黒剣の魔王

ニムル

第14話/辺境の王国、センシタリアにて

 王国に着いた。

 まじでそれしか言うことがない。

 もう一度言おう。

「王国に着いた」

「うん、そうだねお兄ちゃん」

「……」

「お兄さん、せっかくゆいちゃんが相槌を打ってくれてるんですから反応したらどうです?」

 と、言うレズっ娘のことなど構ってられないくらいの、同じ言葉しか発することが出来ないくらいの衝撃を受けた。

 なぜなら目の前に立ち並ぶのはビル街。

 道中村がなかったので不思議に思っていたが、今聞いた話だと国民は全員ここの国営マンションに移住したらしい。

 一宮君が講師をしているという国営の学園もかなりの規模なのだろう。それこそ見た目はU〇X位の。

 ふと見ると、向こうから一宮君が歩いてくる。んん? いけないねぇ、講師の仕事をすっぽかして遊びに来ちゃったのかな?

「俺も魔王サイドの参列者なんだよ」

「もしかして心の中読めたり?」

「何を言ってるんだ?」

 一宮君が読心術を持っていないことを確認したところで王国指定のホテルとやらに一宮君に案内してもらう。

 何でもこの街の外観は一宮君の想像を、クトゥルフ氏が創造したものにみんなが住んでいるということらしい。

 農家の人も全員ここのマンションに移住したということで国の食糧が気になるところなのだが、なんと、食糧は国営の工場で生産されているらしい。

 野菜工場は831ファクトリーって名前なんだそうだ。どこかで聞いた覚えがあるね。

 精肉工場は029ファクトリー。もうひねりとかないよね。もう少し頑張って欲しかった。

 魚類工場は3K7ファクトリー。もはや意図を隠すつもりがないよね。いい加減頭文字で何とかしようとするのやめた方がいいよね、アルファベット使うくらいなら。

 そしてなんとこの三つの工場、凄いことに各工場ごとに加工工場がついており、加工食品もバッチリとのこと。

 文明開化の爆音が聞こえそうだよ、どんな頭を叩いても。

 さらにこの工場全てがゴーレムによる全自動運営で町にあるスーパーマーケットまで運ばれる。人様の仕事などなくなってしまったのだ。

 では、つい先日まで農家だった方たちはどうしているかと言うと、なんと、彼らは化学工場や自動車工場などではたらいているらしい。

 何この国、一月で進歩しすぎでしょダメだよ、やり過ぎると神様にバベられるよ?

 それにしても、まさか王国についた途端にそんなことをベラベラと聞かされるハメになるとは……一宮君何があったの本当に。

 そんなことをスカコンティーと話しながらホテルに着く。

 因みに王都に来ているメンバーは俺、スカコンティー、姉ちゃん、ゆい恭花きょうか、一宮君、ステラ、そしてステラの弟で賢者のアルバだ。

「アルバ、あんまりはしゃいじゃダメよ? ここはもう魔境に変わってしまったの、てか、食料的にはまだ私たちが有利な生活をしているはずよ。多分。」

「多分じゃねぇよ。圧倒的にここより素材数多いし全部俺の手作りだから安心しろや。この無駄に家事スキルが上がってしまった俺が作ってんだから……え、この国の料理水準はまだ日本より低いよね? 一宮君」

「ああ、まだ少しだけ低いかな。あと数日したら追い越せるかもだが」

「よし! 王国から腕のいいコックを持ち帰ろう! 俺達も洞窟の中とその周辺にビル街建てるぞこらぁ!」

「おお! 我が主よ、その心意気しかと受け止めました! 和平を結んだ同盟国に水準的に劣っていては面子が立ちませんもんな! このスカコンティー、命を尽くしてこのビル街とやらを作ることに尽力いたしましょう!」

「おう、俺は原型作るからお前は細かいところよろしく!」

「かしこまりました!」

「何なのよ、こいつら」

「お姉様にはわからないかも知れませんがこのような事にやる気を出すのが男の性というヤツなのです」

「アルバっちいいこと言う〜!」

「優くん、あなたそんなこと言うキャラだったかしら?」

「今はそんなこと気にしない! さぁ、早く部屋にチェックインしないと」

 もう予定されている時刻の3分前だ。早く入らないと締め出されてしまう。当日の客に先を越されることがあってはならない。どんな場所に来てもそんな貧乏性は治らないのだ。

 さてここのホテルは某〇国ホテルみたいな感じなんだけども俺達はそれほどの扱いなのかね? 

 王国って言ったらつい先日まで俺たちを蛮族扱いしていたキチガイの軍というイメージが強いので、このような好待遇を受けることを予想していなかった。

 姉ちゃんに至っては「絶対なにか裏があるわね……王国滅ぼす?」とか言ってる。

 和平ですんだんだからいいじゃない。最初の目的からはそれたけど、平穏に暮らしたいという当初の目的は果たしたのだから。

 しかし、たった88日足らずでここまでの街を作るとは、案外王国の国力を舐めていたかもしれない。

 フロントでチェックインを済ませて部屋に入る。その一時間後に国王からの連絡が来て王城へ出向くことになった。

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「はは、ご冗談はやめてくだされ魔王殿。この国にはそんな大きな国力はありませんよ」

「王よ、ご謙遜は身のためになりませんよ? 我々は素直に一月で国をここまで持ってきたあなたを評価しているのです」

 今は謁見の間で王にあっている。この王の喋り具合からして手紙を書いたのは実は大臣のうちの誰かとかそんな感じかな、と思った。

「貴方様にそのように言われると嬉しいですな、なんせオルドワン戦略級国家魔道士ですら貴方には勝てないと申しておる軍師でございますから」

「あれは持てる力を利用しただけの応用にすぎません。誰でも同等の力を持ち合わせていれば、同じ策を練って実行したことでしょう」

「その力を見込んでなんですが、どうでしょう? 王国主催の闘技大会に参加しては見ませんか? もちろん皆さんで。参加費は無料、優勝賞品は独立国の設立の権利と王国の国土の半分の譲渡です」

「!? それは大きく出ましたね、どうしてそのような事を?」

「実はですね……この国営と個人経営を混ぜ合わせた社会になった今、我々が制定した憲法の範囲に、現在使われていない国土、つまり今使っている分の8分の7はもう範囲外なのです。いわば違法地帯。王国側にもどうしょうもないから新しい統治者が出来れば我が国から移住する者もいるでしょうし、国の辺境区に住んでいる亜人種の人間も移住しやすくなるのでは? と、大臣たちを交えて考えた結果なのです」

「ほう、それで我々を誘ったということは......」

「ええ、大会と呈してあなた方に優勝をしてもらおうと思いまして。【憂鬱ワルプルギス】に救われた我々からの恩返しだと思っていただければ」

 それはもう、事実上の独立国誕生の瞬間だった。

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