記憶共有的異世界物語

さも_samo

第9話:救済

天井が真っ白。
清潔感あふれるこの部屋で、僕はやはり自分の体の軽さに違和感を感じていた。
体に破損がある訳でもなく、内蔵が欠けているような感覚もない。

目の前には一応心配してくれている奈恵がいるが、コイツの呼んでいる本がイマイチよくわからない。
表紙にタイトルが書かれてる訳ではなく、ただオディロンを思わせるような奇妙な絵が載っていた。

「なぁ、何読んでるんだ?」

「ん~?詩だよぉ~?分かりやすく言うならぁ~...ポエムかなぁ?」

「いや、普通に詩でいいよ」

文学作品として本になってるモノをポエムと呼んでいいのか?という疑問が頭に浮かんだが、彼女にとってその作品はその程度にしか感じなかったということなのだろう。

布団に寝かされていたのだが、僕をここまで運んだのは誰だろうか?

「なぁ、もしかして僕をここまで運んだのって」

「えぇ、私。急に目開けたまま気絶するもんだからびっくりしたよ」

「重くなかったか!?」

「いえ?軽々ヒョイっと肩に担いで」

「...」

馬鹿力って表現でいいのだろうか?
体が軽くなってる感覚があったのだが実際に体重が軽くなってるって事なのか?
近くに体重計がないから何とも言えないが、奈恵が肩に人間担いで歩いている様を想像したら軽く事件を連想させられたのだが、学校の人間に下手に誤解されてないだろうか。

それも気になるがそれ以上に気になるのがミレイ・ノルヴァのあの説明だ。
エルフが占いの様なもので僕を覗いたせいでシュンヤと僕が対になる存在に固定されて、禁忌を犯したせいで【憑依】が生まれたと。

クソッタレ。

ミレイ・ノルヴァは他にも数名対になる存在が認識されたって言っていたが、その数名っていうのは一体誰なんだろうか。

ここまでくるとどうも僕だけの問題じゃない気がしてきた。
憑依の正体を掴む為に努力しようなんて意気込んでいたが、ミレイ・ノルヴァの説明のせいで大体の正体は分かってしまった。

それと同時にもっと大きな問題に遭遇していた事に気づかされた。
問題はエルフが定めてしまった宿命についてだ。
僕とシュンヤが憑依によって繋がるだけの定めなら、それこそ神の力みたいなモノでどうとでも出来る気がするが、ミレイ・ノルヴァのあの言い草はもっと大きな問題があるが教えるわけにはいかない。と言っているように感じた。

一体エルフって種族は何をしてくれたんだ。
昔シュンヤがエルフの犯罪集団を攻撃していた記憶があるが、それもほぼワンパンに近かったから彼の記憶から詳しいエルフのあれこれは無い。
情報が極端に少なすぎる。
せめてエルフの残した禁忌の書さえ見つかればいいのだが...。

ミレイ・ノルヴァが神の力をフルに使って捻じ曲げた概念。
今となっちゃ効果のない【ホラ吹きな書】な訳だが、そのホラ吹きの書にはエルフが定めた僕の人生そのものが乗っているのだろうう?なら探さなくちゃいけないのではないだろうか。

少なくとも、生まれる前から異世界の人間でない別の生物に勝手に決められた人生のレールを走り続けなくちゃいけないってのは拷問以外のナニモノでもない。

エルフが異世界の人間数人を認識した。というあの言い草から察するに、対になっているという事を確認されてしまった人間は僕ら以外にも数人いるのだろう。

という事は、エルフの残したその禁忌の書には僕ら以外の被害者の人生も載っているのではないだろうか?

仮にそうだとしたらエルフの禁忌の書を見つけるのは、沢山の人間を救うことになるのではないだろうか?
もっと言えばミレイ・ノルヴァが神の力を使っても捻じ曲げることが出来なかった宿命ってヤツを捻じ曲げる事が出来るんじゃなかろうか。

「あーっ。またボーッとしてぇ...本当に大丈夫?」

「あ、あぁ。すまん考え事していた」

ここでウジウジ考えても始まらない。
とにかくシュンヤとコミュニケーションが取れれば楽でいいんだが。







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