしたら....いや、それは違う。彼女は僕の事をしっかり覚えていた。

じゃぁ一体何が?

「いや、正直なんとも言えない、とにかくシュンヤとコンタクトをとってみないことには何も解決できないような気がする」

「そうね、ナエラも必死こいてシュンヤを探している。とりあえずチュラル村に行ったことは伝えたわ」

シュンヤがエルフに何をされたのか、ルール破りはとはなんなのか。気になり出すとほかのことに手がつかなくレベルで進まなくなる。

「ちょっと出かけてくる」

そう言って、家を出た。
行き先は決まっている。

僕はとにかく安心したかった。

奈恵は全く気にしていないようだったが、正直シュンヤの一件と同等...いや、それ以上の問題が起こっている。

ネオンの看板。
綺麗なレンガ造りの隠れ家的なバー。
ここが存在していることに対して物凄い安心を感じたのだが、重要なのはここからだ。

カラン...コロン....

至福を感じる鐘の音が鳴る。
懐かしい感覚と、コーヒーを思わせる落ち着いた匂いを漂わせている。

「やぁいらっしゃい」

その声を聞いてものすごく安心した。
奈恵の記憶から抹消されていた馬場さん、その存在自体がしっかり存在している事に安心....。

「来てくれると信じていたよ、俊介。というか知っていたよ俊介」

声が違う。
完全に思い込んでしまった。

違う。容姿が違う。立ち振る舞いが違う。
オーラも、眼光も。何もかもが違う。

「あらら、固まっちゃった?」

カツン...カツン...と靴の音を立てながら、その男は近づいてきた。

動けなかった。
生まれて初めて威圧で固まった。
恐怖で固まった。

【未知】に対する恐怖がここまでのモノとは思ってもいなかった。

「君が探している人物はコレ...だろ?」

そう言って男は一枚のカードを取り出した。
ポーカーサイズのこのカードには馬場さんの様なデザインがされていた。
服、靴、顔。全てがカードに詰め込まれているイメージだった。
人をカードに閉じ込める...気色悪いにも程がある能力だ。

「あらら、声も出ないのか....コレを破ったら叫び声ぐらいは上げてくれるのかな?」

そう言ってその男はカードに手をかけ、今にも破ろうとしてた。

男は冷たい目で僕を見つめ、僕が固まってノーリアクションなのを見ると落ち込んだような仕草を見せた。

「冗談だよ、最も【今は】だけどね」


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