黒剣の魔王

ニムル

第閑話/二代目魔王

 俺は跡形もなくなった自宅のあった場所を見つめながら、あの日からの出来事をもう一度思い返していた。

 あの日の俺は、じりりりとけたましくなる目覚まし時計を止めて、まだ寝ていたい気持ちを抑えて暖かい布団からのっそりと出た。

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 いつも通りの朝、いつものように歯磨きを済ませ、朝食を取り、制服を着た。

 鞄を背負って家の外に出ると、そこには幼馴染のゆいあや恭花きょうかがいた。

 この3人の中であやだけが三学年上の高校3年生だ。

 俺を含めた3人は中学3年生。そんな受験生4人が通うのは私立文月学園。中高一貫なのに中学から高校に上がるのに、一般公募と同じ試験をするというおかしな学校に通っていた。

 その登校中、学校までのバスで事故が起こった。地震が起きてバスがスリップし、横倒しになったのだ。

 気絶から目覚めると、他に乗客はおらず、運転手すら消えていた。

 なんとか頭の上にある窓を、座席に足をかけて思い切り開ける。するとそこにあったのは、目が眩むように光り輝く宝石が、壁一面に広がっている空間だった。

「ようこそ、異界の民よ。あなたはどうしてこの場所に?」

と、目の前の男が問うてきた。

 話しているうちに、この世界はオメガゼンダムという名前で、この洞窟はある王国の大森林の中にある、魔王の洞窟だということがわかった。

 俺たち4人は、その初代魔王『フォーマルハウト』に手厚く歓迎された。

 召喚から1年ほどだった時、外からセンシタリア王国軍の侵攻があり、フォーマルハウトは戦いに出た。

 フォーマルハウトに戦い方を教わっていた俺たちは、フォーマルハウトに恩を返すために戦いに加勢した。

 しかし、俺の幼馴染の3人は王国に人質に取られてしまった。

 王国から言われた3人の返還の代償はフォーマルハウトを殺すこと。

 それがわかっていたフォーマルハウトは俺に命を差し出し、自ら俺の刃に刺された。

 俺が初めて、人を殺した瞬間だった。

 王国からの要求を飲み、フォーマルハウトを殺すことに成功したがしかし、王国は3人を既に処刑し、殺してしまっていた。

 もう理性の限界だった。

 フォーマルハウトを殺すことによって引き継いだ魔王の力を使って、王国を半壊状態にし、2度と俺に刃向かえないようにした。

 洞窟でひとりで過ごした1800年の間に何人もの猛者が王国から送られてきたが、俺には傷一つすらつかなかった。

 他国からも俺の命を狙って刺客が送られてきたが、六皇を除いては俺に一撃も与えることは出来なかった。

 六皇も、炎皇以外の皇帝は死亡し、炎皇は俺の従順な配下になった。

 二人になってから260年が過ぎ、俺と炎皇の間にはひとりの子供が生まれた。

 その子供が10歳になった時に魔王の力を譲り、俺はフォーマルハウトの力で作り出した魔法で現世の歴史を改変しつつ、現世へと帰還した。

 もちろん、大人になってしまった俺はその世界で小鳥遊たかなし ゆうとして生活はできない。

 そのため、親がいなかった自分を利用して、炎皇と共に俺の両親の位置へと入り込んだ。

 流石に全員を家族にはできなかったが、ゆいあやは家族にし、恭花きょうかは眷属の子供として監視をした。

 そして、いきなり異世界から念波が来た。

 俺達の息子が炎皇の親類に殺されたらしい。まぁ、何かしらの欠陥はあると思っていたのでさしたることではないのだが、問題は魔王の力の行方だった。

 あの力が誰のものになるのか。殺した人間のものになるのなら、あの王国に力を与えるようなものだ。

 それだけは我慢ならない、いや、王国のようなゴミ組織、あの時にちゃんと消しておけばよかったのだ。

 あの時に王国を消せなかったのは自身の失態。今更あそこまで肥大したものを一夜で消すなどという真似は到底出来ない。

 そこで、再び異世界に転移し、王国中の人間の記憶を改竄し、力を得た男を王国の元来の敵、四代目魔王とした。

 途中で大ダコの妨害が入ったがさしたる問題はなかった。

 いずれこの腐った世界を滅ぼして、彼女らの敵を討つ。俺はそう心に決めて、気を待つために再び現世に帰った。

 そう。今日この日が来るのを待っていた。

「さあ、いくぞ」

 横を歩いていた炎皇に声をかけ、転移の門を開く。

 家の跡で倒れていたあやも連れて、転移門を潜る。

「さぁ、復讐を始めようか!」

 彼女らを理不尽に葬り去った世界を消すために、俺、小鳥遊たかなし ゆう、もとい勇吾ゆうごは高らかに声を上げた。

「二代目魔王、狂気の『アルカンザス』が帰ってきたぞ! 世界、お前は俺のことを裏切った。だから世界よ、貴様は自身の滅びる様をその何も出来ぬ巨大な双眸で見届けるといい!」

 視界に広がる懐かしい世界の空気が、微かに淀んだ気がした。

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