ゼロ魔力の劣等種族
第三十三話 小さな疑念
俺が出てきたのを確認すると、学院長が廊下を歩きはじめるのでその後に続く。
「学院長室へ、と言いたいところだがあまり歩き過ぎれば身体に触るだろう」
そう言いながら学院長は俺を寮監室へと通し、ソファーを勧める。
身体も痛いので遠慮なく座らせてもらうと、周りを見渡してみる。本棚には様々な洋書。その横の木棚にはカエルがレイアウトされたマグカップが置かれ、エミリー先生が普段仕事をしているのであろう机には色々な書類が乱雑に置かれていた。
「さて、今回の件についてだがシラヌイ」
学院長が窓の方を見ながら静かに言い放つ。
「確か私は待てと言ったはずだったが?」
振り向きこちらをみる学院長の眼差しは鋭い。
「すみません」
自然と謝罪の言葉が出てくると、学院長は俺の前のソファーに座った。
「これはいわば重大な校則違反だ。夜間の外出も禁じているからな。校則違反したものがどうなるか君も知らないわけではないだろう? シラヌイ」
「退学、ですよね」
学院長に逆らった時点で覚悟はしていた。ただ、今の俺はこの学院にいる目的なんて無い。甘んじて受け入れるつもりだ。それにどちらにせよ弥国へヒイラギは連れて帰られないといけない。場合によっては自主退学となるだろうから同じことだ。
ただ、一つだけ受け入れてはならない事がある。
「それはフラミィとエクレも該当していますか?」
夜間の外出はあいつらも同様だ。
「当然、校則違反ではあるな」
やはりそうか。ただ今回の件は本来弥国の問題だ。二人が罰を受けるのはとばっちりというものだろう。
とにかくここは粘り強く交渉していくべきか。
「とまぁ本来ならそう言いたいところだが。今回の件については功績が大きすぎる」
「え?」
学院長説得の算段を立てていると、思わぬ言葉が耳に届いた。口が咄嗟に聞き返すと、学院長はため息をつく。
「では誰も退学にならずに済むんですか?」
学院長は無言で首肯すると、一連の説明を始めた。
「教頭……マドマンは確かに大天才ではあるが法外の実験を多く行ってきた。だが奴の魔法学に関する貢献はあまりにも凄まじい。王もこれを黙認するしかなかった」
確かに奴が教科書を何度も塗り替えてきたとは聞いていた。だがそうなるとさらに大きな罪が目の前に現れる。
「だったらエクレやフラミィはともまく、俺は罰せられるべきでは? 何せ俺は奴を……殺しました」
確かにこの手で貫いたのだ、柔らかな心臓を。魔法学のさらなる進化をもたらすかもしれない重要人物をこの手で消したのだ。
だが学院長の口から放たれたのは予想外の言葉だった。
「何を言っているシラヌイ。マドマンは生きているぞ?」
「……え?」
マドマンが生きていた、だと?
「でも俺は確かにこの手でやつを刺し殺しました。今でもその感触は手に残っています」
「ああ、確かに君は重大なキズを負わせていたが、マドマンは心臓を貫いたぐらいで死ぬような奴じゃない」
「心臓を貫いても死なない?」
そんな事があり得るのか。
「私も詳しくは知らないが奴ならそれができるらしい」
「なんと……」
いやでもまぁ、奴ならそれも可能なのかもしれない。物理攻撃を封殺するような魔法も開発しているくらいだし。
でもだとしたら今奴は一体?
「まさか教頭に戻るなんて事は……」
「それは無い。奴は今頃厳重警戒の城の地下で隔離されているだろう。死なないとは言え傷は大きい。心臓というのは魔力をつかさどる器官でもある。恐らく今後まともに魔法は扱えない。だから恐らく一生地上にできることはかなわないだろうからそこは安心しろ」
「よかった……」
もう二度とあの面は拝みたくない。
「それで本題だがシラヌイ、神子についてだが」
神子という言葉に自然、神経が張り詰めた気がした。
「けがの功名というべきか、マドマンは神子を復元しただろう?」
復元という言い方は少し気に食わないが、大きな意味ではあっているので頷いておく。
「これは王からの勅命なのだが、神子の事は弥国側にもう少し伏せておきたいそうだ」
「……何故です?」
聞くと、いつも威厳に満ちている学院長の表情に珍しく影が差す。
これはただ事じゃないかもしれない。
「……悪いがこちらも立場があってな。まだ何も言う事はできないのだ」
またそれか。
心に靄がかかったような感覚がするが、俺の立場上あまり強い物言いは出来ない。
退学を停止したのはまさかそれが目的か?
一瞬疑念が胸の内に沸き起こるがすぐに振り払う。
「でもヒイラギはどうなるんですか?」
むしろこれが一番大事なことかもしれない。もし隔離なんて事になるのなら退学してでも断る。
「ああ、その事だが、神子にはうちの学院の生徒となってもらおうと思う」
「学院長室へ、と言いたいところだがあまり歩き過ぎれば身体に触るだろう」
そう言いながら学院長は俺を寮監室へと通し、ソファーを勧める。
身体も痛いので遠慮なく座らせてもらうと、周りを見渡してみる。本棚には様々な洋書。その横の木棚にはカエルがレイアウトされたマグカップが置かれ、エミリー先生が普段仕事をしているのであろう机には色々な書類が乱雑に置かれていた。
「さて、今回の件についてだがシラヌイ」
学院長が窓の方を見ながら静かに言い放つ。
「確か私は待てと言ったはずだったが?」
振り向きこちらをみる学院長の眼差しは鋭い。
「すみません」
自然と謝罪の言葉が出てくると、学院長は俺の前のソファーに座った。
「これはいわば重大な校則違反だ。夜間の外出も禁じているからな。校則違反したものがどうなるか君も知らないわけではないだろう? シラヌイ」
「退学、ですよね」
学院長に逆らった時点で覚悟はしていた。ただ、今の俺はこの学院にいる目的なんて無い。甘んじて受け入れるつもりだ。それにどちらにせよ弥国へヒイラギは連れて帰られないといけない。場合によっては自主退学となるだろうから同じことだ。
ただ、一つだけ受け入れてはならない事がある。
「それはフラミィとエクレも該当していますか?」
夜間の外出はあいつらも同様だ。
「当然、校則違反ではあるな」
やはりそうか。ただ今回の件は本来弥国の問題だ。二人が罰を受けるのはとばっちりというものだろう。
とにかくここは粘り強く交渉していくべきか。
「とまぁ本来ならそう言いたいところだが。今回の件については功績が大きすぎる」
「え?」
学院長説得の算段を立てていると、思わぬ言葉が耳に届いた。口が咄嗟に聞き返すと、学院長はため息をつく。
「では誰も退学にならずに済むんですか?」
学院長は無言で首肯すると、一連の説明を始めた。
「教頭……マドマンは確かに大天才ではあるが法外の実験を多く行ってきた。だが奴の魔法学に関する貢献はあまりにも凄まじい。王もこれを黙認するしかなかった」
確かに奴が教科書を何度も塗り替えてきたとは聞いていた。だがそうなるとさらに大きな罪が目の前に現れる。
「だったらエクレやフラミィはともまく、俺は罰せられるべきでは? 何せ俺は奴を……殺しました」
確かにこの手で貫いたのだ、柔らかな心臓を。魔法学のさらなる進化をもたらすかもしれない重要人物をこの手で消したのだ。
だが学院長の口から放たれたのは予想外の言葉だった。
「何を言っているシラヌイ。マドマンは生きているぞ?」
「……え?」
マドマンが生きていた、だと?
「でも俺は確かにこの手でやつを刺し殺しました。今でもその感触は手に残っています」
「ああ、確かに君は重大なキズを負わせていたが、マドマンは心臓を貫いたぐらいで死ぬような奴じゃない」
「心臓を貫いても死なない?」
そんな事があり得るのか。
「私も詳しくは知らないが奴ならそれができるらしい」
「なんと……」
いやでもまぁ、奴ならそれも可能なのかもしれない。物理攻撃を封殺するような魔法も開発しているくらいだし。
でもだとしたら今奴は一体?
「まさか教頭に戻るなんて事は……」
「それは無い。奴は今頃厳重警戒の城の地下で隔離されているだろう。死なないとは言え傷は大きい。心臓というのは魔力をつかさどる器官でもある。恐らく今後まともに魔法は扱えない。だから恐らく一生地上にできることはかなわないだろうからそこは安心しろ」
「よかった……」
もう二度とあの面は拝みたくない。
「それで本題だがシラヌイ、神子についてだが」
神子という言葉に自然、神経が張り詰めた気がした。
「けがの功名というべきか、マドマンは神子を復元しただろう?」
復元という言い方は少し気に食わないが、大きな意味ではあっているので頷いておく。
「これは王からの勅命なのだが、神子の事は弥国側にもう少し伏せておきたいそうだ」
「……何故です?」
聞くと、いつも威厳に満ちている学院長の表情に珍しく影が差す。
これはただ事じゃないかもしれない。
「……悪いがこちらも立場があってな。まだ何も言う事はできないのだ」
またそれか。
心に靄がかかったような感覚がするが、俺の立場上あまり強い物言いは出来ない。
退学を停止したのはまさかそれが目的か?
一瞬疑念が胸の内に沸き起こるがすぐに振り払う。
「でもヒイラギはどうなるんですか?」
むしろこれが一番大事なことかもしれない。もし隔離なんて事になるのなら退学してでも断る。
「ああ、その事だが、神子にはうちの学院の生徒となってもらおうと思う」
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