記憶共有的異世界物語
第11話:恐ろしい可能性
まいった、このタイミングで憑依が来るのか...。
シュンヤが奈恵に憑依の事を教えていないといいんだが。
まぁ憑依中は地球に対して一切の干渉が出来ない。
僕は僕でこっちの事を考えるとしよう。
シュンヤの記憶があるとは言え、僕はこの土地をこの足で歩いたことがない。
そして流石ニートと言うべきか、シュンヤにはここら周辺以外の土地勘が全く無い。
少しでも遠出すればすぐに帰れなくなるだろう。
今すぐエルフを探しに行く...といった訳でもないんだ、気楽に散歩してみるのも悪くない。
家、といっても撲滅団の基地なのだが、基地から外に足を踏み出しただけで本当に地球と世界観が変わる。
空の色が青でも黒でもない。
紅色と表現するのが一番なのだろうが、正直違和感で頭痛が起きそうだ。
しかし、木や石。土と言った基本概念は地球と同じようで、そこの違和感が無い事だけが唯一の救いだ。
思ったんだが、バーミアにはスマホや携帯と言った電子機器はないのだろうか?
シュンヤが連絡石と呼んでいたあの石は、その物質と魔法を合わせる事で音声を飛ばす仕組みらしいが、僕は魔法なんて使えない。
魔法を使えないのがこれほどに致命的とは思わなかった。
地図も、コンパスも、時計まで魔法で補っているのだ。
悔しいことに魔法を使った技術の方が圧倒的に高度なことが出来る。
ホログラム技術も地球より圧倒的に高度なことができる。
移動に関してはテレポート技術が確立されている。
そりゃ人の人生を決め付けるぐらいのこと容易にできるな...と内心思った。
しばらく歩いていると、一つの飲み屋を見かけた。
まるでここに吸い寄せられるかのように一直線で来てしまったのだが、この店にものすごい既視感を感じる。
シュンヤの記憶にこの店はなく。
その既視感の正体に頭を悩ませていると、看板を見つけた。
その看板にはバーミア版日本語で【Bar.雨水】と書いてあり、既視感の正体に気付いた。
この店の感覚といい、この看板といい、どう考えても【Bar.レインウォーター】だ。
ふと頭の中に一つの恐ろしい仮設が浮かんだ。
この店のマスターについてだ。
いや、考え過ぎかもしれない。
カランコロン....
心地の良いベルが鳴り、僕は店の中に入った。
中は綺麗に整頓されており、ランプの光がいい味を出している。
オープンキッチンのお洒落なお店...。
そう、そのオープンキッチンに立っている人間が問題だ。
「やぁ、いらっしゃい」
アットホームに話しかけてきたのは老人だった。
白髪のウルフカット。
白黒のピシッとしまったシャツ。
清潔感の漂う老人。
どう見たって馬場さんだった。
しかし細かいところを見ていけば別人だというのはわかるのだが、その雰囲気は完全に馬場さんだ。
「ど、どうも」
ちょっと動揺しながらも僕は席に座り、一通りメニューを見た。
どうしたことか、メニュー名にものすごい既視感がある。
一番驚いたのが【魔女の鼻水】ってドリンクだ。
食欲をマッハで殺すドリンク名だが、なにが問題ってその名前だ。
馬場さんの所で僕がいっつも飲ませてもらってる【ウィッチズラニーノーズ】の直訳じゃないか。
「マスター、【魔女の鼻水】って奴もらえる?」
「魔女の鼻水ね、少々お待ちを」
そう言って、カン、カランとグラスのぶつかる美しい音を響かせながら、マスターはドリンクを注いだ。
コツン...と机に置かれたそのドリンクは神々しい黄色の光を放っており、炭酸特有の泡が美しさを際立てている。
どう見たってエナジードリンクだ。見た目も【ウィッチズラニーノーズ】と同じだ。
「マスター、貴方の名前を教えて貰えませんか?」
「俺かい?俺はバリッシュ、バリッシュ・ラロイ。この街で一番のバーマスターをやってる」
自分で一番とか言っちゃうのかと思ったが、それよりも名前の語感がやはり馬場さんと似ていた。
もしかして、と思っていたがもしかしたら本当に....。
「で、君は?」
「え、あ、あぁ。俊介って言います」
「俊介?随分珍しい名前しているね。外国人?」
あ、そうか。バーミアの世界じゃ日本の名前は違和感があるのか。
「異世界人です」
「そうか、そりゃ大変だな」
あっさり受け入れられた。
冗談半分で言ったつもりだったんだが、向こうにあっさり認識された。
やはり地球とバーミアでは勝手が違う。
バーミアに異世界人がいることは何も不思議な事じゃないのだろう。
「ン?てことは観光かい?」
「いえ、旅しているんです」
バリッシュと名乗るその老人の声は馬場さんより少し低かったが、やはり似ている声色をしていた。
「旅かぁ。時間の無い中大変だねぇ...召喚者はやっぱりエルフかい?」
「え?」
「え?」
話が噛み合わなかった。
召喚者?エルフ?
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
気付くと僕の部屋に戻っていた。
僕が憑依している間、シュンヤは一歩も動かなかった様だが...。
奈恵が寝ている。
座ったまま。
机に手を乗せて。
その無防備な姿に一瞬目を疑ったが、目の前で寝ているのはどう見ても奈恵だった。
時計を見れば夜中の4時。
こいつ結局帰らなかったのか....。
仕方ないから布団をかけておいた。
風邪を引かれても困るからって理由なのだが、何故こいつは帰らなか....待て、シュンヤがここから一歩も動いて居なかったって事は奈恵と何か話していたよな。
と思いながら視線を電話台の方に移すと、メモ帳に何か書いてあった。
...
おい、これをシュンヤが書いたって事は奈恵はミレイ・ノルヴァや憑依の事を....。
あぁ...最悪だ。
シュンヤが奈恵に憑依の事を教えていないといいんだが。
まぁ憑依中は地球に対して一切の干渉が出来ない。
僕は僕でこっちの事を考えるとしよう。
シュンヤの記憶があるとは言え、僕はこの土地をこの足で歩いたことがない。
そして流石ニートと言うべきか、シュンヤにはここら周辺以外の土地勘が全く無い。
少しでも遠出すればすぐに帰れなくなるだろう。
今すぐエルフを探しに行く...といった訳でもないんだ、気楽に散歩してみるのも悪くない。
家、といっても撲滅団の基地なのだが、基地から外に足を踏み出しただけで本当に地球と世界観が変わる。
空の色が青でも黒でもない。
紅色と表現するのが一番なのだろうが、正直違和感で頭痛が起きそうだ。
しかし、木や石。土と言った基本概念は地球と同じようで、そこの違和感が無い事だけが唯一の救いだ。
思ったんだが、バーミアにはスマホや携帯と言った電子機器はないのだろうか?
シュンヤが連絡石と呼んでいたあの石は、その物質と魔法を合わせる事で音声を飛ばす仕組みらしいが、僕は魔法なんて使えない。
魔法を使えないのがこれほどに致命的とは思わなかった。
地図も、コンパスも、時計まで魔法で補っているのだ。
悔しいことに魔法を使った技術の方が圧倒的に高度なことが出来る。
ホログラム技術も地球より圧倒的に高度なことができる。
移動に関してはテレポート技術が確立されている。
そりゃ人の人生を決め付けるぐらいのこと容易にできるな...と内心思った。
しばらく歩いていると、一つの飲み屋を見かけた。
まるでここに吸い寄せられるかのように一直線で来てしまったのだが、この店にものすごい既視感を感じる。
シュンヤの記憶にこの店はなく。
その既視感の正体に頭を悩ませていると、看板を見つけた。
その看板にはバーミア版日本語で【Bar.雨水】と書いてあり、既視感の正体に気付いた。
この店の感覚といい、この看板といい、どう考えても【Bar.レインウォーター】だ。
ふと頭の中に一つの恐ろしい仮設が浮かんだ。
この店のマスターについてだ。
いや、考え過ぎかもしれない。
カランコロン....
心地の良いベルが鳴り、僕は店の中に入った。
中は綺麗に整頓されており、ランプの光がいい味を出している。
オープンキッチンのお洒落なお店...。
そう、そのオープンキッチンに立っている人間が問題だ。
「やぁ、いらっしゃい」
アットホームに話しかけてきたのは老人だった。
白髪のウルフカット。
白黒のピシッとしまったシャツ。
清潔感の漂う老人。
どう見たって馬場さんだった。
しかし細かいところを見ていけば別人だというのはわかるのだが、その雰囲気は完全に馬場さんだ。
「ど、どうも」
ちょっと動揺しながらも僕は席に座り、一通りメニューを見た。
どうしたことか、メニュー名にものすごい既視感がある。
一番驚いたのが【魔女の鼻水】ってドリンクだ。
食欲をマッハで殺すドリンク名だが、なにが問題ってその名前だ。
馬場さんの所で僕がいっつも飲ませてもらってる【ウィッチズラニーノーズ】の直訳じゃないか。
「マスター、【魔女の鼻水】って奴もらえる?」
「魔女の鼻水ね、少々お待ちを」
そう言って、カン、カランとグラスのぶつかる美しい音を響かせながら、マスターはドリンクを注いだ。
コツン...と机に置かれたそのドリンクは神々しい黄色の光を放っており、炭酸特有の泡が美しさを際立てている。
どう見たってエナジードリンクだ。見た目も【ウィッチズラニーノーズ】と同じだ。
「マスター、貴方の名前を教えて貰えませんか?」
「俺かい?俺はバリッシュ、バリッシュ・ラロイ。この街で一番のバーマスターをやってる」
自分で一番とか言っちゃうのかと思ったが、それよりも名前の語感がやはり馬場さんと似ていた。
もしかして、と思っていたがもしかしたら本当に....。
「で、君は?」
「え、あ、あぁ。俊介って言います」
「俊介?随分珍しい名前しているね。外国人?」
あ、そうか。バーミアの世界じゃ日本の名前は違和感があるのか。
「異世界人です」
「そうか、そりゃ大変だな」
あっさり受け入れられた。
冗談半分で言ったつもりだったんだが、向こうにあっさり認識された。
やはり地球とバーミアでは勝手が違う。
バーミアに異世界人がいることは何も不思議な事じゃないのだろう。
「ン?てことは観光かい?」
「いえ、旅しているんです」
バリッシュと名乗るその老人の声は馬場さんより少し低かったが、やはり似ている声色をしていた。
「旅かぁ。時間の無い中大変だねぇ...召喚者はやっぱりエルフかい?」
「え?」
「え?」
話が噛み合わなかった。
召喚者?エルフ?
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気付くと僕の部屋に戻っていた。
僕が憑依している間、シュンヤは一歩も動かなかった様だが...。
奈恵が寝ている。
座ったまま。
机に手を乗せて。
その無防備な姿に一瞬目を疑ったが、目の前で寝ているのはどう見ても奈恵だった。
時計を見れば夜中の4時。
こいつ結局帰らなかったのか....。
仕方ないから布団をかけておいた。
風邪を引かれても困るからって理由なのだが、何故こいつは帰らなか....待て、シュンヤがここから一歩も動いて居なかったって事は奈恵と何か話していたよな。
と思いながら視線を電話台の方に移すと、メモ帳に何か書いてあった。
...
おい、これをシュンヤが書いたって事は奈恵はミレイ・ノルヴァや憑依の事を....。
あぁ...最悪だ。
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