黒剣の魔王

ニムル

第7話/帰りたいけれど.....1

 洞窟に来てから二ヶ月経った。

 良くいえば「鎖国してて飢饉起きてる国で、こうして自由に食事が取れていて幸せ」、悪くいえば「帰るための方法を探しても全く見つからない」というような感じの二ヶ月間だった。

 壁の文字は次々へと消えていく。この間は『マルス』、『ベートーヴェン』、『ハスター』、『ツァール』、『ロイガー』、『イタカ』の6つが消えていた。

 神様だらけの絵面の中に偉人が紛れていることに対しての違和感がまだ払拭できないぜ、あちゃちゃ。

 これはあくまで俺の自論なんだけど、一部の層から神と崇められたらそれはもう神様とかそんなんなんじゃないか。そんな気がしている。

 その間の他の奴らの行動はと言うと、まず姉ちゃんは1人で洞窟探索をしていた。

 勇者パーティーの皆によると、ここまで降りてくるのに九つの階層を通ってきたらしい。

 要するにこの洞窟は十の階層のある塔のような構造をしているようだ。

 ここに来るまでにたくさんのモンスターにも遭遇したそうで、彼らが話してくれた種類をリストアップしてみた。


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〜魔王の洞窟 モンスターリスト〜

・ゴブリン
 ゴブリンさんたちの尖兵。

・ゴブリンリーダー
 ゴブリンたちが組む小隊のリーダー。

・ゴブリンアーチャー
 ゴブリンさんたちの中の弓使い。

・ゴブリンメイジ
ゴブリンさんたちの中の魔法使い。

・ハイゴブリン
・ハイゴブリンリーダー
・ハイゴブリンアーチャー
・ハイゴブリンメイジ
 通常種の強化版。

・ゴブリンキング
 ゴブリンの小集落の長。
 単体攻撃力は異常で剣、弓、魔法の三つをすべて使えるらしい。

・スライム
 名前の通り、色んなものを溶かすあれ。

・スライムメイジ
 あれの魔法使い。

・デッドスライム
 あれの毒持ち。

・ジャンボスライム
 あれのでかいやつ。

・フェンリルウルフ
 過去に現神した大狼神の子孫。

・ケルベロスウルフ
 過去に現神した三頭狼神の子孫。

・ウルフキング
 フェンリルウルフの長。

・ウルフクイーン
 ケルベロスウルフの長。


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と、まぁこんな感じだ。

 あ、あと俺たち。

 一応俺ら人なんだけど扱い的には魔物らしい。

 『魔の者の王』の略称で魔王なんだとか。

 それだったら魔族とかの人型のヤツらの王様がよかったなぁ。こいつら意思の疎通できなさそう。

 いやいや、偏見は良くないな。ステラちゃんに聞いてみよう。

「おい、こいつらって意思の疎通できるの?」

「え? 出来るわけないでしょ?」

「俺は時々話すけどな」

「「え!?」」

 剣士の一宮君に聞くと、意思疎通はできるそうだ。その程度には賢い種族なんだと。

 勇者のくせに無知かよ、ステラ。

 そんな会話をしてから数時間後、俺は一つ上の階層に行くために一宮君と歩いていた。

 もちろん、この階層と上の階層の違いを見るためだ。

「うわぁ、モンスターだらけかよ」

 ゾッとする量のモンスターたちが階層を歩き回っている。

 一宮君のことをちらと見て近づいてくるが、俺のことを見て去っていく。

 やはり俺のことを主だとしっかり認識しているんだろうか?

 なんかよくわからないや。

「なんでこいつら俺のこと避けるんだろう? 俺が王様なんだったらなんか要求とかしてくるのかと思ったんだけど」

「お前のことを畏怖恐怖の対象として見ているんだろ。でなきゃあんな態度にならない。あいつらは魔力があること以外は野生動物と同じだからな。あと、王は逆に民に要求するものだ」

「なんかやな感じだねぇ、その要求するっていう単語」

「と、言われてもな。俺もこの世界に転移させられた時はそうだったが」

「君も転移者何だ?」

「ああ。剣道の大会決勝の途中に転移してな、タイミングよく先代勇者を面打ちで倒してしまった」

 え……

 そんな人に勝ったんだ、俺。

 やだぁ、魔王の力怖い。この力つお過ぎです! チート持って転移、なんか自分が自分じゃなくなったみたいだわ……

「力があることはいいことじゃないか。守りたいものを守ることが出来る。俺はこの世界に来て自分の無力さを知り、騎士ギルド、剣士ギルドを回って剣の道を進み続けた」

「力、ねぇ……。少なくとも俺は日本では力を必要としたことは無いな」

「だろうな。俺みたいな特殊な環境で育たない限りそんなこと思わないだろう」

「どんな?」

「人に言えるような話ではない」

 相当おぞましい環境で育ったんでしょうね、はい。

「おい、魔王」

「ん? 話す気にでもなった?」

「ゴブリンがこっちに走ってきてるぞ」

「え?」

 彼の指差す方を見てみると本当にゴブリンが走ってきている。

 鬼気迫る表情で斧を振り回してはねるように走ってくる、今まで見たゴブリンの中でもとくにガタイのいいやつだ。

 何しに来てるんだろうか?攻撃はされそうにないけれど、一応備えておこう、黒剣準備っと。

「……自分の配下なのに容赦ないな」

「まだ俺が魔王ということが事実と決まった訳では無いんでね」

 スキルの能力によってそうであることはほぼ確定なんだけとも。

「まっ、魔王様ぁぁぁぁ! お待ちしておりました! 我らの救い、我らの希望、我らの灯火! さぁ、長く辛かった迫害の日々を払い除け、今度こそ平穏を取り戻しましょうぞ!」

 げ、めんどくさいタイプのやつだ。てかめちゃくちゃ喋んな、ゴブリン。

「え、えっと、き、急にどうした?」

「いきなり走ってきて方便を吐くとは、謎だな」

「げっ!? 何故こんなところに聖剣使いが!?」

どうやらゴブリンは一宮君のことも知っているらしい。

「貴様にやられた我らが同胞の最後、忘れもしない! さぁ、魔王様、こいつをめった切りにしましょう!」

「いや、俺はもうお前らに害は加えない」

「え? あぁ、それならいいですけど」

 チョロ過ぎだろ...

 同胞たちの最後忘れないんじゃなかったの?

 思ったことをそのまま聞いてみると、

「いや、人間嫌いなわけじゃないですし」

との事。

「まぁ、今は聖剣使いのことはどうでもいいのです。さぁ、次こそは進行軍を抑えきり、この洞窟を守りましょう!」

「は?」

「対魔王軍式王国軍大規模進行遠征たいませんか」

「なにそれ」

「魔王が魔物を滅ぼすために年一で行う国事行為だ。ノルマは魔物の首千頭以上」

「わお、グロテスク」

「もうそろそろ昨年度の進行から1年だな」

「なんですと!?」

「魔王様、そういう訳です! どうか我らをお救い下さい!」

と、言われてもねぇ?

見ず知らずのおっさんにそんな事言われても...

「もう、皆疲れているのです。一年、人間にとっては十分な回復期間かも知れませんが、我らにとっては短き期間。絶え間なく送られてくる軍隊にやられる事を最期と余命を過ごすものが大半。最早我らの希望は、唯一彼らと対等に戦える貴方様しかいないのです」

 予想外に重い話突きつけてきたねぇ。

 さてどうしましょう、立場的にも、今後、元の世界に戻るまでの生活にも彼らがいることは役立つのだけど。

 とにかく、先ずは王国軍をどうにかしなくちゃいけないっぽいし、倒しちゃいますか、王国。

「どう思う?」

「お前は民を導く立場なんだから助けるべだろう」

「君はいいの?」

「現国王に義理はない」

「そっか」

 そんなこんなで、元の世界に帰るまでの方針に新しく『打倒王国』が加わったのでした、めでたしめでたし。

『称号・反逆の魔王を獲得しました』

 ……え

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