黒剣の魔王

ニムル

第5話/勇者懐柔計画

 つい先日気づいたが、冷蔵庫などの食品を保存しているものの中身が減らない。てか、入ってなかったものも増えてる。さらに電気もつくしガスもつく。

 理由はわからないところが余計に、ファンタジーの世界ってすっごーい。てなるわ。

 ほんとどういう原理で中身元に戻ってんだろうね?

 実は他にも何かギミックがあって、もしかしたら地球と繋がっていて、何回か玄関の扉開け閉めしたら帰れるかもしれないな、と、ド〇えもんのどこでもド〇の要領で何回も開け閉めしてみた。これはゆい恭花きょうかが試してくれた。

 もちろん結果はNO。全くもってそのようなことは無かった。もしかしたらもう少しやったら繋がってたかも?なんて。

 ……扉の劣化が早まっていないと願いたい。あのふたりのものの扱いは……はっきりいって雑だ。

 昔から一緒にいるからか、大概行動パターンが同じになっていて、ものの扱い方も同じなんだそうだ。結果として2人ともものを壊すのが早い。

 それこそ誕生日プレゼントにもらった人形が、もらったその日に首がもげていたり、四肢のうちどれかが無くなっていたり、などだ。

 過去には口の端から赤いインクがたれていたり、目がくり抜かれていたりしてよく家族を驚かせたものだ。

 特に日本人形の時は怖かったなぁ……

 首が取れかけていて下を向いていて、両手足が外れて中の神経のような糸だけで繋がっており、片目がずり落ち、穴という穴から赤インクを垂らしていた。

 今でも鮮明に思い出せる。

 え? 日本人形ってそんな作りだったっけ? って疑問に思うまもなく、ゆい以外の家族全員が本気でビビった。

 それは恭花きょうかの家もそうだったらしく、後に恭花きょうか母はうちの母親と話をすると毎回こう語る。

「あの子にあげた人形、今でもあの子にぐちゃぐちゃにされた時と同じ格好で寝てる私の上に乗ってくるの! あ、あああ、怖い怖い怖い怖い……」

 本気で怯えているのがよくわかる。

 なんつーモン作ってんだあいつは。呪いの道具か。

 あと、洞窟の壁にあった神様についての文章の一部が消えていた。

 なんの神様のやつが消えたか把握出来ていなかったけど、なんか嫌な予感がするのでこれからはしっかり止め持っておこうと思う。

 この数日、分かったことだけではなく変わったこともあった。

 それは『身体能力』。

 この五階建てのビルくらいの深さがある洞窟だが、俺たち4人は天井を手のひらで触れることが出来るようになっているらしい。

 異世界凄すぎだな。

 ちなみに勇者ちゃんたちは今、姉ちゃんの手によって磔にされている……

 時々聞こえていた、

「いだっ!」

「やめてください!」

「『ヒーリ』……あああああんっ!」

「皆さん、もう抵抗はやめましょう。悪魔に何を言っても無意味です……」

というような声すらもうしなくなった。

 相変わらず鞭の音は聞こえているので拷問は継続中だろう。

 ……寒気がしてきた。

ーーーーーーーーーーーーーーー

 身体能力をただひたすら試し続けて半日。

 腹がすいたのでさくっと料理を作ることにした。

 今回のメニューは『カレー』だ。理由はもちろん、レトルトでお手軽に作ろうという魂胆だからだ。

 そのうち二回から降りてくるであろうアホの子二人分と姉ちゃんの分も作っておく。

 ん? 今どこかで見たことある金髪が玄関の方を横切った気が……まあいいか。

 白米を炊き、辛口のレトルトカレーを温めて白米の上に敷く。

 まぁ、なんてお手軽なんでしょう! 早く食べないと腹減りすぎて死にそう。

 早く姉ちゃん呼びに行くか。

 自宅から出てすぐの洞窟の壁に、キャンプ用のピックを指して、その穴に紐を通すことで作られた簡易磔台。

 その脇にこれまたキャンプ用の椅子に座り、テントを用意して野営している姉に、

「飯できたよー。」

と、声をかける。


「ん、りょーかい……」

 あらあら、どうやら拷問成分が足りていなくてイライラしているようだ。

「どうした?なんかあった?」

「……一人逃げた」

「……あぁ、そういう事か」

 大切な欲望を満たすための糧が一人逃げたことに腹を立てているらしい。

「で? 逃げたのは?」

「……勇者ちゃん」

 えぇぇ、あいつ仲間に諦めろとか言ってたくせに諦め悪いなー。

 俺わりかしお人好しなほうだけど、剣向けてきたやつにまで親切にしてやれないし、他の人達だって俺たちに対して殺意むき出しだしなぁ。

 そんなんじゃなけりゃ飯とか作ってあげてもよかったんだけど。

 あ、飯。早く食べないと冷めちまう! 急がなくては……

 カレーは熱いうちに食べないとね!

ーーーーーーーーーーーーーーー

 そう思って急いで台所へかけた俺は驚愕した。

 用意しておいたカレーライスが全て空になっているのだ。

「は? ど、どういう事だ?」

 すると、先ほど玄関の方をかけて行った影が今度はダイニングへ向かった。

 まずい、その先には事前に用意しておいた沢庵と福神漬けが!?

「いかせないっ!」

 思い切り影のほうに手を伸ばすが届かない。

『土魔法の発動条件を満たしました【低級土魔法】ストーンハンド、発動します』

 瞬間脳内に無機質な声が響き、俺の背中から石でできた手が生えた。なにこれ伸縮自在なのか。

 夫こんなことしてる場合じゃない、やつを捕まえて晩飯を死守しなくては。

「行けっ、ストーンハンド!」

「ふごっ!?」

 さて、泥棒さんの顔を拝もうか。

「なっ、何するの! 魔王の分際で!」

 勇者ちゃん、それはこっちのセリフだぜ?

「ふん、お国は今鎖国中なのよ? そんな中でただでさえ内乱が耐えないのによくこんなにも美味しいものを食べていられるわねぇ! え? 決して羨ましい訳では無いわよ、えぇ、勇者である私ならこの程度のご飯なんて頼めばいくらでも出てく……」

「で、なぜ勝手に食べた?」

「お腹がすいてましたごめんなさい」

 素直でよろしい。

 勇者ちゃんのおかげで魔法も使えたし一石二鳥だな。

 あ、いいこと思いついた。

 この勇者ちゃんは多分見栄を張るタイプの子だ。つまり普段はあまり美味しいものを食べていないんだろう。

 ここにいさせている間、俺が勇者パーティーの分の飯も作って毎日食わしてやれば、この勇者ご一行を食の恩で手駒に出来るのではなかろうか?

 例えばモンスターと戦わなきゃいけないとかそんな場面にあったとしよう。ないことを願いたいけど。

 その場合、姉ちゃんと俺は別としても、ゆい恭花きょうかは痛手をおうかもしれない。

 だが、勇者パーティーを味方につければ、大概の敵を倒すことは出来るのではなかろうか?

 こんな子でもまがりなりにも勇者。

 よし、懐柔の方向で行こう。食で懐柔しよう。

「ほれほれそこの勇者さんよ、食べ物が欲しいのかね?」

「……う、そ、そうよ!」

「ならばこの俺が作ってあげよう。君のパーティー全員の分も」

「……何のつもり?」

「別に? ただ食材を腐らせちゃいけないからね」

 うそうそ。腐ることもなければ無くなることもないぜ、実験結果だとね。

「……ほんと?」

「ほんとだよ」

「た、確かに食べ物を粗末にはできないものね! じゃぁお願いするわ! 魔王、頼んだわよ、私たちの食事係をしている間は襲わないでおいてあげる」

 そう言うと勇者ちゃんは満足げに姉ちゃんのいる外へと歩いていった。

 勇者パーティーの俺と姉ちゃんに対する態度をもっと下からのものにしなくては。

 姉ちゃんに頼むか。

 飯を作ってやるんだ、もう少ししおらしくなってもらわないとなぁ、クックックッ

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