黒剣の魔王
第37話/巨神イタカ1
おいおいおい、嘘だろ?
やつの魔力量が急激に上がった。いや、元からこれだけの量の魔力は持っていたんだろう。しかし、それを今まで隠してここまで攻めてきていた。
イタカを現界させながらこちらへ向かってきていたから、てっきり魔力の多くを最初から削げたと勘違いしていたようだ。
王国のトーナメントでもそうだったように、俺の魔法は基本大型のものが多い。
強力なものはすべて大型の魔法だと言っていいだろう。
やつを仕留めるにはかなりの威力がある強力なものを使う必要があるだろうけど、そうすると洞窟、更には王国まで被害が及ぶ可能性もあるかもしれない。そんなものを使ってなおこいつが倒せないっていうならそれは最悪のケースだ。
……仕方ない。かなり久々にはなるけど、こいつを使うか。
「『黒剣ヘルヘイム』」
「ついに本領発揮、ということか? まともに戦ってくれるのならありがたい」
「俺としては戦わずに住むならそれが一番なんだがね。だが、俺のものを傷つけようとした対価くらいは払って帰ってもらわないと」
「未遂でここまでの言われようじゃあ、いざ傷つけちまった時には殺生ものだな」
鼻で笑い、わざとらしくやれやれといった感じで首を横に振るハスター。
「じゃ、殺られる前に殺らせてもらう」
彼がそういうと、突如として目の前に風の斬撃がいくつも現れた。
俺の今の動体視力と思考能力だったら防ぐことは簡単だが、常人が目で終えるような速度ではない。
飛んできた風の刃を黒剣で一つ一つ丁寧に切り裂いて消していく。すると、巨大な竜巻を右手に生成しながらハスターがニヤケ顔で話をかけてきた。
「このくらいは防いじゃってくれるのか」
左手で何度も同じ風の刃を生成させて飛ばしてくるという行為に、多少ながら違和感がある。なにか隠しているのではないか、何かを仕掛けているのではないか、という感じの。
左手にあの竜巻を貯めているモーションは、風魔法の上級のもので風を極めているものなら誰でも使うことができるような、いわばチート前のチュートリアル。
そんなものを遺物を使っている人間が防げないとでも思っているのだろうか。
「舐めてるのか? そんな馬鹿みたいに弱い攻撃ばかりで俺がやられると思っていたのか?」
「馬鹿みたいに弱い、ねぇ。お前、何か勘違いしてないか?」
「は?」
「俺が使ってるのは風魔法じゃない」
そこで万を持したとでもいうように右手の上の竜巻が大きくうねり、凄まじい速度でこちらへ向かってきた。
「暴風魔法『名状しがたきもの』」
途端に暴風は姿形を変え、気色の悪い生き物のような形をしたものに姿を変えた。
こんなことなら思い切り巨大魔法をぶっぱなせるように、洞窟の補強と王国との国境の補強をやっとくんだった。
こんなやつが攻めてくるのは想定外だ。怪盗みたいな奴らが来ると思ってた。
「この姿は、お前の呼び名と姿から考えると、ハスターか?」
「ほう? そういうのに心得があるやつなのか。俺はただ魔法を覚えて使ってるだけだし、中に入ってきた神様の記憶とやらを一部だけ教えられたから使い勝手がわかる程度だ」
その辺は俺と変わらないらしい。自分がある程度知っている情報やイメージしか神たちには反映されない。そして、やはりある日突然壁から『ハスター』の文字が消えた理由は、こいつが自分の体にハスターを召喚したからだろう。
となると、こいつの所属している大罪という組織がどこから召喚の情報を手に入れたのかが謎だ。
洞窟以外にもあの方法が書かれているものが何かあるのか? それとも俺らが来る前に既に文字を写し終えて、条件が揃うのを待っていたのか?
色々と考察している中、すぐ目の前まで1人と1匹のハスターが迫ってきていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハスターの元に戻ったと思われていたイタカは、実は自身の周りの風を操って姿を見えにくくすることでそのまま魔王の洞窟へと向かっていた。
音もなく姿もなく近づく巨人の影に、誰も気づくすべもなく、ずいずいと近づいてくるその気配だけが、洞窟の前に立つステラとアルバの2人に恐怖と不安を感じさせていた。
「お姉ちゃん、な、なにかいる、よね?」
「……えぇ。何かいるわね……」
不気味な気配だけがゆっくりとこちらへ向かってきていることに、2人は人生で初めて相手のことが見えない恐怖、相手の実力が測れない不安を感じてしまった。
生まれながらに勇者であるステラ、そして生まれながらにして賢者の素質ありと見込まれて、その後すぐに修行に駆り出されたアルバにとって、相手というものは用意されていて実力の測れるもの。
上の者達にお膳立てされて、作られた直線の道の上を歩いて途中でぶち当たる人物たち。
モンスター共は彼らに鍛えられたおかげで怖くもなんともないし、そもそも敵ではない。しかし、2人はあの巨人を見た時に思ってしまった。
『勝てない』
人間のそのイメージは、体の稼働率を大きく低下させる。感情を持つ生物である人間は、体のあらゆるパラメーターが精神状態に左右されてしまう。
不安と恐怖、そして敗北の思考に埋もれてしまった2人のパラメーターは著しく下がり、もはやまともに戦えるような状態ではなかった。
「……戦わなくちゃ……戦わなくちゃ……」
必死で体を動かそうとするアルバと、自身の能力が覚醒したにも関わらず、それを使いこなせないことを嘆くステラ。
もはやこのままやつに踏まれるのみとなってしまった時、どこからか赤紫色の光が舞い降りて来た。
「待たせたな」
全身に紅紅とした炎を纏う目の前の人物。
コルヴァズに封印されし『生ける炎』、世界の土台にされ、龍へと昇華した『黒龍』、すべてを味わいすべてを知ったとされる『英雄王』。
この三体のすべてをその身に抱え込み、見えないはずの巨人の前に立ちはだかる。
2人の目の前に映るそれは、新たな3体の神を宿した勇者パーティーの剣士姿だった。
やつの魔力量が急激に上がった。いや、元からこれだけの量の魔力は持っていたんだろう。しかし、それを今まで隠してここまで攻めてきていた。
イタカを現界させながらこちらへ向かってきていたから、てっきり魔力の多くを最初から削げたと勘違いしていたようだ。
王国のトーナメントでもそうだったように、俺の魔法は基本大型のものが多い。
強力なものはすべて大型の魔法だと言っていいだろう。
やつを仕留めるにはかなりの威力がある強力なものを使う必要があるだろうけど、そうすると洞窟、更には王国まで被害が及ぶ可能性もあるかもしれない。そんなものを使ってなおこいつが倒せないっていうならそれは最悪のケースだ。
……仕方ない。かなり久々にはなるけど、こいつを使うか。
「『黒剣ヘルヘイム』」
「ついに本領発揮、ということか? まともに戦ってくれるのならありがたい」
「俺としては戦わずに住むならそれが一番なんだがね。だが、俺のものを傷つけようとした対価くらいは払って帰ってもらわないと」
「未遂でここまでの言われようじゃあ、いざ傷つけちまった時には殺生ものだな」
鼻で笑い、わざとらしくやれやれといった感じで首を横に振るハスター。
「じゃ、殺られる前に殺らせてもらう」
彼がそういうと、突如として目の前に風の斬撃がいくつも現れた。
俺の今の動体視力と思考能力だったら防ぐことは簡単だが、常人が目で終えるような速度ではない。
飛んできた風の刃を黒剣で一つ一つ丁寧に切り裂いて消していく。すると、巨大な竜巻を右手に生成しながらハスターがニヤケ顔で話をかけてきた。
「このくらいは防いじゃってくれるのか」
左手で何度も同じ風の刃を生成させて飛ばしてくるという行為に、多少ながら違和感がある。なにか隠しているのではないか、何かを仕掛けているのではないか、という感じの。
左手にあの竜巻を貯めているモーションは、風魔法の上級のもので風を極めているものなら誰でも使うことができるような、いわばチート前のチュートリアル。
そんなものを遺物を使っている人間が防げないとでも思っているのだろうか。
「舐めてるのか? そんな馬鹿みたいに弱い攻撃ばかりで俺がやられると思っていたのか?」
「馬鹿みたいに弱い、ねぇ。お前、何か勘違いしてないか?」
「は?」
「俺が使ってるのは風魔法じゃない」
そこで万を持したとでもいうように右手の上の竜巻が大きくうねり、凄まじい速度でこちらへ向かってきた。
「暴風魔法『名状しがたきもの』」
途端に暴風は姿形を変え、気色の悪い生き物のような形をしたものに姿を変えた。
こんなことなら思い切り巨大魔法をぶっぱなせるように、洞窟の補強と王国との国境の補強をやっとくんだった。
こんなやつが攻めてくるのは想定外だ。怪盗みたいな奴らが来ると思ってた。
「この姿は、お前の呼び名と姿から考えると、ハスターか?」
「ほう? そういうのに心得があるやつなのか。俺はただ魔法を覚えて使ってるだけだし、中に入ってきた神様の記憶とやらを一部だけ教えられたから使い勝手がわかる程度だ」
その辺は俺と変わらないらしい。自分がある程度知っている情報やイメージしか神たちには反映されない。そして、やはりある日突然壁から『ハスター』の文字が消えた理由は、こいつが自分の体にハスターを召喚したからだろう。
となると、こいつの所属している大罪という組織がどこから召喚の情報を手に入れたのかが謎だ。
洞窟以外にもあの方法が書かれているものが何かあるのか? それとも俺らが来る前に既に文字を写し終えて、条件が揃うのを待っていたのか?
色々と考察している中、すぐ目の前まで1人と1匹のハスターが迫ってきていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハスターの元に戻ったと思われていたイタカは、実は自身の周りの風を操って姿を見えにくくすることでそのまま魔王の洞窟へと向かっていた。
音もなく姿もなく近づく巨人の影に、誰も気づくすべもなく、ずいずいと近づいてくるその気配だけが、洞窟の前に立つステラとアルバの2人に恐怖と不安を感じさせていた。
「お姉ちゃん、な、なにかいる、よね?」
「……えぇ。何かいるわね……」
不気味な気配だけがゆっくりとこちらへ向かってきていることに、2人は人生で初めて相手のことが見えない恐怖、相手の実力が測れない不安を感じてしまった。
生まれながらに勇者であるステラ、そして生まれながらにして賢者の素質ありと見込まれて、その後すぐに修行に駆り出されたアルバにとって、相手というものは用意されていて実力の測れるもの。
上の者達にお膳立てされて、作られた直線の道の上を歩いて途中でぶち当たる人物たち。
モンスター共は彼らに鍛えられたおかげで怖くもなんともないし、そもそも敵ではない。しかし、2人はあの巨人を見た時に思ってしまった。
『勝てない』
人間のそのイメージは、体の稼働率を大きく低下させる。感情を持つ生物である人間は、体のあらゆるパラメーターが精神状態に左右されてしまう。
不安と恐怖、そして敗北の思考に埋もれてしまった2人のパラメーターは著しく下がり、もはやまともに戦えるような状態ではなかった。
「……戦わなくちゃ……戦わなくちゃ……」
必死で体を動かそうとするアルバと、自身の能力が覚醒したにも関わらず、それを使いこなせないことを嘆くステラ。
もはやこのままやつに踏まれるのみとなってしまった時、どこからか赤紫色の光が舞い降りて来た。
「待たせたな」
全身に紅紅とした炎を纏う目の前の人物。
コルヴァズに封印されし『生ける炎』、世界の土台にされ、龍へと昇華した『黒龍』、すべてを味わいすべてを知ったとされる『英雄王』。
この三体のすべてをその身に抱え込み、見えないはずの巨人の前に立ちはだかる。
2人の目の前に映るそれは、新たな3体の神を宿した勇者パーティーの剣士姿だった。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
104
-
-
337
-
-
140
-
-
17
-
-
52
-
-
63
-
-
29
-
-
353
-
-
124
コメント